第22話 ディア

先日、バルトさんの宿で暴れた旅の二人は、叔母さんにお灸を据えられて宿の部屋に放り込まれていた。


朝になって宿の厩に馬の世話に行ったバルトさんが、二人が乗ってきた馬の鞍につけられた袋が、金貨や宝石でパンパンになっているを発見した。驚いた彼が叔母さんに相談して、旅の二人を問い詰めると、実は道中盗みや強盗をはたらいてきたことが発覚。そこで、叔母さんに頼まれたクローディアが王都に連絡を取ってくれたところ、名の知れたお尋ね者たちだったらしく王都から兵士が連行しに来てくれることになった。


剣を携えてお揃いの制服を着こなした、王都の警備兵たちがバルトさんの宿に入って行く。僕とクローディアはそれを家の入口から眺めていた。警備兵と一緒に明らかに兵士ではない二人がいた。


ひとりは足首まである真っ白いローブを羽織っていた。がたいの良い警備兵たちよりも頭一つ出るほど背が高い。腰まで伸びたサラサラの輝く銀髪に、女性か男性か分からない中性的な顔立ちをしていた。もう一人は、僕より少し小柄な少年で金髪に明るいブルーの瞳、整った顔立ちはまるで人形の様。着ている服は僕たち集落の男が来ているようなシンプルな形だけど、色は目の色の合わせたようなブルーの生地に凝った刺繍が施されていた。それが華やかな顔立ちにとても似合っていた。


「ディア~。」

その金髪の少年の方が駆け寄って来るとクローディアに抱き付いた。

彼女の胸元に顔を埋めるとぐりぐりと甘えるように頭を擦りつける。


「ディア?」

クローディアの隣に立っていた僕は思わず聞き直した。聞きなれない呼び方だ。

「クローディアだから、ディア!俺ら魔法使い同士でしか呼ばない愛称だけどね!」

そう言ってこちらを向いた少年は僕に向って自慢げに言う。金髪に鮮やかなブルーの瞳、まるで人形のような顔立ちと言っていいと思うが、表情はずいぶん豊かだ。


「へ~、僕もディアって呼んでいい?」

クローディアも可愛いけど、ディアも親しみがあっていい。


「な、呼べる分けないじゃん!」

金髪の少年がまだクローディアに抱きついたまま、怒ったように言う。


「別に良いぞ。」

それに対してクローディアが簡単に了承を出した。


「え、え~、ディアってばこんな子供がいいの?」


子供って自分も同じくらいじゃないか。見た目は。

「あ、今同い年くらいだとか思ったかもしれないけどオレ年上だからな。か・な・り。」

なんか、言い方は偉そうだけど言っていることは愛嬌があって親しみが持てそうだ。


「君がヒルダ・ノルディカの甥っ子かい?クローディアは年のわりに恋愛に関してはかなり子供なんだがねぇ。」

そう言って話に割って入ったのは白いローブを羽織った背の高い人だった。長いさらさらの銀髪に切れ長の黒い瞳。身長と声の低さから男の人と判断してよいのだろうか?というか、ノルディカってやっぱり叔母さんの本名だろうか?初めて聞いたけど...。


「じゃあ、僕も子供なんでちょうど良いですね。」

普段は子供あつかいされると嫌だけど、今はここぞとばかりに子供を使わせてもらおう。


「...まあ、そうかも。」


「すげ~、こいつマーリーンのこと言い負かしたぞ!マーリーンはこの国の国王だって丸め込むくらい口が上手いのに!」

国王を丸め込む?じゃあ、この国の王についている魔法使いというのはこの人の事だろうか?


「ルー?ちょっと黙っていなさい、きみ。だいたい、別に言い負かされたわけでは...。」

マーリーンと呼ばれた彼が不本意そうにブツブツと文句を言った。


「ふふん。こいつは見た目より頭が良いんだ。何たって勇者ベテルギウスの剣の持ち主だからな!」

何で、クローディアが自慢気なんだろう。見た目よりって誉めてないし。


「え~、マジか!」

「それはそれは。」

それでも二人は納得したのか感心してくれている。


だいたい、剣の持ち主と頭の良さは関係ないのでは。色々と突っ込みどころはあったけどクローディアが僕を認めてくれているのは感じられたので、そこはありがたく誉め言葉として受け取っておこう。


「それに、めちゃくちゃ美味しいものを作ってくれるんだ!」

クローディアがめちゃくちゃ無邪気に褒めるので段々顔が熱くなってきた。

だいたい、僕が作っているのは家庭料理のたぐいであって、特別な料理ではないのだし。


「それはそれは。是非食べてみたいですね。」

「俺も俺も!だいたいマーリーンは酒さえあればいいんじゃないか。」

「いやいや、君たちのように量は食べないけど美味しい料理は大歓迎だよ。」

どうやら、ルーはクローディアと同じように食べるようだ。


「ええっと、じゃあ今からクロー...ディアにご飯を作るところでしたので、良かったら一緒にどうぞ。」


「?お前たち、ヒルダが捕まえた奴らを連行するために来たのじゃないのか?」

クローディアが、呆れたように言う。


「ああ、それは王都の兵士たちがやってくれているから大丈夫。私たちは久しぶりにクローディアに会いに来ただけだから、ゆっくり食事をご馳走になってから帰るとしよう。では、改めて、ヒルダの甥っ子。私は魔法使いの銀のマーリーン。今はこの国の国王に仕えている。」

そう言って手を差し出される。握り返した手はやっぱり男の人の手だった。


「きひひひ...。マーリーンの場合、仕えているんじゃなくて裏から操っているんじゃない?俺は、魔法使いの青のルー。王都の城下町で占いの店をやってる。良かったら遊びに来いよ。まあ、本気の占いは勧めないけどな。」

そう言って金髪の少年も手を差し出す。


「?どういう意味ですか?」

「だって、魔法使い様の占いだぜ。自分の未来が全部分かっちまったら怖いだろ?」

そう言って青は脅すような顔をして、キシシシ...。と笑った。

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