めんどくさがりの冒険章
@YA07
第1話
冒険者を志す理由なんて幾らでもある。困っている人を助けたいから。成り上がりたいから。他に仕事を得られなかったから。……と、そんな風に様々な志を掲げた奴らが集ってくる冒険者だが、どうやら新米なら誰もが通る同じ道というものがあるらしい。
「ほえー。それが冒険者育成所ってわけっすか」
古臭い匂いのする冒険者ギルドの受付でそんな話を聞かされた俺は、なんとも腑抜けた声でそう言った。
受付嬢はそんな俺の態度にも動じずに営業スマイルを浮かべたまま、更にその補足をする。
「はい。冒険者は危険を伴う仕事ですので、まずは一年間養成所で冒険者のイロハを学んで頂くことになります。その際の費用はタダで宿泊施設や飲食も提供いたしますが、その分は授業という形で依頼をこなすことで差引という形になっております」
「手厚いっすねー」
「初心者の死亡率は著しく高いですから。こちらとしても、人員の損失は抑えたいのです」
「なるほどー。んじゃあその育成所ってやつ一つ」
「かしこまりました。次の入学日は三日後となりますので、それまでに養成所の方へと訪れていただければそれで大丈夫ですので」
「……あ、はーい」
俺的には「飯屋の注文かよ!」とでもツッコんでほしかったのだが、それも虚しく。事務的な態度を崩さない受付嬢にそう告げられた俺は、その足でそのまま養成所へと向かっていったのだった。
それから三日後。
どうやら冒険者というのはかなり人気な職業……かどうかは定かではないが、かなりの志望者がいる職業らしく、週一で養成所の入学日が設けられているそうだった。まあ、それも人の多いこの街ならではでもあるのだろうが。
「一、二、三……よし、入学希望者は全員揃ったな。それじゃあこれよりちっぽけな入学式を始めようと思う」
そんな小粋なことを言ったのは、筋骨隆々……とまでは残念ながら評価してやれない小マッチョな中年の男だった。
「俺がこれからお前らを一年間担当することになるガイアスだ。まあ冒険者になろうなんて奴は十人十色でな。大抵は揉め事ばっかの日々になると思うが、残念ながら同期や教師は時の運だから気に入らなくても一年間我慢して付き合ってくれや」
いきなり随分とぶっちゃけた話をぶち込んでくるガイアス。こういうタイプは、俺としてはかなり好印象だ。
ガイアスは俺たちからのまばらな拍手を浴びながら、バラバラに整列……いや、バラバラなのだから整列というのは正しくないが、とにかくそれなりに並んでいる俺たち四人を見て軽く笑みを浮かべた。
「んじゃ、お前らも……d左のやつから自己紹介を頼む」
そう言って目を向けられた第一の生徒。それはなんともやる気のなさそうな顔でボケっと突っ立っている───俺だ。
「どーもー。ダースでーす」
初対面くらいはな。と思い、身体の底からやる気を振り絞りだして笑顔を見せた俺だったが、そんな努力も空しく周囲の反応はポカンとしたものだった。周囲のそんな反応に俺も困って黙り込んでしまうと、俺の隣に立つ女が呆れたような顔を俺へと向けてきた。
「あなた、得手やスタイルはどういったものなの?」
「得手……?ああ、得意なことってことか?そうだなー、織物は得意だぜ」
「はい……?」
「おいおい、男が織物得意じゃ変かよ?」
それは偏見だぜ。なんて言ってやろうかと思ったが、よく周りを見てみると、その女以外も何やら不思議そうな表情を浮かべて俺のことを見つめていることに気がついた。
その意味が掴めなかった俺が一体なんのこっちゃと困惑していると、またも先程の女から苦言が呈されてくる。
「織物が得意なことに文句を言うつもりはないけれど、私が聞いたのは扱っている武器の話よ」
「武器?……あー、そういうことね。武器はまあ……なんでもいいんじゃないか?合わせるよ」
「……」
俺の発言にまたも絶句するその女。
俺と女のやり取りを見かねたのか、ガイアスが俺たちの話に割って入るように声を出した。
「あー、まあここにはずぶの素人が来ることもある。ダースも戦闘経験はないってことだろ?」
