Episode.6 敵の根城
その場所は西というよりは北西の方角に位置していた。
彼らが地図を簡略化していたのは、道なりに行けば辿り着けるということと、「近くまで行けばその場所ははっきりと視認できる。」という理由からだそうだ。
ミーナはルカの案内で夜の道を歩き続ける。
『気を付けろよ、ミーナ。いつ怪物が襲ってくるとも限らん。この暗さじゃと
「うん、解ってる。」
案の定、二人は敵の根城に向かう途上で三回ほどカイブツに襲われた。
人間に擬態したカイブツはすばしっこく、まともに戦っては人間では勝負にならない。
それ以外の、見慣れたカイブツは巨体の分スピードは遅い半面、二十人力のパワーがある。
しかし、ミーナはこれらのカイブツを難なく斬り殺していく。
その凄まじさにはルカも驚愕を隠せなかった。
「ミーナ、
「ええと、うんまあ、そういうことかな。
ミーナは考えている。
自分の強さは妖刀由来のものだと。
しかし、彼女は妖刀を持っていなかった時でも包丁一つでカイブツの強靭な腕にその刃を立てたことがある。
ミーナの力は、妖刀ではなく彼女自身のものなのだろうか。
そうこうしている内に、二人は随分夜の町を進んだ。
景色も変わり、建物の存在も
道の外側ではかつて作物を育てていた名残が広がっているが、二人はそれが何なのか知る由も無い。
「もう少ししたら見えて来る筈なんだけど……。」
ルカは地図を睨み、頭をかいて呟く。
「もう少ししたら見えるって、こんな何も無い場所に?」
「ああ。実は奴の根城にはちょっと変わった事情があるんだ。」
「変わった事情?」
広がった視界を月と星だけが照らし、建物の並んでいた少し前までよりも幽かに明るくなった道を二人は進んでいく。
しかしある程度行くと、ミーナは違和感を覚え始めていた。
何も無い筈なのに、先の道には影が差している。
前を行くルカは緊張から息を吞む。
「近付いて来たぞ……。」
「何に?」
「『
「『遺跡』……?」
二人の前に風景とは場違いな巨大な人工建造物が頭を出した。
あれこそが『
「大きな建物……。」
『大学か、それとも研究施設か何かの跡地かの。施設の巨大さと僻地に建つ立地条件を鑑みればそれが最もあり得る線じゃろう。』
妖刀は分析するが、相変わらずミーナには何のことやらさっぱりわからない。
「昼間から色々詳しいけれど、妖刀のお爺さんはまだこの文明があった時代の人なの?」
『おそらくはの。』
そんな会話をしていると、ルカは一番大きな建屋の入口らしき
『どうやら目当ての敵親玉はこの設備を完全に掌握しているわけではなさそうじゃ。』
「どういうこと?」
『この遺跡とやらの設備が稼動しているのなら、あの小僧のような真似をすれば警報が鳴り、侵入への対処が作動すると思われるからの。』
妖刀と問答している内にルカは人一人通れる穴をあけ、ミーナに入ってくるように促していた。
ミーナはルカの後に続き、暗い廊下を歩いて行く。
「他にも建物は沢山あったけど、ここで良いの?」
「間違いない。
二人は脇の扉から何か飛び出してこないか、細心の注意を払いつつ廊下を進んでいく。
しばらく歩いて行き、角を曲がったところに仲が明るい部屋が目についた。
「何だろう?」
「ミーナ、
扉の隙間から中を覗き込むルカだが、次の瞬間彼は息を吞んで硬直した。
「ねえ、何があったの?」
「静かに。何でもないよ。ここに『
どうやら目当ての親玉はいなかったが、それ以外に危険な敵が潜んでいたらしい。
しかしそう言われると自分の眼でも確かめたくなるのがミーナという少女である。
彼女はルカの下から部屋の中を覗き込んだ。
そして、彼女は中の光景を見て絶句した。
『なんとまあ、そういうことかい。』
代わりに妖刀がそこで行われていることを二人に解説する。
『人間の細胞から作った遺伝子の複製じゃの。これと怪物を組み合わせて、人工的に新たな怪物を生み出しとるということか。どうやら
中にあったのは巨大な瓶の中に入れられた人間にカイブツの体の一部を組み込んだような不気味な生き物、それも何種類も違った組み合わせが液に漬けられてその身体を震わせていた。
