【1-9】後輩と一緒に
「
「「「すみませんでしたぁ‼︎」」」
廊下にて三人仲良く横に並び頭を下げる。
レオ先輩とヨムは戸惑っていて、会長は呆れたようにため息を吐いた。
「今回は、許してやるが。次は気を付けろよ」
「「「はい‼︎ 」」」
大きくはっきりとした返事に、「元気だけはいいですね」と教官が苦笑いしつつ離れていった。
あの後、
幸いにも大した怪我はなかったということもあり、櫻島を助けたという理由もあってか、今回は厳重注意で済んだようだ。
「で、時雨。体調は大丈夫か? 能力使ったんだろ?」
「え、あ、まあ一応。けど、今のところ大丈夫ですけど」
「そうか。でも念の為と言って先生がバイタルチェックの予約入れてくれたみたいだから、今から理科棟に行けよ?」
「えぇ……」
面倒くさいなと思いつつも渋々返事をする。するとヨムが「あの」と手を挙げる。
「時雨先輩の付き添い、私がしてもいいですか?」
「ん? ああ、いいぞ。助かる」
「ありがとうございます!」
会長の返事にヨムは笑みを浮かべる。そして俺を見て「行きましょうか」と言った。その様子に会長達はポカンとしていた。
「……え、何? 何なの?」
サナの言葉が虚しく廊下に響き渡る。その数秒後、「さあ」とレオの声が響いた。
日向だけはニコニコしていて、手を振って見送った。そんな会長達に気にしつつも、俺はヨムと二人廊下を歩く。
バイタルチェックは別に当人一人でもいいのだが、付き添いも一人までならOKとなっていた。
「何でまた付き添いに?」
「えと、この前のお礼です」
「この前? ……ああ、不良に絡まれてた時の」
「はい」
渡り廊下を渡った先にある理科棟に入る。
校舎というよりは研究所や病院のようで、周りには白衣を着た職員が沢山いた。
いくつもの自動ドアを進んだ後、専門検査機関の受付で学年と名前を言う。
「時雨レイ君ね。それと、貴方は付き添い?」
「は、はい」
「学年と名前は?」
「い、一年のヨム・ラウントリーです」
「はい、分かりました。今回はバイタルチェックだけだからヨムさんは待合室で待っててくださいね」
「わ、分かりました」
ヨムは緊張気味に返事をしているが、待合室待機なので別に何もない。
「暇だったら、先に帰っていいんだぞ?」
「い、いえ。大丈夫です! 待ってます!」
「あら、そう……」
ふと受付の職員を見ると、微笑ましそうに見つめていた。これは完全に勘違いされているような……。
(まあいいか)
ヨムと別れた後、沢山の扉がある中の一つの部屋に案内される。
慣れたように検査用の服に着替え機械に囲まれたベッドに横になると、職員によって身体中に機械が取り付けられる。
「リラックスした状態でいて下さいね」
「はーい」
肩の力を抜いて目を閉じる。
(今日は疲れたな……)
珍しく最後まで倒れずにいられた。けれども、それは活躍した上での話じゃない。
(何も、出来なかった)
引き金をひけなかった。いつもそうだ。だから無理してまで能力に頼ってしまう。それなのに。
(あと少しで、あいつを撃とうとした)
引き金に触れていた右手に手を重ねる。怖かった。でも、本音をいうと少し嬉しい自分もいる。
(あいつ、ちゃんと俺を覚えてくれてたんだ)
とはいえ、それはそれで胸が痛むのだが、今回の件できっとより傷付いたんじゃないかって思ってしまった。
怯えた表情にも見えたユマの顔を思い返しながら、ぐるぐると考えてると、機械から終了の合図が鳴った。
「ハァ……」
息を吐いて、目を開ける。チェックは終わったようだ。結果はどれも正常の値だったようで、最後に職員は笑って言った。
「今日一日は安静にしていてくださいね」
「了解です」
起き上がり、制服に着替える。短いようで長い時間が経っていて待合室に出ると、ヨムが壁に寄りかかって眠っていた。
「ヨムー?」
「ん……」
(爆睡だな……)
可哀想だが起こそうと思って、肩を揺らす。
するとヨムの目が開き、俺を見ると一瞬怯えた表情を浮かべた。
「っ⁉︎ ……あ、時雨、先輩」
「大丈夫か?」
「はい……少し怖い夢を見ちゃって」
すぐに笑うがその肩は微かに震えていた。ヨムはその震えを隠すように話を変える。
「あの帰りにコンビニ寄りませんか? 私晩ご飯買わなきゃいけないし……」
「晩ご飯?」
「はい、私一人暮らしなので」
「え」
実際に家は見ていないが、確かあの住宅街はどれも一軒家だらけで大きかった筈だ。
