レンタル17・孫の未来へ
近所の葬式から戻ってきたルーラーは、店をひばりに任せて二階の工房に引きこもる。
「さて。久しぶりに作るから、手順の確認から始めるか。魔導具制御術式展開‼︎」
──ブォン
右手を軽く振り、目の前にモニター状の制御術式を展開する。
普段は
一般的に普及しているものは、大体は
「ふむ。素材は一回分ギリギリしかない。使い捨てなのが痛いところじゃが、まあ、悪用されるわけでもないしなぁ」
アイテムBOXから素材を取り出し、丁寧に机の上に並べる。
それらを一つ一つ、丁寧に加工する。
魔力を用いた魔導錬成による加工ではなく、一つ一つを手彫りしながら。
汎用型の魔導具ならば、魔力式による錬成で事足りるのだが、今回は素材が希少かつ高魔力体である。
ルーラーの魔力でも、僅かなズレにより失敗する可能性があるから。
「ふう。まあ、明日の朝までには間に合うじゃろう」
途中でひばりがやってきても、ルーラーは部屋から出ない。
部屋全体が儀式テーブルのようになっているので、ルーラーは魔導具が完成するまでは出ることができない。
そのまま日が暮れて、朝日が昇るまで作業を続ける。
そして窓から朝日が差し込むころ。
──コトン
机の上に完成した『言伝の皮紙』を乗せる。
「流石に、徹夜は厳しいのう……と、完成度は100点満点で言うなら86点というところか。まあまあの出来じゃな」
より緻密な細工を施せば、まだ完成度は高くなる。
もっとも、この『言伝の皮紙』を作るのは死霊術師の領分であり、大賢者のルーラーでも高難易度である。
「さて、確か十時にくる手筈になっていたはずじゃから……少し休むとするか」
完成した
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──オールレント、十時
カランカラーン。
入口の鐘がなり、遺族の人たちが集まってくる。
すでに身支度を整えたルーラーは、彼らを喫茶コーナーへと案内した。
「ルーラーさん。例の宝の地図、何か分かりましたか?」
「いや、わしじゃわからん。だから、直接地図を書いてもらうことにした」
──スルッ
『言伝の皮紙』をカウンターに広げると、遺族である息子に話しかける。
「ここに、遺骨の灰をひとつまみ、垂らしてくれるか?」
「はい、連絡を受けているのでしっかりと持ってきています……」
小さな和紙に包まれた遺骨の灰。
それを摘んで皮紙の上に垂らす。
すると、皮紙が淡い緑色に輝く。
「どれ、問いかけてくれるか? こればかりはわしではダメじゃからな」
そう説明をすると、孫たちが一斉に皮紙に向かって叫ぶ。
「じぃじ、たからのちずってなーに?」
──ブゥン
すると、皮紙に焼けたような黒い線が次々と浮かんでくる。
普通ならば言葉が浮かび上がるのだが、今回はしっかりと地図が浮かび上がった。
「これって、遺言状にあった山だよな?」
「そうそう。金に困ったら売っても構わないが、できるなら自然のままで保存して欲しいって話していたやつだよ」
「ここの印、ここに宝があるのかしら?」
地図の一箇所に、小さなバツ印が付いている。
万が一があったら大変だと、息子たちが地図をスマホで撮影。
「ルーラーさん、ここに何かあるっていうことですか?」
「さあ、な。わしに分からんが、行ってみたら何かわかるんじゃないのか?」
今の季節は冬。
地図の印のある場所は、近くの道路から山を登るように徒歩で進まなくてはならない。
距離にして100メートル程であるが、斜面のために険しく、積雪も深いので冬場にそこに向かうのは不可能。
「雪が溶けたら、行ってみよう」
「そうだね。親父が残した何かがあるのだろうから」
「そうしてあげると良い……と、なるほどなぁ」
皮紙の地図が消え、文字が浮かび上がる。
『兄弟、仲良くな』
それを見て、改めて涙する子供たち。
やがて皮紙が燃え上がり消滅すると、ルーラーに魔導具の代金を支払い、帰宅していった。
「……なあルーラーさん。お宝ってなんだと思う?」
カウンターではなくボックス席でコーヒーを飲んでいた朽木と飯田も、興味津々に問いかけてくる。
「さあな。わしには分からんよ。でも、飯田さんなら、この地図を見て理解できるんじゃないか?」
サラサラっとメモ紙に地図を書く。
すると、飯田は腕を組んで考えてから、一言。
「あ〜、そうか、そういうことか……理解したわ」
「なんじゃ飯田、わしにも教えてくれ!!」
「まあ、そのうち……な」
「なんじゃそりゃ!!」
いつものように喧喧囂囂と口喧嘩っぽく話し始める二人を見て、ルーラーはこの大切な縁も守りたいと考えていた。
………
……
…
雪が溶けて春。
ルーラーの元に、遺族の一人、長男が孫を連れてやってきた。
「ルーラーさん。父さんの宝の地図の件ではお世話になりました」
「じぃじのらたからもの、持ってきたよ!!」
──ガタン
その声を聞いて、朽木たちも先から立ち上がると、ルーラーの元にやってくる。
そして孫が小さな袋をカウンターの上に置いて広げると、ルーラーは静かに頷いた。
孫たちの未来のため。
自然を残してほしいという、老人の残した最後の遺産。
たからのちずは、それを証明していた。
「なるほど。こっちは行者ニンニク、こっちは蕗の薹」
「山わさびもあるぞ、すごく立派なやっだな」
「たしかに。これは宝だな」
「はい。親父が俺たちに残してくれた、手付かずの自然…それが、宝のようです」
満足のいく言葉に、ルーラーも静かに頷いた。
そしてその年の秋。
大量の舞茸を持ってきたときは、ひばりや朽木たちがまさに踊るように喜んでいたのだが、それはまた、別の話。
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