ピンク頭と新しいお護り
昼休みはそのまま教室に帰ってコニーと試験勉強に専念した。
「そう言えば昼休みずっと僕といたけど、生徒会の方は大丈夫なの?」
「ああ、もう帳簿を整理して持ち出した金額は洗いだしたからな。それに、最近は昼休みに殿下がエステルを連れてやってきてはやれ茶を淹れろだの菓子持ってこいだのと騒いで仕事にならんのだ。放課後、彼らが遊びに行った後に業務に取り組むしかない」
「……なるほど……」
渋面になってるコニーを見ていると、二人してふんぞり返って
まぁ、お蔭でゆっくり勉強する時間が取れてるんだと前向きに考えた方が良いのかも知れないんだけど。
やっぱり一人でやるのもいいけど、友達と一緒に苦手なところを教えあいながら勉強するのって頭に入りやすいからね。それに何より楽しいし。
ラハム君もエステルも懲りたのか、その後は教室に乱入してくることもなく無事に放課後を迎えることができた。
「お前はもう帰投するのか?」
「ううん、帰りにパラクセノス先生のところに寄るように言われてて。この間壊れちゃった魔道具や護符の代わりをいただきに行くんだ」
「なるほど、俺も行こう」
「あの、ポテスタース卿……じゃなくてヴォーレ様、少々よろしいでしょうか?」
二人して教室を出ようとすると、後ろからおずおずとアハシュロス公女……じゃなかった、アミィ嬢が声をかけてきた。傍らでジェーン嬢が気遣わし気な顔で見守っている。
「どうしました?」
いつも凛とした彼女らしくない不安げな様子が気にかかる。
「このところ無理をされていませんか?その……顔色が優れないようですが……」
「ご心配おかけして申し訳ありません。ここ数日は相棒が南部に出張してしまって夜の巡回を免除になっていますし、勤務の方は大丈夫です。もし顔色が悪く見えるなら試験前で少し疲れが溜まっているのかもしれませんね」
「それならばよろしいのですが……その、殿下のお言いつけのことで難儀していらっしゃるのではないかと」
ああ、なるほどね。
いくら証拠を重ねたとしても、殿下に彼の思惑とは違う結論を受け容れさせるのは至難の業だ。
そのため、殿下本人ではなく周囲の大人を納得させるつもりで資料作りに励んでいるのだけれども、アミィ嬢はそう言った事情を知らないから、無理をしていないかと心配してくれているのだ。
「大丈夫ですよ、明日が終われば解放されますし。それより、アミィ嬢も明日はご協力いただくことになります。今日はしっかり休んで下さいね」
「ええ……これで何もかも終わればよろしいのですが……」
うん、何を言っても納得しそうにない殿下のことだ。どれだけきちんと証拠を上げて、資料を用意して説得しても、訊く耳を持たずに理不尽な要求を突き付けてくることは大いにあり得る。
婚約してから十年近く、彼の気紛れと我儘に振り回されてきたであろうアミィ嬢は何を言ってこられる事かとさぞや不安だろう。
「大丈夫です。明日は国王陛下もアハシュロス公爵もいらっしゃるのでしょう? 僕たちもついていますし、決して無体な真似はさせませんから」
笑いかけると、困ったように微笑んで「ありがとう」と頷いてくれた。
「これから明日の準備でパラクセノス先生に護符などを借りに行きます。アミィ様もご一緒にいかがですか?」
誘ってみると、しばらく戸惑ってから頷いてくれた。
「今日も王宮に伺って執務にかからねばならないのであまり長くはお邪魔できませんが、ご一緒しますわ」
「執務って?」
「もうすぐ王太子妃となりますから、王宮に執務室を頂いておりまして、少しずつ公務に慣れているところですの。もっとも、今はまだもっぱら殿下の公務の代行だけですが……」
うわ……つまりクセルクセス殿下の公務を押し付けられてるわけね。
アマストーレ嬢が優秀で、人が好いから文句の一つも言わずに全部やってくれてるけど、婚約者が彼女じゃなければ公務が回らなくて大変なことになっているはずだ。
「それは本来殿下がすべきことでしょうに……」
「殿下のお心を糾せないのもわたくしが至らぬせいですもの。せめて公務が滞らないようお手伝いしなくては。先日いただいたペーパーウェイト、大切に使わせていただいてますわ」
「気に入っていただけたようで嬉しいです。使って下さりありがとうございます」
何と言う事だろう。殿下は自分が遊び歩いている事のしわ寄せが全て彼女に行っている事をきちんと理解しているのだろうか?
先生の研究室に着くと、また僕の頭をわしわしと撫でながら出迎えて下さった。
まったく、ここ数日やたらと頭を撫でたがるけど、先生はいったいどうなさったというのだろうか?
「おう、来たか。まずポテスタースにはこの護符だ。何があるかわからないから今からしっかり身につけておけ」
ぱっと見ただけでは詳しい術式はわからないけれども、複雑な魔術が施されていて強力な魔力を籠められているのを感じる。
「これ、すごく強力なお護りなんですよね? 僕よりもアミィ嬢に……」
いくら僕が危険な役目とはいえ、少々過保護な気がする。
僕はある程度自分で身を守れるのだから、同じように囮になりかねないアミィ嬢やコニーにもしっかりと護りを固めてほしいのだけど。
「それはお前専用。他の人間には反応しないからな。絶対に外すなよ。公女にはこちらを。精神操作系の魔法を防ぐ術を施したペンダントと攻撃魔法や飛び道具の軌跡を逸らす魔法を施したイヤリングです」
僕の考えていたことが言わずとも通じたのだろうか?
先生は護符をしっかり身につけるよう念を押した上で、アミィ嬢にもいくつかの護符を渡してくださった。
「スキエンティアにも一応、精神操作系防護を施したピンを渡しておくな。タイ留めにでも使ってくれ」
……あれ?なんかコニーの扱いおざなりじゃない?
ちょっと釈然としない顔をしていたのか、先生は僕が手にしたままの護符を取ると首にかけて下さった。
「いいか、絶対に外すんじゃないぞ。風呂や寝る時も絶対にだ。当日は魔導師団の面々も姿を隠して護衛につくし、近衛の連中もいる。一人で何もかも背負い込むんじゃない」
真剣な声で念を押されて、少し気おされながら頷いた。
やっぱりここ数日の先生の様子がおかしいと思う。
一体何を隠していらっしゃるのだろうか?
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