因果は巡る
真花
6
秋葉原の夜は二つの顔がある。一つは電気と電子、アニメとメイドに踊る表の顔、そこには現世を一時忘れるに足る夢と、引き換えの現金、装飾された欲望が満ち満ちている。今一つは貧困の顔。その尖兵と言うべきホームレスが今日もラジオを聴きながら、時間の過ぎるのを待っていた。待って何が起きると言うこともない。寒いのだ。夏になれば暑い。もしかしたら彼は生き永らえながら、ただ死を待っているのかも知れない。
「ヤス、食い物ないか?」
隣のダンボールハウスから出て来たカバが黒い顔で訊いて来る。何故「カバ」なのかは知らない。最初からカバだった。
「ねーよ」
「そっか」
カバはうろっと歩いてからどこかに行った。ヤスは自分も食料を探しに行こうか少しだけ思案して、でもまだ宵の口だ、ゴロリと横になる。ラジオから聞こえるのは秋葉原の街よりもずっと煌びやかな世界、ヤスはボリュームをちょっとだけ上げて、D Jの声に耳を澄ます。いずれ流行の歌が流れた。
「糞みたいな歌だな。なのに何遍も聴いてると懐いて来ちまう。流行は好かれるからするんじゃなくて、何回も聴かせることで作られてるんだな」
言ってみて自分が賢者になった気分になって、ふふん、と鼻を鳴らす。ハウスの横を自転車が通って、風が引っ張り込まれる、ああ寒い、ヤスはダンボールの継ぎ目を確認すべく起き上がった。起き上がると、そこにスーツ姿の男が立ってこっちを見ている。なんだぁ? と出掛かった声を慌てて飲み込む。男はその手にマックの紙袋を持っていたから。万が一の可能性を潰さない、それがここで生き残るコツだ。
ヤスはじっと男を見る。男が半歩近付いて来る。
「すみません。これ、貰ってくれませんか?」
男は獲物を差し出す。一も二もなくヤスは答える。
「もちろん」
「ありがとう」
「でもどうして?」
「僕には不要なものだからです。……それじゃ」
男は踵を返すとさっさといなくなった。紙袋を開けて中に手を突っ込むとまだ熱くて、まさか毒なんて入れてないだろう、もし入ってたとしたら俺の運が尽きたから死ぬ、それだけだし、ヤスは左右の別のホームレスが現場を見てなかったことを確認して、我が家の中で温かいご飯を独占した。
(続く)
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