レンタル16・じいじのたからもの

──ポクポクポクポク

「ぽくぽくぽくぽく……」


 木魚の音に合わせて、子供たちが体。左右に振っている。

 今日は町内会館で、葬式が行われている。

 近所付き合いもあるので、ルーラーは正装……黒地に金糸をあしらったローブを身につけて参加。

 日本の葬式の風習やルールについては、あらかじめひばりから説明を受けているので、しっかりとお焼香も済ませている。


 そもそも、故人は落語や漫才が好きだったので、自分の葬式も湿っぽくならないようにしてけれど遺言を残していた。

 そのためか、参列者も式の前には悲しむというよりも故人の昔話に花を咲かせていた。

 そんなこんなで二時間後。


 無事に葬式を済ませて、ルーラーが祭壇の前で頭を下げる。


「おまえさんにも、世話になったからなぁ。あの世でも達者に暮らしてくれ」


 日本式に手を合わせる。

 どこの宗派かはよくわかってないが、周りが皆、そうしているのでルーラーも手を合わせる。


『まあ、先に行って待っているわ。ルーラーさんにも世話になったから、先に居場所を用意してやるぞ』

「いや、そこまでせんでも良い。あの世でのんびりとしておれ!!」

『そうだな、そうさせて貰うわ』


 大賢者の使える魔術の中には、神聖魔法がある。

 このような葬式などでは、ルーラーは故人を脅かさないように【癒しの魔力】を身に纏うことにしている。

 だが、それは結果として、幽霊となって成仏する前の故人との会話を可能にしてしまっている。

 そして、ルーラーの問いかけに返答を返す故人の声を聞いて、参列者たちは呆然としていた。


「おいおいルーラーさん。それって魔法なのか?」

「なんで亡くなった田辺が話しているんだ?」

「……おおう、霊会話術式スピークウィズデッドの事か。いやすまん、向こうじゃ普通なので忘れておったわ」


 あっさりと告げるルーラー。

 そして故人の家族たちが慌てて祭壇に駆け寄ると、亡くなった祖父との最後の別れ話を始めている。

 これは邪魔したら悪いと思い、ルーラーは朽木たちの元に移動するのだが。


「じぃじの宝の地図!!」


 祭壇にいた孫の一人が、そう問いかけている。


『あ〜。あの地図の事か。あれは大切な宝物の地図だから、おまえたちにも教えておかないとならないよなぁ。あの地図……は……』


 そこで言葉は途切れた。

 返事が返ってこないので、慌ててルーラーの元に駆け寄ってくるのだが。


「まあ、時間じゃな。わしからも見えないし、言葉も繋がらん。日本式で言うなら、南無南無じゃ」

「南無南無!!」


 ルーラーの言葉に子供たちも慌てて手を合わせてお祈りする。

 だが、祖父の遺した遺産の中で、宝の地図というのがあることを、先ほど初めて知らされたのである。

 遺言状には存在しない、宝の地図。

 洒落や冗談が好きな故人が残した宝の地図が、果たしてなんであるのか。

 遺族たちも興味津々であるのだが。


「ルーラーさん。おじいちゃんの話していた『宝の地図』ってわかりますか?」

「いや、さっぱり。朽木さん、飯田さん、二人の方が詳しいのではないのか?」


 そうルーラーが話を振るもと、朽木も飯田も腕を組んで考える。


「そうは言ってもなぁ……飯田、おまえの方が詳しいだろう?」

「……そういえば、秋になるちょっと前に、そんな話をしていたような気がするんだが」


 飯田が何かを思い出したかのように告げると、家族が前のめりにやってくる。

 宝の地図がなんなのか?

 遺産目当てではなく純粋に気になったのである。

 しかも、その存在は自分達ではなく孫だけが知っているとなると、子供たちと宝堀りごっこでもしていたのかと気になってしまう。


「そうだ、秋には宝物を取りに行ってくるって話していたんだよ。でもその前に体を悪くして、それっきりだったからなぁ……」

「秋にですか? 飯田さんはどこか聞いていないのですよね?」

「いやぁ、流石にそこまでは。ルーラーさん、何かこう、そういうものを探し出す魔導具はないものか?」


 今日は朽木ではなく飯田の無茶振り。

 でも、ルーラーとしても故人の残したという宝の地図に興味はある。


「孫にしか伝えていない宝の地図……聖剣か? 孫に勇者の血筋でも?」

「「「「「「無い無い!!」」」」」


 ルーラーとしては真面目に、周囲からはナイスボケという感じでツッコミを入れられる。


「しかしなぁ……宝の地図、そのお孫さんは見たことがあるのか?」

「ない!! でも、いつか僕にだけは教えてくれるって話していた!!」

「うむ、完全なノーヒント。ここから宝を見つけろというのは、ほぼ不可能なんじゃが……」


 いくら大賢者でも、できることとできないことがある。

 そしてこういう時には、ルーラーはとんでもないことを思いつく。


「仕方ない。直接本人に尋ねるとするか」

「「「「「「はぁ?」」」」」


 すでに故人は成仏したはず。

 それなのに、どうやって尋ねるのか。

 その場にいた人たちの興味は、その一点に集められていた。


「まあ、こういう時のための奥の手があってな。準備が必要じゃから、明日まで待ってくれんか?」

「は、はい。よろしくお願いします!!」


 家族が頭を下げるので、ルーラーも本気で取り掛かることにした。

 そして葬式が終わると、ルーラーはオールレント二階の工房に急いで引きこもり、あるものを作り始めた。

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