追放された最強魔術師とピンクトルマリンの少女

月城 友麻 (deep child)

追放される最強魔術師

「ファイヤーブレス! 来るぞー!」

 アルは前線で奮闘する剣士と盾役に叫んだ。

 目の前には厳ついウロコに覆われた巨大なワイバーンが、鋭い牙を光らせながらパッカリと口を開ける。

「分かってんだよ! お前も撃てよ!」

 まだ十代の剣士のオラーツは、巨大な盾で身構える盾役の影に逃げ込みながら怒った。

 アルはホイホイとファイヤーボールを五、六発ワイバーンの鼻先に放るが、ワイバーンには全く効果なく、ファイヤーブレスの豪炎が辺り一面を火の海に変える。

 アルは横っ飛びにシールドを展開する僧侶の後ろに隠れた。


「もうちっと防御力落としておくか……」

 アルはそうつぶやきながら秘かに腕に付けた画面を操作していく。


 ドッセーイ!

 オラーツはファイヤーブレス直後のワイバーンの首に飛びかかると、一気に剣で一刀両断にした。


 ズン!

 ワイバーンの首が落ち、巨体が横倒しになって地響きをたてる。

「やったぁ!」

 僧侶の少女はうれしそうにピョンと跳び上がる。

 ここはダンジョンの三十八階、このパーティの過去最高到達地点であり、ワイバーンの討伐は悲願だったのだ。


 振動で天井からパラパラと小石が落ちてくる中、レオはオラーツに駆け寄って言った。

「グッジョブ! さすがオラーツ!」

 ところがオラーツはアルをキッとにらみ、

「やっぱお前要らねーわ。クビだ! 出ていけ!」

 と、叫んだ。

「へっ!?」

 アルはキョトンとしてオラーツを見る。

「お前、なんも貢献してねーじゃねーか! 役立たずは邪魔だ!」

 オラーツは真紅に輝く魔石を拾いながら不機嫌に言い放った。

「いやいやいや、僕がいるから勝てたんだよ? 僕の弱体化スキルが無かったらワイバーンの首だって斬れな……」

「はぁ!? お前、俺のことバカにしてんの? お前なんか無しでも勝てるんだよ!」

「そうよ! アルのスキルって何なのよ? そんなの聞いたことも無いわ」

 僧侶もアルを罵倒する。

「いや、だって、Ⅾランクパーティがワイバーンなんて倒せるわけがないだろ? それには僕のスキルが……」

「もういい! 有り金、装備全部おいて今すぐ去れ!」

「えっ!? これは僕の物じゃないか!」

「何言ってんだ! お前が役立つ魔術師だっていうからパーティに入れたんだ。無能だったら違約金を払うのが当たり前だ!」

「そうだぞ! オラーツの言うとおりにしろ!」

 横から盾役の男も凄んでくる。

 なるほど、全員アルの追放には賛成なのだ。僧侶はオラーツの彼女だから分からなくもなかったが、盾役にも言われてしまったらどうしようもない。

 アルは肩をすくめると、杖とローブと金貨を数枚地面に放り、

「これでいいか? でも、僕のスキル無しでは帰り道危険だよ?」

 ちょっとムッとした表情でオラーツに聞いた。

「ハッハッハ! お前無しの方がサクサク進むんだよ!」

 オラーツは嘲り笑いながら装備と金貨を拾い、二人に声をかけて帰路につく。

「ついてこないでよね!」

 僧侶はまるで汚らわしい物を見るような眼で、吐き捨てるように言った。


         ◇


 静かになった洞窟で、アルはふぅ、と大きくため息をついた。

「またクビになっちゃった。目立たずうまく仲間とやっていくって無理ゲーだよな……」

 アルは手ごろな岩の上に腰かけ、ウンザリとした表情でしばらく額を押さえる。

 そして、指先を目の前でツーっと動かし、空間を裂くと、中からホットコーヒーを出して、ダンジョンの広間で一人コーヒーをすすった。

 ピチャーン、ピチャーンと、どこかで水滴が垂れる音が響いている。

 さて、どうしようかと、思案に暮れていると、遠くでかすかに戦闘の音がする。


 キーン! キーン! グォグォォォォ!


 あの声はオーガ……、二匹のようだ。

 来る時には瞬殺できたが、それは自分がオーガの防御力を秘かに落としていたからなのだ。行きと同じつもりで戦っているとしたらヤバい。

「ざまぁ!」

 そう吐き捨てるように言ったアルではあったが、自分のせいで人死にが出るのはちょっと後味が悪い。

 アルは頭をくしゃくしゃとかきむしると意を決してコーヒーを飲み干し、空間を跳んで戦闘地点のそばへと瞬間移動する。

 案の定、オラーツたちはオーガ相手に苦戦していた。

 そこは祭壇のある広間で、アーチを作る円柱の陰からそっと様子をうかがう。

 オーガの筋骨隆々とした鬼のような巨体から繰り出されるパンチ、オラーツは回避に失敗してまともに喰らい、吹き飛んだ。


 ぐはっ!

