第10話 屋敷に戻った息子は 俯瞰視点

「なんだって!? またルーフェ侯爵家の怒りを買ってしまった!?」


 ものすごい速度で馬車が門を潜り、顔面蒼白で屋敷へと飛び込んだドニ。そんな異変によって執務室から飛び出した父ケビンは、目尻が裂けんばかりに目を見開きました。


「そ、そんな……。なぜ、なのだ……⁉」

「リゼットは婚約していて、その相手が弟のリアムだったんです……。だから……。あの行動が切っ掛けとなってしまって……。殺害対象に、なってしまった……」


 組み伏せられたこと。ナイフが迫ったこと。逃げられたこと。それらを震えながら説明し、そうすればケビンは崩れ落ちてしまいました。


「そ、それでは……。それでは……っ!」

「そう……。いずれ、ルーフェ家の手の者が追いかけてきます……。捕らえる、ために……」

「ぁぁぁぁぁぁ……!! なんてことだ……!!」


 可愛い息子が悲惨な目に遭ってしまう。それもありますが、ケビンを絶望させている一番の理由は『自分にも危害が及ぶから』。

 そこまで怒っているのなら、協力者――子どもの行動を許し金を出し続けた、元凶ともいえる自分も狙われてしまう。そのため父もまた息子と同様の精神状態となり、どたどたと地団太を踏むようになりました。


「ドニ! 謝罪での解決は! 不可能、なのかっ!?」

「無理ですっ、無理だった! もう止められない!! 俺達に止める術はありません!!」


 リートアル家は裕福な伯爵家ですが、相手は侯爵家。侯爵家は特別な駒を――金だけでは揃えられない優秀な臣下を持っているため、対抗などできはしません。

 たとえ治安機関に助けを求めたとしても、何かしらの形でやられてしまう――。彼らはそう、確信してしまっていました。


「なっ、ならば……。ならば……!」

「ちっ、父上どうすればいい!? 死ぬのは嫌だっ!! どうしたらいいんですか!?」

「わたしだって嫌に決まっているだろう!! し、死なずに済むには……っ。死なずに済むには――ぐああ駄目だ! 考えている時間がない!!」


 リアム達の芝居によって、追跡されていると思い込んでいること。その点によってケビンは頭を掻きむしり、金庫へと直行。そこにあった札束を両腕で抱え、外へと走り出しました。


「ちっ、父上!! そんなものを持ってどうするつもりなんですか!?」

「逃げるに決まっているだろう!! 遠くに逃げてそこに身を隠す! どこかでヒッソリと暮らしてゆくに決まっているだろう!!」


 どんなに生活水準が下がっても、恐ろしい目に遭って死ぬよりはずっと良い。そんな理由で父は馬車に乗り込み、その考えはドニも同じでした。そのため共に馬車へと乗り込み、そうして彼らは――

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