「そっすねー」
「そういうわけだ。もちろん素人には武器の扱いを一から指導してやるからダースも安心してほしいし、そっちのアンタも素人が足手まといになるような事態はこちらで引き起こさないように徹底するから安心してほしい」
「……わかりました」
ガイアスの言葉に納得を示すその女。変なこじれが生まれなくてよかった……と言いたげなガイアスの安堵した表情を見ながら、俺は内心で少し焦っていた。
(やっべー。なんかめんどくて肯定したけど、別に素人ってわけじゃねーんだよな……)
俺が「武器はなんでもいい」と言ったのは何も使ったことがないからという意味ではなく、どれもまあそれなりに扱えるからだったのだが……まあいいか。今更訂正すんのもめんどいし。
「それじゃあ次は私ね」
俺が内心でそんなことを考えているうちに話は俺に噛みついてきた女の自己紹介に移っていたようで、俺も考え事を振り切ってその女の話に耳を傾けた。
「私はカシー。こう見えても両手剣の使い手よ。流派は帝国式マクバ流」
「へー。珍しいな」
帝国式マクバ流といえば、相手の攻撃を弾くことに重きを置いた流派だ。マクバールという人が編み出したスタイルで、両手剣を扱うパワーと相手の体幹を見極める洞察力が求められるため、かなり難しいと言われている。しかも、守備的な立ち回りで地味だという理由と一対一に特化していることから使い手が少ない流派だったはずだ。
と、そんな事情から出たボヤキだったが、俺はカシーからは驚いたような視線を浴びることとなった。
「……素人のくせによくそんなこと知ってるわね」
「おー……まーな」
これについてはたまたま元同僚に両手剣マニアがいたから知っていただけなのだが、まあそんなことを騙る必要もないだろう。めんどいし。
「……それじゃあ次は僕が。僕はハスミって言います。戦闘は苦手なので、知識や細かいサポートでお役に立てられればなと思ってます。……あ、苦手とは言っても、参加する気がないというわけではないですよ!ただ今は自分にできることを模索中で……いろいろ手は出してみてるんですけど……」
隣のカシーのさらに隣。少し小柄な男がそう名乗ると、ガイアスは顎を触りながらハスミを頭のてっぺんから足の先まで見回した。
「……ふむ。色々ってのは何をやってきたんだ?」
「その……前衛に出るのは少し厳しいかなと思いまして、弓や魔法を少し……」
「ほう。魔法適性はあるのか」
「は、はい。一応水に適性ありなんですが、それもあんまり強くはなくて……」
魔法。それは大気中のマナを使って放てるものなのだが、扱える人間は一部だ。それも火水風土の四つの属性があり、大抵の人間はそのうち一つの適正しかない。さらにどこでも使えるというわけでもなく、それぞれの属性に適応したマナがある場所じゃないと使えないので、魔法というのは強大な力ではあるのだが賛否が分かれるものでもあった。
「まあ、それはこれから実戦で探っていこうや」
「はい!」
ガイアスの雑なまとめでハスミの話が終わると、次は更にその隣。最後の一人となる女の子へと視線が集まった。
「……」
沈黙する一同。
気持ちは痛いほどわかる。というか俺も黙ってるうちの一人だし。そもそも、ガイアスだって最初は一番右にいたこの女の子を見たはずなのに、急にこっちに向きなおして俺からの自己紹介を求めてきたからな。きっと触れたくなかったんだろう。
なんてったって、まずはその年齢だ。どう見ても冒険者に適している年齢路は言えない。ぱっと見だと十歳にも満ちているかどうかといったところで、その手には年相応なクマのぬいぐるみを抱え込んでいる。いやはや全くもって冒険者には不相応というものだ。
「……私の同期、碌なのいなくない……?」
カシーが隣でそんな言葉を漏らしてしまうくらいには、その女の子は……っておい、それだと俺も含まれてるじゃないか。
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