魚人村

ツヨシ

第1話

――こりゃあまずいなあ。

小暮は気がついた。

なれない山道を車で走っていたのだが、どうやら道に迷ったようなのだ。

おまけにこの辺りの土地勘はゼロで、ナビもない。

つまりどこをどう通ったのか、今どこにいるのかが皆目わからないのだ。

引き返すと言っても、それで正しい道に戻れるという保証は全くない。

――さて、どうするか。

考えて、小暮はこのまま進むことにした。

幸いこの山は小さくはないが、それほど大きいわけでもない。

このまま進めばそのうちに山を抜けるだろうと思ったのだ。

一応周りに注意を払いながら、小暮は車を走らせた。


どのくらい進んだのだろうか。

小暮はふと道に看板があるのに気がついた。

その看板の横で小暮は車を止めた。

「魚人村」

看板にはそう書かれてあった。

――なんだこれは?

魚人村なんて変な名前の村は、聞いたことがない。

が、とにかく看板には矢印が書かれてあり、この山道は一本道なのだ。

――行ってみるか。村があるならそこで道を聞けばいい。

小暮はそう思い、車を発進させた。

少し走ると、古い民家が見えてきた。

それも一軒や二軒ではない。

山道の両側に、ぽつりぽつりと家があるのだ。

見えない先にも家があるように思えた。

山の中の集落だ。

――ここで聞いてみるか。

少し道が広くなっているところで車を停め、小暮は車を降りた。

そして一番近い民家に行き、呼び鈴を押した。

反応がない。

留守なのか。

もう一度押してみた。

やはり反応はなかった。

――それにしてもだ。

すべての家がかなり古く、しかもさっきから人の気配が全くしない。

――ひょっとしてここは廃村なのだろうか。古いが壊れた家はないようだが。

そう考えながらも小暮は少し離れた隣の家に行った。

そして呼び鈴を押したが、誰も出てこない。

負けずに小暮はさらに先の民家に行ってみた。

そこも呼び鈴を押しても、誰も出てこなかった。

数回間を開けて押してみたが、やはり反応はなかった。

その次の民家に行き、結果は同じ。

その先の民家もやってみたが、誰も姿を現さず、声も聞こえない。

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