【1-7】思わぬ再会
木々が生い茂り、根っこなどに足をとられて進むのに苦労しつつも暗い森を走っていると、徐々に光が見えてきた。
「……なんだ?」
微かに聞こえる悲鳴。銃声も聞こえる。
俺は拳銃を手にして少し進むスピードを落とす。サナと
すると、前方から負傷した
「何があったの⁉︎」
サナが声を掛けると、生徒の一人が震えながら「カ……カ……」と呟く。
か? なんだそれは? そう思っていると、「
「神霧学園!」
それを聞いて俺たちは顔色を変える。会長に通信を繋ぎ報告すると、一時退避を命じられた。
よくよく考えると、偵察の方が危険なのでは? 命令されてから何となく感じてはいたが、やはり間違いではなかったようだ。
「一旦退きましょう!」
「そうだね!」
二人と共に来た道を戻ろうとする。と、背後から
「⁉︎」
「い、今の……」
「っ、先に、行っててくれ!」
「ちょっと⁉︎」
サナの制止を振り切り、俺は向かう。
あんな態度をされたのに助けに行きたいだなんて、やっぱり櫻島の能力のせいなのだろうか。でも、それでもやはり見放せなかった。
(死にたくない、死にたく……ない。けど、人が死ぬのは……)
過去の思い出からの後悔が膨らみ、喧騒がどんどん大きく聞こえてくると、目の前に見える森の出口に向かって飛び込む。
すると、右腕を押さえながらも櫻島が誰かを見つめていた。その視線の先には見覚えのある姿があった。
「……っ、ユ、マ」
「⁉︎……貴方」
花の彫刻のある剣を持ち、白い髪を揺らす彼女は俺を見ると目を見開く。
そしてその綺麗な顔を歪ませて剣先を俺に向けた。
「な、んで……」
「それは、こっちのセリフよ。なんで貴方がここにいるの?」
「……っ」
数年前に向けられたあの瞳。明らかに憎悪が篭っていて、背後に退がってしまう。
そんな俺に向かって誰かが発砲すると、その場に尻餅をついてしまった。顔を上げれば、ユマの背後に拳銃を持った生徒がいた。
「
「先輩‼︎」
サナと日向がやってくる。ユマは剣を下げる事なく俺の元に近づいてきた。
銀色の刃が太陽の光で煌き、頭上に振り下ろされた瞬間、サナが間に割り込み刀で防いだ。
「
「まさか、貴方とここで、出会うなんて」
「そんな事もあるでしょうね。何せ、私達は学兵よ?」
そう言って、ユマの身体に謎のオーラが漂い始める。能力かと思ったが、何かが違う。
「……っ⁉︎」
「ごめんなさいね。九恵さん」
ユマの言葉に俺は反射的に能力を使う。
風でユマを押し倒し、サナを庇いながら拳銃を手にすると銃口を向ける。そしてそのまま引き金に指を掛けるが、それ以上の事がどうしても出来なかった。
倒れたユマはすぐに起き上がり、銃口を向けられる事に気がつく。
「っ、
「……‼︎」
そばに居た神霧学園の男子生徒が声を荒らげて、俺に銃口を向ける。
「やめて‼︎ 」
「っ⁉︎」
ユマの声に驚き狙いが外れたのか、銃弾は頬を掠めて背後の地面に埋まる。
ユマは頭を抱えて震えていた。
「し、真燃、様?」
「退きましょう……」
「え⁉︎」
「お願い、退いて」
「わ、分かりました……」
様子の可笑しいユマに俺は、銃を手離して立ち上がる。
「ユマ……」
「っ、二度と、顔を見せないで‼︎」
「‼︎」
今にも泣きそうな顔でユマは言った。俺はその場に立ち尽くす。
サナが呆然と俺とユマのやり取りを見つめていたが、日向の声で我にかえった。
「時雨先輩、九恵先輩、だ、大丈夫ですか?」
「……あ、うん。私は。ただ……」
「……」
ユマは震えていた。俺を完全に拒絶していた。それもそうだ。あの傷はそう簡単に癒えるものじゃないから。
だから俺は追いかける事も、気を掛けてやる事も出来なかった。
ユマ達神霧学園の生徒達が退いていった後、無表情で櫻島が歩いてくる。
「櫻島?」
「お前と真燃に何があったか知らないけどさ。あいつ時折情緒不安定になるんだよ。その、ほら、例のアレがあったから」
気まずそうに櫻島は呟いた。
押さえていた右腕を見れば、撃たれたのか赤く濡れている。それに気づいたサナがハンカチを取り出して縛った。
「っ、いだだだ……‼︎ お前さ、もうちょっと、優しく出来ないかなぁ⁉︎」
「うるさい、黙って縛られてなよ」
二人のやりとりを眺めていると、傍に居た日向が「例のアレ」と呟いて表情を曇らせる。
サナも知っているのか複雑な表情を浮かべていた。
「事故の事か?」
「そうそう。あの事故、領域に限らず大々的に連日放送されてたからな」
縛られた腕をさすりながら、櫻島は神妙な表情で話し出す。
「だからと言って、アレはないと思うけどな。あの事故から何年経ってると思うんだよ」
「……何年経っても、ああいうのは割り切れないよ」
サナがそう言って、足元に落ちていた拳銃を拾い上げると俺に渡す。
「でもさっきのは、流石に私も怒る」
「え、なんで」
「なんでって……当たり前でしょ」
「……?」
首を傾げると、サナはジロリと見つめて俺の頬を撫でた。
ピリ、と痛みがして顰めると「戦場でボーッとした事」と、サナは言う。
「何があっても、ここは戦場なんだからちゃんと周りを見なきゃ」
「……ごめん」
「ま、別にいいけど」
拳銃を受け取り、ホルスターに収める。
自分達以外人気が無くなり静まる中、どこからか戦闘終了のサイレンが鳴り響いた。
「全く、こんな戦い何の為にしてるんだろうね」
櫻島はポツリと呟いてサナの肩に腕を回す。
サナは「なっ⁉︎」と声を漏らし、嫌々と櫻島の腕を退かした。
「酷いな。俺、結構重傷なんだけど……」
「そうだと思って今救護班呼びました!」
「わー、日向君は優しいなぁ〜! ここにいる先輩達よりも中々いい子で使えるじゃん!」
「……」
サナの機嫌が悪くなる。だが、櫻島はそれを気にせず俺を見た。
「ま、時雨も助けに来てくれたようだし、ありがとな」
「あ、ああ……。特に何も出来なかったけど」
「それは言えてる」
「うっ……」
「けど、能力の効果が切れても、助けに来てくれた。それは、嬉しかった」
一瞬、櫻島は辛そうな表情で笑った。
何故そんな表情で笑うのか。それが気になりつつも、俺も苦笑した。
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