第7話 いざ、真に愛する人のもとに ドニ視点(2)

「……………………。え?」


 なんだ? 敷地の中で何が起きているんだ?

 あの大声が気になった俺は門へと近づき、中を覗き込んでみた。そうすると当主夫妻が玄関の前でリゼットに縋りついていて、そんなリゼットの隣には――……。獅子のような雰囲気を持つ、金髪の男が立っていたのだ。


「だ、誰だ……? アイツは誰だ……!? おっ、おいっ! 俺はリートアル伯爵家のドニだっ! 前婚約者でっ、リゼットに大事な話があって来たんだ! 通してくれ!!」

「お、お待ちくださいませっ。旦那様に確認をしてまいります!」


 ふざけるなと叫びたいが、それは仕方がないことか……っ。しぶしぶ頷くと門番は大急ぎで奥へと走り、やがて――門番ではなく、リゼットと金髪の男がやって来た。


「どうして一緒に――この際そんなことはどうでもいいな! リゼット、俺の話を聞いてくれっ!」


 今俺達の間には門があり、それは俺達の心の距離を表している。そこで現実からも心の中からも『隔たり』が取り除かれるように、手にしていた薔薇を彼女へと差し出した。


「リゼット。今朝夢を見て――君と過ごした日々を振り返って、ようやく気付いたよ。俺は、大きな間違いを犯していたとね」

「…………」

「真に愛する人は、シルヴィ。あれは誤りだ。それは気の迷い、あり得ないことだった。なぜなら君とあの女は、まるで違うのだから」


 優しさ、思いやりの心。温かさ。そこに天と地ほどの差があった――。もちろん君が、天だよ――。

 その結論に至った理由を丁寧に説明し、続ける。


「リゼット。シルヴィが離れていってしまったから、ではないんだ。1番が居なくなったから2番手と、そんな不埒な考えではないんだよ」

「…………」

「目の前にいる人が1番だから、こうしているんだ。……再び婚約者となってもらって、愛を育みたいと思っているんだ」


 そう告げたタイミングで、左手も――300万のリングが収まっている箱を、彼女へと差し出す。


「この薔薇とジュエリーは、お詫びでありその証なんだよ。…………今度こそ君を、世界の誰よりも幸せにすると誓う。だから、また一緒に進もう」


 右手、左手、自身、そしてリゼット。俺は順に視線を動かし、最後にニコリと口元を緩める。

 そうすれば――おおっ!! リゼットは品よく微笑んで、


「お断り致します。あのようなことがあった方と関わるつもりはありませんし、それになにより――。私は本日、リアム・ルーフェ様と婚約をいたしましたので」


 カーテ・シーを行ったあと隣を見つめ、信じられないことを口にしたのだった……!!


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