そして中にそれを管理してると
彼らは瓶の下に取り着いた装置を操作したり、紙の束の様なものを持ち歩いたりしていた。
そんな中の一体が、ミーナたちのいる扉に向かって歩いてくる。
「ヤバい! 逃げよう!」
ルカの小声の提案にミーナは黙って頷き、二人はその場を去ろうとする。
しかし振り向いた瞬間、そこには別の人型のカイブツが立ち塞がっていた。
「しまった!」
『鉢合わせてしもうたか!』
カイブツはミーナやルカよりはずっと大きいが、見慣れたカイブツと比べれば小柄だった。
さしずめ、大人の男よりも二回りほど大きい体格をした人間とサルの中間の様な毛皮と充血した三つの眼、そして鋭い牙と爪を持ち合わせていた。
『ミーナアアッッ‼』
妖刀は叫んでミーナに指示を出そうとする。
しかし、彼女はその前に既に動いていた。
目の前の敵を瞬殺、胴体から真二つに斬り裂き、さらに部屋の扉の方へと振り返る。
部屋の中に敵が二体いる事が判っている以上、目の前の一体に躊躇している隙に後から挟み撃ちの形にされては堪らない、という咄嗟の判断だった。
このまま真っ二つになったカイブツの死体を踏み越えてその場から逃走する。――独りならばそういう首尾で逃げおおせただろう。
だが、この場にはそういうセンスの無いルカが一緒だった。
ミーナは前方のカイブツを踏み越えようとした時それに気づき、作戦の変更を余儀なくされた。
部屋の中から、騒ぎに気付いたカイブツが入り口に迫って来る。
しかし、扉は人一人半の幅しかなく、カイブツは一体ずつ出る事を強いられる。
ミーナはまずルカの首根っこを掴んで引っ張り、扉の前から避難させる。
そして一体、カイブツが扉から出て来た所を前後に一刀両断。
残り一体のカイブツは怯み、部屋の中に留まっているが、これに対しては刀を投げて胸を一突きにする。
こうしてミーナは一気に三体のカイブツを斃してしまった。
最後に
だが、カイブツは奇妙な反応を示す。
「ダーク・リッチ……サマ……ケンキュウ……マモル……。」
何やら末期に拙いながら人間の言葉を喋るのを聞き、ミーナは途端に
その一瞬の隙が命取り、倒れたカイブツは最期の力を振り絞りミーナをその凶爪で引き裂こうとする。
ルカが鉄パイプでカイブツの腕を振り払い、頭を潰して止めを刺さなければ危ない所だった。
「ごめんルカ、ありがとう。」
「いや、
最後はルカに助けられたが、ミーナのカイブツ三体に対する始末は驚くべきものだった。
彼女が刀を拾ったこと自体がつい先日で、それまでは単なる冒険好きの少女だったと言っても、ルカは信じないだろう。
『ミーナ……
妖刀もミーナの戦いの才能を認めざるを得なかった。
一方でミーナとルカは部屋に安置された瓶の中の死体にその関心を向けていた。
「『
ルカは先程止めを刺したカイブツが人語を話していたことから推察していた。
確かに、ただ強力なカイブツが欲しいのであれば人間などという弱い生き物を攫う必要は無い。
「でも何の為に?」
ミーナが口にした疑問の答えはルカも持っていなかった。
『ミーナよ、敵が何を考えていようと関係ない。重要なのは、そ奴の狙いが人類にとって害を為すという事じゃ。』
「そうだね……。『
ミーナとルカは二人でこの部屋に安置された瓶を破壊した。
瓶から零れ出た人間に似たカイブツの子供は苦しそうに呻いた後、動かなくなった。
『ミーナよ。此処は一先ず、今居る部屋で待ち伏せをするのが良かろう。お前さんたちが破壊したものが研究成果なら、ボス本人が見回りに来る筈じゃ。その時、この光景を見て狼狽した隙を突き一気に畳みかけるのが得策じゃと
ミーナは内心この設備をもっと探索したいと考えていたが、ここは妖刀の言うとおりにする方が良いだろう。
今言われた内容をルカに伝え、二人は部屋の中に身を潜める事にした。
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