第6話 アルバイト

風は、通知表を持って家に帰った。

内容は、5段階評価で2と3しかなかった。

中間テストの結果をふまえれば、当然の結果ではあったが、それなりに落ち込んだ。

それに、夏休みが終わるまでに 2万円という

大金もつくらねばならない。

「親父になんて言おう‥」

風は、由美という彼女が出来たにもかかわらず

気分は晴れなかった。

「ただいま〜」

工場と隣接する家に帰ると親父 横山和彦は、

居間で昼メシを食べていた。

和彦は、若い頃、苦労し金属加工の技術を身につけ

実家の本家の土地を借り、家、工場を建て

自分でなんでもやってきた〝やり手〟であった。

「風 だせ」そうとだけ言って通知表を要求した。

しかめっ面で通知表を見ると、いぶかしげな

表情をした。

「これは、ちょっと酷いな、美枝子〜八千代台に

塾あるだろ、夏期講習いかせろ」

と台所の母に指示をだした。

母は、台所から居間にやってきて、

「どれどれ〜」

と親父の横から通知表を覗きこんだ。

「う〜んちょっと悪いね 塾だね〜」

と美枝子はなぜか少し楽しんでいる様子だった。

「雲は、4と5しかなかったから、塾無しだよ〜

羨ましいでしょ」

と妹のくもまでちょっかいをだしてきた。

風は、ますますギターの件を言い出しにくくなった。

「親父、アルバイトで使って欲しいんだけど‥」

俊と約束してしまったからには、言い出すしかなかった。

和彦は、「うん?なんだ金が必要なのか?何に?」

とまんざらでもない反応だった。

風は、〝ひまわり〟でのギターを買う約束を

してしまった事をしどろもどろになりながら

説明した。

和彦は、一瞬天を仰ぎ、

「時給200円だな!大介に言っておくから、塾のない空いた時間に働け」

そう言って、すくっと立ち上がり工場へ向かおうとした。

風は、「200円⁉︎安いよ!もうちょっと」といいかけると和彦はすぐさま

「馬鹿野郎!今のお前に何が出来る!それにな

苦労して手に入れたものは、大事にするし

お前の大事な〝相棒〟になる 簡単に手にいれたら

壁にぶつかりほっぽり投げて終わりだ わかったな

風」

そう言ってすたすたと工場へ行ってしまった。

美佐子は、優しく

「頑張りな 風」

そう言って台所へ戻っていった。


夕方 自分の部屋でビートルズを聴いていると

下から美枝子が「風 電話よ 女の子」

風は、慌てて電話に向かうと、

美枝子から、軽い肘打ちを受けた。

電話は、有村由美だった。


内容は、明日空いていたら、八千代台のレンタルレコード店〝れいこうどう〟に一緒についてきてくれない?というむねだった。

9時に、商店街のセブンイレブンで待ち合わせと決め、はやばやと電話を切った。


美枝子と雲は、ニヤニヤしながら、風の噂話をしていた。

風は、まんざらでもなかったが、やっぱり咲の事が気がかりだった。


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