「シェアとかか?」と聞いたが、どうも本当に一人で暮らしているらしい。
「寂しくないのか?」
「はい、大丈夫です」
「そっか……」
なんか心配になるな。そう思いつつも口にはしなかった。荷物を取りに教室に向かいそして裏門から帰る。
会長達はとっくに帰ったみたいで、携帯には会長達からの連絡が入っていた。
「先輩は、いつもこっちから帰るんですか?」
「ああ、まあ。寮が近いしな」
「寮、ですか」
夕焼けの中二人で歩いていく。今日はキャスタル先生の姿は見えず、そのまま洋館へと続く道を通り過ぎて門を出る。
時間を確認しつつも、ふとヨムを見て話しかける。
「なあ、もし良かったら、寮寄らない?」
「えっ?」
「ばあちゃんに言ったら何か食わせてくれるかもしれないし。な?」
「えっ、でも……」
「大丈夫だって。行こうぜ?」
ヨムは少し考えて頷く。「よし、決まり」と言って、そのまま寮に向かった。
※※※
寮は丁度夕食の準備中で、ばあちゃんに事情を話すと快くヨムの分まで用意してくれる事になった。
「今日は任務でさぞや疲れただろう。いっぱい食べてからお家に帰りなさい」
「あ、ありがとう、ございます」
ヨムは嬉しそうにお礼をいう。ちなみに今夜のメニューはカレーライスとサラダだった。スパイスの香りに空腹をより感じる中、俺は荷物を置きに自室に向かう。
ヨムは談話室で待っていると言っていた。
(疲れた……)
制服から私服に着替えた時、ベリと頰に貼っていたガーゼが剥がれる。
テープの粘着力が落ちていたようでそのまま完全に剥がすと、机にある救急箱から新たに絆創膏を取り出して貼り付ける。
携帯をポケットに突っ込み部屋を出ると、日向も同じく部屋から出てきていた。
「よっ。晩飯行くか? と言ってもヨムも一緒だけど」
「え、ヨムさんも一緒ですか? それじゃ、今日は一層賑やかですね」
「だな」
そう笑い合って、食堂に向かう。
途中でヨムと合流して、それぞれカウンターから夕飯をお盆に乗せた後、テーブルに座った。
『本年度の予算計画ですが、人災復興に———』
「……そういえば、なんでわざわざ『人災』って言うんでしょうね」
テレビから流れるニュースに対して日向が呟くと、「さあな」と俺は答える。
「事件事故、じゃダメなんですかね」
「それだとなんかこう……文がおかしくなるからじゃね?」
「んー……」
日向は納得しなさそうにカレーを口にする。ヨムはそんな俺たちのやりとりを見つめながら、ふと呟いた。
「多分、それは大昔の話と関わりがあるんじゃないでしょうか?」
「大昔の話? それって……あれか、
「はい。……神無歴の頃、地面が突如揺れたり、山から火を噴いたり、とてつもない風が吹いたりという話があるじゃないですか。多分それから取ったんじゃないかなって」
「あー……あれは確か……。さい、がい……だったっけ?」
その言葉に、日向も「あー」と納得する。つまり、その奇想天外みたいな事ではなく、あくまでも人の手で起こったさいがいだから『人災』じゃないか? という事だろう。
「成る程……。ありがとうございます、ヨムさん」
「い、いえ。あくまでも私の意見なので、正しいかどうかは……」
「まー、でも意外と合ってるんじゃないか?」
まず、神無歴の事なんてかなり前の話だから、知ってるとすればあの人しかいない。
(キャスタル先生とかに聞いてみるかな)
明日の朝には忘れてるかもしれないが。
心の中で苦笑いしながらも、二人と話しながら夕飯を済ませた後、日向と一緒にヨムを家まで送った。
「またな」
「お気をつけて!」
「先輩達こそ!」
ヨムの背中を見送り、やがて見えなくなった後、寮へと戻る。
その途中、病院近くの大きな道で偶然にも前から見慣れた姿が見えた。
「あれ、櫻島さんじゃないですか」
「だからその名で呼ぶなって。仕事じゃないんだから」
「す、すみません……」
日向が謝り、櫻島はため息をつく。病院帰りのようで、右腕は首から吊り下げられていた。
「腕、大丈夫なのか?」
「ん、まあね。ただ、ギター弾けないけど。おかげでしばらく活動休止だよ」
「あ、あー……そう、だよな」
「……んで、お前ら今暇?」
櫻島に聞かれ、俺たちは顔を見合わせる。
時刻は午後八時半。門限は午後十時までなのでとりあえず頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます