ピンク頭と可愛い?企み
エステルが卒業記念パーティーで履く靴を買いたいと言うので、まずは彼女が欲しい商品があるという靴屋に向かうことにした。
王都の目抜き通りにある裕福な下級貴族や庶民に人気のお店だ。
言い方は悪いが成金御用達。
(ああ、ここならエステル好みのキラキラ満艦飾がありそうだな)
高位貴族や下級貴族でも歴史のある家の者は、もっと技術にこだわった職人の店を代々利用している。
そういった店の靴はむやみに大量の宝石などで飾り立てずに履き心地の良さを大事にしたものが多いので、エステルが好むようなつま先が長くとがっていたり、大量の小さなクズ宝石をぎっしり張り付けたギラギラしたデザインは扱わないのだ。
しかも全てがオーダーメイドで職人の手作りのため、注文してから出来上がるまでに一か月はかかる。
思い立ったら欲しいものはすぐに手に入れたいエステルにとってはあまり利用したい店ではないだろう。
馬車を降りていったん家に帰そうと思ったら、エステルにものすごく不服そうな顔をされてしまった。
「うっそ、馬車待っててくれないの?まさか王都を歩いてお買い物しろとか言うつもりっ?ヴィゴーレはあたしのこと蔑ろにしてるんだっ!?」
毎度おなじみの嘘泣きが始まる。ああ面倒くさい。
買うものも行く店も、大まかな行動時間もちゃんと決まってるなら馬車に待っててもらったり時間を指定して迎えに来てもらうけどさ。エステルっていつもその場の思い付きで我儘振りかざすから予定通りになった事ないよね?
しかも今日はどんな予定になるのか全く聞いてないし。
「今日この後のスケジュールが全然決まってないし、この後どうするのか時間が読めないからずっと待っててもらうのは御者にも迷惑でしょ?馬だって早めに休ませてあげたいし。
帰る時間の見当がついたら迎えに来てもらうから、帰りは安心して」
「え~っ、御者なんか待たせときゃいいじゃんっ! ヴィゴーレ気を使いすぎっ!!」
きゃぴきゃぴした声で一気に身勝手な言葉を並べ立てられて、さすがに頭が痛い。ああもう、こんなのにつきあう時間があれば新しく取り寄せたばかりの医学書読みたいのに。
「……な~んてねっ。たまには歩いてデートもいっか。帰りに迎えに来てくれるなら我慢してあげるっ!」
エステルは頬を膨らませて思いっきり不満を表現してきたが、困り顔の僕の目が笑っていないことに気付いたのか、慌てて誤魔化そうとした。
思いっきり上から目線で何様?って思うけど、これでも彼女にしたら相当我慢しているんだろう。やっぱり今日は僕の機嫌を損ねるのを恐れているように見える。
まぁ、もともとが良く言え天真爛漫、悪く言えば無神経な娘だから、僕が意図的に不快感を表さない限りは通常運転で好き勝手言いまくりだけどね。
一体何を企んでいるんだろう?
「わかってくれてありがとう。それじゃ行こうか」
彼女のお気に入りらしい靴屋に入って例の靴を見せてもらう。
僕たちが普段使うような店ならまずその人にあった木型を取るところから始めるのだけど、この店はいきなり既製品の靴を試着して、中敷きでサイズを調整するようだ。
幸運なことにエステルの気に入った靴は彼女の足と相性の良い木型だったらしく、少しだけ中敷きを入れることでぴったりフィットしたようだ。
ゴールドの絹張りに、極小粒のガラス玉が大量に張り付けてあり、ギラギラ輝いている。
「ね、超ゴージャスで可愛いでしょっ。やっぱセレブはキラカワじゃなくっちゃっ。卒業記念パーティーにはこれ履いてくんだっ!!」
僕が買うとは一言も言ってないにもかかわらず、エステルは一人で盛り上がっている。
正直キラカワもセレブもさっぱりわからないし、場末の路地裏で客引きしているモグリの娼婦みたいで悪趣味だとは思うが、今日だけはいい気分を味合わせてやろう。
……どうせ、今日使う分の費用は経費として出してもらえることになったし。
「ね~ね~、次はバッグ見ようっ!!腕時計もほしいな腕時計っ!
キラカワゴージャスで誰が見ても高・級・品!! てわかるすごいのちょうだいっ!!」
……前言撤回。
欲しがるにも限度ってもんがあるんじゃないかな……?腕時計なんて王族だって持ち歩いてる人ほとんどいないぞ。
そもそもコイツに物の良し悪しなんてわからないだろうし。
「バッグはいいけど、時計は職人の伝手がないから無理かな?
ごめんね。どうしても欲しければ殿下とかにお願いして?」
苦笑しながらそういうと、エステルはぷぅっと頬を膨らませて文句を言おうとして……また「しまった」という顔をして慌ててやめた。
「そっか……やっぱヴィゴーレごときじゃ無理だよね……っ。無理言っちゃってごめんね……っ。
優しくしてくれるから何でもお願い叶えてくれるって思っちゃった」
わざとらしくしょんぼりして見せてるけどすごく失礼な事言ってるからね?
それにしても、いつもなら狂犬みたいにキャンキャン喚きたてるのに今日はいったいどうしたと言うんだろう?妙に僕の顔色をうかがってきて本当に気持ち悪い。
コイツは一体何を企んでいるんだろう?
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