剣爛テヱマパーク-異世界でなくても剣に生きるのは楽しいです-
王子とツバメ
0.天才東洋人剣士、異郷の天使と出会う
異世界チートで立身出世、というのも存外退屈だ。
「ははは、多少は楽しませてもらったぞ。強くなってからまた来るといい」
と、申し訳程度の世辞の――つもりだろうがほぼ挑発と皮肉にしか聞こえない――言葉を吐きながら典雅に笑む青年剣士が一人。
着流し、というにはアレンジ過多で華美に過ぎる和装を大きく着崩しており、半分以上露出している上半身にはラバースーツめいたハイネックのノースリーブを着ており無駄なく付いた筋肉のラインがくっきりと見えていた。
そんな奇妙な身なりの美青年は、今日も今日とて誰それの恨みだの仇だのとのたまって襲ってきた暴漢の一団を残らず斬り伏せたところだった。
異世界シュヴァリエントのルールは、その天才剣士にとって至極単純で都合が良いものだった。深く考えるでもなく『異世界から招かれた天才剣客』としてただ望まれるまま剣を振るえばいい。それで金も地位も女も手に入り悪は滅びてハッピーエンド。なにより我々の過ごす現代社会では罪とされがちな闘争の快楽が合法的に味わえる。
とはいえ。前者3つは彼の人生においてはオマケのようなものだし、最後の1つ――最重視する快楽とて結局「満たされいる」とは言い難く、こうして一時気を紛らわせる余興程度が精いっぱいだ。
まあ一時でも紛れるだけ僥倖というもの。そう自分に言い聞かせ、彼が愛刀を収めようとしたその時。
「ねえ」
頭上から声がした。鈴の音にも喩えられそうなくらいの愛らしい少女の声。その声に青年が顔を上げると
「そこの……あなた!」
その声の主――異国の顔立ちの、軍服めいた服装の美少女が。柔らかな藤色の髪と、翼にも見えるシフォンのマントをはためかせ、今まさに天から降ってくるところだった。
「――!」
普段ならこんな予想外の事態でも咄嗟にその少女を抱きとめる用意くらいはできた――はずだった。だが、彼の身体は動かなかった。
浮世離れした性格や美貌の女も、薄くひらひらした装飾布がやたら多い見映えばかり優先した戦装束も、自身の剣に興味を寄せる人間だって、とっくに見飽きていたはずなのに。
それなのに、男はその少女を前にただ呆けて――見惚れていた。幻想的ですらある少女の見た目以上に、強烈な『予感』めいたものが彼の視線を釘付けにしていた。
「ん、と」
そうしてただ立ち尽くしていた男の前に、重量を感じさせずふわりと優雅に着地するその様は、本物の天使か妖精か。
「あなたの剣、綺麗」
少女の口から紡がれたのは、カタコトの共通語。少女の蜂蜜色の瞳はまっすぐ目の前の剣士を見据えていて――その手にはいつの間にか剣が握られていた。
それは艶の無い濃紺の刃、しかし鍔元に夜闇を裂く曙光の輝きを宿した奇妙なデザインの
「もっと、見せて」
その言葉と同時に、少女の身体が――手にした剣の切っ先が青年めがけて飛び込んでくる。
――その出会いは、彼の『いつもの
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