第6話 さようなら
「いやー、雪ちゃんがお酒に弱くて得したな。雪ちゃんの性格なら二度目のデートはないって覚悟してたから」
「デートじゃないです。お詫びです」
「相変わらずクールだねぇ、雪ちゃんは。ま、またそこが良いんだよ」
「なんで私に構うんですか?平さんなら、幾らでも相手いますよね?」
「俺の利用の仕方、変えない?」
「は?変えるも何も和の事は、もう幼馴染で良いんで…」
「じゃあ、なおさらだ。俺を利用して」
にやける永生に、
(やっぱりこの人は信用できない)
そう思う雪。
そんな雪を尻目に、永生は続けた。
驚くべき言葉を。
「俺と付き合ってよ」
「!?」
(…これ…告白…?イヤ…これは釣りだ)
すっぱり一瞬で理性を取り戻した。
「そう言うの、やめた方が良いですよ。大切な人大切にしないと、後悔するのは平さんですから。本当に好きでもない相手とよく付きあえますね。今までもそうだったんじゃないですか?」
雪は永生を牽制した。
「本気だよ」
「はぁ…」
雪は告白してくれた永生の目の前で溜息をついた。
「私、そう言うの、引っかからない…」
呆れ顔で永生を顔に目をやると、その瞬間、雪は生唾を飲んだ。
真っ直ぐ、真剣な瞳で、さっきのにやけ顔と同一人物とは思えないほど、永生の顔は真顔だ。
「約束する。もう他の女の子と連絡とらないし、俺が和って奴の事、絶対忘れさせる。だから、付き合おう?雪ちゃん」
真剣な目と、言葉に、視線を永生に向けている事が出来なくなった雪は目を逸らそうとした。
すると、
永生が雪の顎をつかみ、
「目、逸らすの無し。人が真剣に告白してるんだから、ちゃんと、目を見て話して」
「なんで私なんですか?只自分になびかない女が物珍しくて、からかってるだけですよね?」
「…そういう目に見える?」
永生は怖いくらい、真剣なままだ。
「もう一回言う。俺と付き合って」
「……ごめんなさい。言いましたよね?私が好きなのは和です。あなたじゃない」
「だから、そのかずを忘れさせるって言ったよね?二十六年だよ?君が和を想い続けて。もう無理だって!!」
「そんな簡単に忘れられるくらいなら、とっくに諦めています!」
雪が声を荒げた。
「帰ります。もう私に構わないでください」
永生の手を振り払い、雪は店を出た。
走って帰ろうとする雪を、永生が追ってきた。
「待ってよ!雪ちゃん!」
ハイヒールの雪と、スニーカーの永生では、永生が雪に追いつけないはずがない。
「雪ちゃん!」
永生が雪の腕をつかむと、その腕は震えていた。
「雪ちゃん?」
「解ってるよ…和が私を好きじゃないって事くらい…」
雪は泣いていた。
どんな時もポーカーフェイスを崩さない和俊の前でも滅多に泣かない雪が、どう間違っても好きになることなどあり得ない永生の前で泣いたのだ。
「雪ちゃん…」
「だって…何度も何度も伝えようとしたの…でも、和は…私に気持ちを伝えられそうになる度話を変えて…ごめんすらも言ってくれなかった。…そんな中途半端な気持ちの諦めるなんて…出来ないよ…」
そう言って泣きじゃくる雪を突然―…
永生が雪を抱き締めた。
「な…っ」
振り解こうとした瞬間、より強く抱きしめる永生。
「離して………離してよ!」
雪は強引に永生を突き放した。
「もう…メール…しないで……」
「ゆ…」
「…さようなら」
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