フェレティング・ポクリクペリの最期のご挨拶
あの地獄の戦場で、わたくしは来る日も来る日も、あるいは手足を吹っ飛ばされ、あるいは半身が引きちぎれた兵士たちを治療して、ふたたび戦場へと送り出しました。愚かにも、それが彼らを助ける事なのだと信じ込んで。
しかし、それはおぞましくも罪深い悪魔の所業でした。
何故なら、その治療と称して行ってきたものは、なんびとにも等しく訪れる死という救いによって、あの泥沼の地獄から解放されるはずだった兵士たちを、無理やりまた立ち上がらせ、このおぞましい現世に生命を縛り付け、あの戦場の惨禍のただなかに何度でも送り返す行為だったからです。
彼らはもともと勇猛果敢な優れた戦士たちでしたが、わたくしの魔法で回復した後は更に
わたくしは三百二十六名の兵士の人命を救ったとして
しかし、正しくは三百二十六名もの人々を、終わることなき悪夢の中に無理やり閉じ込め、死という救いの
今となっては、わたくしも自分の罪深さを知っています。ですから、これからわたくし自身が処刑される事そのものには全く異存はありません。
しかし、わたくしがいかに罪深き人間であったとしても、わたくしたちが血と汚泥に塗れて這いずりながらも生命をかけて戦った、あの最前線での日々が虚構であった事にはなりません。
セプテントリオ王室は、これから訪れる繁栄の日々を迎えるにあたり、あの戦争の惨禍をなかったものとするために、あの戦場で何十万という人々の舐めた
恩に着せるつもりはありません。
しかし、今皆さんが味わっているかけがえのない平和な日常、穏やかで幸福な日々は、わたくしの仲間たちの粉々に砕け、真っ黒に焼け焦げ、ドロドロに腐り落ちた、その
感謝して欲しいとは申しません。
どうか、彼らが生きて、戦って、死んでいったこと……ただそれを、忘れないでいて欲しいだけなのです。
それだけが、わたくしに遺された、たった一つの望みでございます。
セプテントリオ王国歴百四十三年八月二十五日
セプテントリオ王国軍 第二魔道機甲師団第一旅団 衛生小隊少尉
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