 僧侶が急いで治癒魔法を展開するが、次にオーガは僧侶に狙いを定める。盾役はもう一匹のオーガにかかりっきりでとても助けに行けない。

 ズン! ズン! ズン! とオーガは凄い速度で僧侶に迫る。


「ホ、ホーリーシール……ぐはぁ!」

 シールド展開が間に合わなかった僧侶はオーガのパンチの餌食となった。ボキボキっと言う嫌な音を響かせながら宙を舞う僧侶。骨が砕けたようだ。


 僧侶が倒されればパーティは崩壊、全員死亡である。


 僧侶はヒュゥヒュゥと変な呼吸音をあげながら何とか逃げようとするが、立ち上がることも出来なかった。

 ニヤリと笑うオーガ、すくみあがる僧侶。

 そして、オーガが打ち下ろす瞬速のパンチが僧侶に向かって放たれ、僧侶は失禁しながら目をギュッとつぶる。

「しょーがねーな……」

 アルは大きく息をつくと、僧侶の前に跳んだ。


 ガッ!

 次の瞬間、アルがあっさりオーガのパンチを受け止める。


 へっ?

 オーガも僧侶も何が起こったのか分からずにポカンとする。

「ゴメンねー」

 アルはそう言うと、つかんだ拳から魔力を一気にオーガの身体に流し込んだ。

 グォッ!

 オーガは一瞬苦悶の顔を浮かべると、まるで風船のように全身がボコボコと膨らみ始める。

 ヒィッ!

 僧侶は見たこともないその恐ろしい異形に、恐怖で顔を引きつらせる。

 直後、オーガはパン! と、音を立てて弾け、汚い体液がバシャバシャと僧侶の上に降り注いだ。

 アルはシールドで自分の身を守りつつ、うれしそうにその様を眺めた。

 オラーツは何が起こったのか良く分からずに、ポカンと口を開けて立ち尽くす。


 ウガァ!

 仲間をやられたことに怒ったもう一匹のオーガがアルをにらみ、大きな石を持ち上げる。

 そしてサッカーのスローインのようにすごい速度でアルに向けて放った。

 アルは落ち着いて避けたが、石は床にガンっと当たった後、円柱を直撃する。年季の入った円柱はもろくも崩れ去り、アーチの大きな石たちがバラバラになりながらアルたちの方へと倒れてくる。


「ひぃっ!」「うわぁ!」

 オラーツたちは急いで避けようとするが間に合わない。

 僧侶もオラーツも直撃を覚悟したその時だった。なんと時が止まった――――。


 降ってきた大きな石たちは空中でピタッと止まり、興奮したオーガは目玉を血走らせながらマネキンのように静止している。完全なる静寂がダンジョンを覆ったのだった。

「え……?」「はぁ?」「へっ!?」

 一体何が起こったのか分からないオラーツたち。

「だから俺無しじゃ無理だって言っただろ?」

 アルはスタスタとオラーツに近づきながら言った。

「こ、これは、お前がやったのか?」

 オラーツはアルの恐るべき能力に愕然とし、どういうことか分からず後ずさる。

「そう、これが僕の本当の姿。黙っててゴメンな」

 そう言いながらアルは僧侶を治療すると、盾役と共に空間操作でオラーツの隣に連れてきて転がした。

「はうっ!」「ぐは!」

 

 そしてアルはオーガに向かってデコピンの様にして素早くパチンと指を弾く。弾かれた空気は渦の弾となり一直線にオーガの額を貫いた。

 直後、パン! と破裂音がしてオーガの頭は吹き飛ぶ。

 オラーツはその一連の人間離れした技に、言葉を失って立ち尽くした。

(アルは無能なんかじゃない、Sランク魔術師……いや、人間ができる技じゃない。神か悪魔か……とにかく人間なんかじゃない……)

 オラーツはとんでもない存在を邪険にしてしまったことに、ひざがガクガクとなった。


 アルは腰に手を当てると厳しい口調で三人に言った。

「お前らの技量で三十八階なんて無理、これからは二十階を上限とすること、分かったな?」

「ハイ」「はい……」「はぃ……」

 力なく答える三人。

 アルは満足そうに彼らを見渡すとにこやかに言った。

「それから、このことは口外しないこと。したら三人ともこの世から消すよ? 僕は『このパーティをクビになった無能』。分かったね?」

「わ、分かりました!」「ハイ!」「ハイ!」

 三人は顔を真っ青にしながらおびえて答える。


 アルはそんな三人を見ながら、一カ月間一緒に冒険してきた仲間との関係がこんな事になってしまったことにウンザリして、ふぅとため息をついた。一体何が悪かったのだろうか。


「まあいい、さよなら」

 アルはそう言って、パチンと指を鳴らし、三人をダンジョンの外に転送した。

 

       ◇


 アルは時間の流れを元に戻すと、転がった大きな石の上に座り、両手で顔を覆った。

「さて、どうすっかなー」

 パーティをクビになったことは上司に報告しないとならないが、三カ月ですでに三回目。何と言ったらいいだろうか。

 貧乏ゆすりが起こす衣擦きぬずれがカサカサと音を立てる。

 実はアルは転生者なのである。東京のアラサーITエンジニアで技術力には定評があった。しかし、デスマーチに次々に突っ込まれ、最後は机に突っ伏したまま冷たくなって過労死してしまったのだ。

