第18話
花火も終わり就寝する。ソラはといえば自分が今現在17歳の体であることをついに忘れて冷蔵庫に入っていた缶ビールをひと缶開け、庭の縁側で一日を振り返っていた。アラサーだということを隠すことを諦めた男が呑んだくれているという図が完成している。
「……まずっ」
10年後の味覚では美味しいと感じるはずのビールも、この時代の味覚ではビールの苦みを受け入れてはくれないようだった。
「やっぱり不良だったんだ、ソラって」
「ぼっ⁉」
本日2回目。全員寝たのを確認したはずだったが、ナツは何故か起きていたようだ。
「なんで起きてんだよ……。今、夜中の2時だぞ?」
「寝付けなくてね。……ねぇ、それ僕も飲みたいんだけど」
「いやいやいや! 未成年だろ、ダメだよ」
「ソラだって未成年だろ?」
「そ、それは……」
グゥの音も出なかった。
「それに、僕はあと3か月もすれば大人になるから、いいんだよ。だから頂戴」
「お前って飲むようなキャラだった……か、って、は?」
ソラは耳を疑った。
“あと3か月で大人になる”?
「……なあ、お前って今何歳?」
「あれ? 自己紹介の時言わなかったっけ? 僕昔入院してて2年くらい学年ダブってるんだよね。だから今は19歳。今年で20歳」
「3つ上かいっ‼ ――いや! でもダメだ。ナツはジュースにしろ。怖いから!」
「つまらないなあ。分かったよ」
冷蔵庫からブドウ味の缶ジュースを取り出しナツに渡す。彼は少し嫌そうな顔をしていたが、妥協したのか「乾杯」と缶をぶつけてきた。ソラとしてはナツと乾杯できる日が来るなんて夢にも思っていなかった為、思わず泣きそうになっていた。今の顔を見られては恥ずかしい。ソラはぐっと
「……7年前に手術してさ。お腹に消えない傷できちゃって。それが凄い気持ち悪いんだ。そんなの誰だって見たくないでしょ?」
ふとナツが語り始める。その言い方で聞くとまるで自分の事じゃないみたいに聞こえてくる。なんだか悲しくなる。ナツは、夏人は自分の事をどうしても、客観的にしか見ることが出来ない。そう、思った。
「風呂、入る時に見た。勝手に見てごめん」
「やっぱあの時見えちゃったかー。気持ち悪かったよね。ごめんね」
どうしてお前が謝るんだ。お前は何も悪くないだろう、とソラの中で何かが湧く。目の前ではクツクツとナツが笑う。その笑顔が痛い。ビールの苦さが喉に刺さった。
「ふー。さてと。僕もそろそろ寝ようかな。ソラも早く寝なよ? ……って言ってももう夜中の3時過ぎてるけどね。おやすみ」
ナツはそうソラに伝えると部屋に戻っていった。
幸せ、なんだろうか。
辛い、のだろうか。
考えたところでまだ答えが出るはずもない。眠たくはなかったが寝よう。明日、今日撮った動画を編集しアップしよう。ソラは缶の中に残った3分の1分の炭酸の抜けたビールを一気に飲んだ。
「まっず!」
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