第40話 ルーの魔法
ミリセントとリコにも声を掛けようと思ったら、叔母さんに二人は用事があって出掛けたと言われた。
集落の皆もお腹がいっぱいになると、仕事に戻る人達、いつもより早い時間にそのままバルトさんの宿に飲みに行く人達などに分かれて段々と少なくなり、お祭り騒ぎは自然とお開きになった。
いつもの姿に戻ったクローディアとルー、マーリーンさんの三人は途中からバルトさんが差し入れてくれた酒をいつの間にかカウンター席で飲んでいる。
テーブルの食器を下げ始めた頃になってミリセントとリコがやっと姿を現した。
「マーリーン!」
ミリセントはマーリーンさんの名前を呼ぶと勢いよく抱き着いた。マーリーンさんのローブにグリグリと顔を擦りつけて甘える。どうやらマーリーンさんとは仲が良いらしい。
「やあ、久しぶりだねミリセント。リコも元気だったかい?」
リコさんは相変わらず無表情だったけどそれでもマーリーンさんの言葉に頷く。
「今日はこの店の開店の祝いに顔を出したんだ。」
「うん、ヒルダからさっき聞いた。今日はリコと出かけていたからご馳走が食べれなくてがっかり。」
そう言ってミリセントはマーリーンさんにしがみついたまま、半分片づけられたテーブルを恨めしそうに眺めた。
「久しぶりのマーリーンの匂い。」
「ははははっ...。今の私はきっと醤油臭いだろうね。」
マーリーンさんが笑ってミリセントの頭を撫でる。
「ショウユ?」ミリセントが不思議そうに顔を上げた。
「これですよ。調味料です。マーリーンさんが作ってくれたんです。」
そう言って僕は醤油の入った瓶をカウンター越しに持ち上げて見せた。
「え?なにその黒い液体...。」ミリセントが何か怪しいものを見るような目でそれを見る。
「美味しいですよ。今まで出した料理にも使っていましたけど、料理だけじゃなくてお菓子にも使えますし。これ、昼間の残りものですけど醤油を使ったお菓子なんで食べてみますか?」
テーブルを恨めしそうに眺めていたので申し訳なくなってそう声を掛ける。みたらし団子が何串か残っていた。
端の方に寄せてあったテーブル席に座ったミリセントとリコにお茶と一緒に残っていた団子を大皿から小皿に移して出す。ひと口食べただけでミリセントが感激の声を挙げる。
「美味しい~!なんかもちもちしてる!この白くて丸いのは何?」
「原料は米ですよ。良かったらシュークリームも2個だけ残っていたのでどうぞ。」
ミリセントが甘いもの好きと叔母さんが言っていたのを思い出して、シュークリームも追加で出す。残しておいても仕方がないのでちょうど良かった。
「いいなぁ。」ルーが思わずと言った感じで口に出す。
「昼間散々食べたじゃないですか。」何度、空になった大皿を交換したことか。
「まあね。でも目の前で見ちゃうとまた食べたくなるって言うかさぁ。」
カウンター席で酒を飲みながらルーがぼやいた。
「僕は今からここを全部片づけるんですから勘弁してください。」
空になった大量の皿やカップなど食器がカウンターと厨房に積みあがっている。それに昼間に充分働いたので、夜は簡単なもので済まそうと思っていたのだ。
「じゃあさあ、俺が魔法でここ全部片づけてやったら後でなんかちょっちょっと作ってくれる?さすがに量はいらないからさぁ。」
「え、それはありがたいけど...。」
確かに山盛りの食器を全部片づけるのはちょっとうんざりしていたから、それはありがたいけど。魔法を使ったらまたお腹が空いちゃうんじゃないのか?
「やった!」
そう言うとルーは僕の返事は聞かないで指をパチンと鳴らした。カウンターに山積みになっていた汚れた食器が一瞬ふわっと持ち上がると大きさ順に凄いスピードで重ねられていく。よく見ると汚れは既に無くなってピカピカに磨き上げられていた。
「あとは~、テーブルと椅子?」
ルーは残り物を食べ終わったミリセントとリコにどいてどいて言って立たせると、もう一度パチンと指を鳴らす。いつもと違う配置になっていたテーブルと椅子が滑るように動き出していつもの位置に納まった。
「凄い...。」
残り物の唐揚げが乗った皿が一枚だけが最後に調理台に残された。
「あ~、お腹すいた。」ルーがそう呟いた。
うん、ありがたいけどかなり燃費が悪いんじゃないかな、ルー。
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