それゆけ!へちま君

Hetima

第1話 へちま君

 ランドセルの上からみっちり詰まった袋を二重に背負って、右手にドラゴンをあしらった習字道具と裁縫道具、左手にメロディオン。

 

 強烈な夏の日差しと自分の怠惰が招いた重さに耐えながら、へちま君はじっとアスファルトを凝視しながら一人とぼとぼ歩いていた。


 ワクワクできたのもS君と別れるまでだった。とは言ってもS君の家は学校から歩いて5分ほどだったから、あっという間だった。今はただ残りの道のりを思い浮かべてうんざりしていた。


 さっきまでは気にも留めなかった下校途中の他の子達の笑い声が、なんだか羨ましく思えた。あの子たちはどこまで一緒に帰るんだろうか。帰ったらすぐ遊ぶのかな。


 S君との会話を思い出しながらへちま君はそんなことを考えた。アスファルトが灰色から舗装されたばかりの黒色に変わっていた。


 小学生男子が授業最終日に重装備になるのは夏の風物詩と言ってもいいだろう。しかし、S君はしっかり者だった。彼はランドセルと手提げカバン一つで済んでいた。

 

 成績も良くて、それに活発な男の子でもあった。昼休みは必ず同級生と校庭でサッカーをしに行くし、どこかのサッカーチームでプレーもしているらしい。S君はみんなが認めるしっかり者、すごいのSだった。

 

 へちま君はS君とは対照的な少年だ。ボールはつま先で蹴るし、体力測定も身体測定も周りの子に比べると数字が小さかった。


 放課後や休日は家でゲームをする。人見知りだが慣れた子なら会話はできるので教室ではゲームの話をして過ごすことが多い。


 友達はいない訳ではないが、へちま君にとって趣味の話でしか繋がれない同級生を友達と呼んでいいのかよくわからなかった。


 遊ぶ約束をしても、どこか教室での付き合いの延長線上にあるのだと考えてしまう。へちま君はそれを哀しく感じていた。

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