第33話 光虫貝
「
次の日の朝やって来たクローディアは事もなげに答えた。
「光虫貝?」
「そうだ。この辺りの人間は貝を食べないから知らないかもしれないが。」
クローディアからすると当たり前の知識らしい。
光虫貝とは、その貝殻が日光のように強い光を浴びると光を吸収して、真っ暗な中で光る。光るのはあくまでも貝の内側なので、貝が生きていて閉じている時は光らないそうなのだ。
「う~んそうなのか。原因は分かって良かったけど...。」
「どうしたんだ?まだ何か問題があるのか?」
カネルがコンロでお茶を入れるためのお湯を沸かしてくれている。
「うん。だって僕が実は怪しい光の原因は貝殻でしたって、一件一件集落の家を回っていったとして。はいそうですかって信じてもらえると思う?それでなくたって、疑われているんだし。」
「そうか、信じないな。」
やかんの下の炎が一瞬、しゅんと小さくなった。
「でしょう?」
まあ、そんなにあっさり言われても僕もちょっと傷つくけど。
「じゃあ、実際に見せればれば良いのか?」
今度はクローディアが不思議そうに尋ねる。そんなこと言われても。
「良いのかって、貝を?」
「貝を。」
「まあ、そうかもしれないけど。実際に見てもらうのが一番だけど夜にしか光らない物をどうやって?家の前に並べるわけには...。」
あれ?家の前?
「ああ、そうか家の前に並べれば良いのか。」
「?」
まず、貝殻を裏庭から集めてきた。
それを、ただ並べるだけだと光量がいまいちなのでまとめて置く。そうだ、せっかくだからランプ風にして。
この家の部屋の壁には高い位置に、いつもカネルが明かりをつけてくれるランプのようなものが掛かっている。それを椅子に上って2つ外す。金属の枠だけのランプは中に炭が置いてあった。
「ああ、これってこんな風になっていたんだ。」
高いところに吊るしてあったから良く見たことがなかった。
「そうそう、俺が灯をつけやすいようになっているんだ!」
カネルが自慢気に言う。
「確かにいつも凄いよね。一瞬で全部のランプに灯りをつけて。」
全部でランプは10個以上はあるのだから。
「へへへっ…。俺凄い?」
「うん、凄いし、かっこいいよね。」
ヒュンと一瞬で炎が飛んでいく様は本当に何度見てもかっこいい。
「かっこいいかぁ~。」
カネルが嬉しそうにヒラヒラとコンロの上で踊っている。
「それで、これをどうするんだ?」
クローディアがそんなカネルをスルーして聞いてくる。
「うん、この貝殻をランプの中にまとめて置いて、この家の入口の外に置くだけ。」
「だけ?」
「そう、この家の入口は宿屋の向かいにあるんだから、嫌でもバルトさんの所に飲みに来た人が帰り道に見るでしょ?たぶん、家の裏庭でぼや~と光っていたら恐いけど、街道沿いの宿屋の入口の近くならそんなに恐くは無いんじゃないかな?」
少なくとも胡散臭く思われているであろう僕が説明するより自分たちの目で見てもらった方が説得力はあるだろう。特に僕が食事を出していない日なら、バルトさんのところに集落の男たちが集まっていると思うし。みんなもきちんと見てくれると思うんだけど。
明るいうちにランプを家の前に置いたらエマがこっそりと裏口からやってきた。
どうやら、その後どうなったか心配して来てくれたらしい。そこで光虫貝の件を説明すると、じゃあ自分の家の前にもランプを置こうかと提案してくれた。
まあ、確かに家だけよりもお隣のエマの家の前にもあったら目立つし、気になって見てもらえるか?
「でも、エマのお父さんとお母さんに許可を貰わないと...。」
何と言っても最初に驚かせてしまったのはエマの母親なのだから。
「だからこそよ!そのランプと貝を借りて行って実物を見せれば納得すると思うの。」
いつも、引っ込み思案なエマが珍しく強く言うのに押されてランプをひとつ渡して、持って行ってもらうことにする。
エマがランプを手に裏口から自分の家に帰るのを見送って振り向くと、何故かまたクローディアが大人の姿になっていた。
「ディア?!どうしたの?」
驚いて聞くとクローディアは無言でシュルっと音を立て、元の姿に戻ったのだけど...。一体何だったのだろうか?
エマが両親を説得できるか心配したけど暗くなってから覗いたら、エマの家の前にランプが置いてあるのが見えたので上手くいったようだった。
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