第1話 待っていたのは ナディーヌ・ミレネア視点
((うふふふふふ。ついに、この時がやって来ましたわ……っ))
出入口へと歩き始めた、エリザベット・ニーエイル様――学院時代から、密かに敵視していた人。わたくしはそんな方にお声をかけるべく、上機嫌で追いかけていましたの。
((我慢を続けること、およそ1年。ようやく……っ。忌々しい女に、勝利する時が訪れましたわ……!))
4つ隣のクラスに所属されていた、エリザベット。わたくしはあの人が、大嫌いだった。
だって、わたくしの方がレッスンも勉強も多くしていたのに! 周りにより親切にしていたのに! ダンスも成績も、学院内の評判もあちらが上。こんなにも汗を流したわたくしはせいぜい上の下止まりで、いつも涼しい顔をしてるあの人はトップだったんですもの!
いくつもの才能を持って生まれた、世の中に愛された女。
あまりにも理不尽な加護を受けているあの人が、嫌いだった。許せなかった。絶対に、敗北を味わわせてあげたかった。
だから――。わたくしは唯一、この女に勝てている点を使うことにした。
シルクのような、艶のあるサラサラの金色の髪。
美の女神の寵愛を受けているかの如き、理想的なパーツのみで構成された品のある顔。
ドレスの下から激しく存在を主張する、メリハリのあるボディー。
自慢の容姿を使って、大事な大事な婚約者を――セヴラン様を奪うことにしましたの。
((わたくしは美の塊。おまけにあの御方は、他の人と違って『違い』が分かる方だった))
きっと、一目で『健気な努力家』だと見抜かれた。内外ともに完璧な女性だと、気付かれたのでしょうね。わたくしがアプローチを行うと、なんと即座に――驚くべき速度で興味を示してくださった。だから僅か3回の接触で、セヴラン様の愛の天秤はこちらへと完全に傾く。
そうしてあの方はエリザベットとの婚約を喜んで解消してくださって、1年後――世間体を意識しなくてよくなった頃に、婚約をすると約束してくださいましたの。
((できるコトなら、内緒のプロポーズをいただいた時に見せつけてあげたかったけれど――。明かしたら絶対に、悔しさを紛らわせるために言い広めてしまいますものね))
婚約不成立を避けるために我慢を続けて、5日前ついに婚約発表を行った。そして今夜は、婚約してから初めてエリザベットに会う日。
((だ・か・ら))
突然の婚約解消。その裏にはわたくしが居たことを……っ。わたくしに奪い取られていたコトを、教えてあげますの……!
そこでエリザベットに声をかけて、そうしたら――
「いえ、まったく」
――余裕に満ちた、微笑みが返ってきましたの。
((ど、どうして!? なぜっ!? 愛する婚約者を奪われたと理解したのにっ、どうしてこんな風に――ははぁん。分かりましたわ))
激しく動揺していたわたくしは、あっという間に平常心を取り戻す。
これは、見栄張り。必死に悔しさを隠しているんですのね。
((あらあらまあまあ。お可愛らしいこと。……でしたらそちらを追及して、そのお顔を真っ赤にして差し上げますわぁ))
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