 そして、それを哀れんだ女神が、アルの技術力を生かせる先として、仕事を手伝う条件でこの異世界へ転生させてくれたのだった。

 仕事というのはこの星の運営を邪魔するテロリストの調査。ギルド周辺でテロリストの出没が観測されており、アルは冒険者を装ってギルド周りでの怪しい動きを追っているのだ。

 しかし、パーティーをクビになってしまっては調査は続けられない。非常に痛い失態だった。


 アルはガバっと起き上がると、

「報告は他のパーティに入ってからにしよう」

 そう言って虚ろな目でギルドの裏手に跳んだ。


          ◇


 アルは石造りの年季の入った建物の木製のドアをギギギーっと開け、

「おつかれさまで~す」

 と、ギルドの中へと入って行った。むわっとしたタバコの煙に思わず顔をしかめる。


 ギルドは手前に冒険者たちのくつろぐロビースペースがあり、奥にカウンターがあって受付嬢が座っている。

「こんにちはぁ」

 アルはやや引きつった笑顔で受付嬢に話しかけた。

 えんじ色のジャケットをピチッと着込んだ真面目そうな女の子がちょっと怪訝けげんそうに返す。

「アルさん、あれ? お一人ですか?」

「そうなんですよ、パーティクビになっちゃった」

 アルは苦笑しながら言う。

「えっ!? またですか?」

 受付嬢は憐れみを込めた視線を投げかける。

「まぁちょっと冒険観の不一致って奴だね」

「前回もそう言ってませんでしたっけ?」

「えっ!? よく覚えてるなぁ……」

 アルは額に手を当てて一本取られたといった感じで返す。

「Ⅾランクパーティに空きがあるところなんてないですよ?」

 受付嬢はジト目で見る。

「えっ!? ……。他の……他のランクなら空きはありますか?」

 アルは焦って聞いた。

 受付嬢は眉間にしわを寄せながらファイルを開き、メンバー募集状況をチェックしていく。

「えーとですね……。あ、これ……。でもBランクですね」

「Bかぁ……」

「でも、ここ、ベテランパーティだから、アルさんじゃ若すぎるかも?」

 ここでアルはひらめいた。今までは十代のパーティにばかり入っていたから失敗したのだ。身体は十代でも中身はアラサーのアルには十代のパーティは若すぎだった。


「いや、そこがいいです! ぜひ、紹介してください!」

 アルは目を輝かせて頼み込む。

「Bですよ? Dランクのアルさんでは入れてもらえませんよ」

 受付嬢は渋い顔で首を振る。

「いやいや、昇格試験を受ければいいですよね? 試験してくれないかな?」

「試験……ですか……?」

 怪訝そうな顔の受付嬢。

「お金払えばやってくれるんですよね?」

「いやでもCを飛ばしてBだなんて……」

「大丈夫、試験受かりますから!」

「えぇ……。あ、丁度いい所に! マスター!」

 受付嬢はギルドマスターが入ってきたのを見つけ、手を振った。

 そして、試験の希望を伝える。

「B? Bなのか?」

 日焼けした肌でガッシリとした体格のマスターは口ひげを触りながら険しい目でアルを見た。

「だいぶ魔法にも慣れてきたので、Bに挑戦したいんです」

 アルはニコニコしながら言った。

「飛び級だと試験料は金貨一枚だぞ?」

「はい、わかってます」

 そう言ってアルはポケットから金貨を出すと、マスターに差し出した。

 マスターは金貨をじっと見つめ、言う。

「落ちても返さんぞ?」

「受かるから大丈夫です」

 アルはニコッと笑った。


       ◇


 ギルドの裏手の人気ひとけのない広場が試験場だった。

 マスターに呼び出された召喚士は地面にガリガリと大きな円と六芒星を描き、ルーン文字を書き込んでいく。

「Bランク・モンスターを呼んでもらうからな、倒せたら合格だ」

「分かりました」

 アルは軽くピョンピョンと飛び、準備体操をしながら召喚を待つ。


 その時、誰も気がつかなかったが、一人の少女が空の上からじっとその様子を眺めていた。

「あやつら、面白そうな事をやっとるのう……、ちょいといたずらしてやるか!」

 銀髪にピンクトルマリンの鮮やかな瞳の少女はニヤッと笑うと指を組み、ブツブツと呪文を唱えた。


 召喚士が魔法陣を描き終えた時だった、ブゥン! と、不気味な低音が響き、一瞬辺りが闇に覆われるとタキシードを着たひょろりとした男が現れた。

「へっ!?」

 召喚士は焦る。まだ魔法陣を描いただけなのに何かが召喚されてしまったのだ。

 ギルドマスターも焦った。事前の打ち合わせではBランクのオークを呼ぶという事だったのに、この男は魔人。それもまとっている強烈なオーラの魔力は破格であり、もしかしたら上級魔人かもしれない。

 すかさずマスターは短剣をスラリと抜いて身構えたが、魔人には隙が全く無く、動けずにただ冷や汗を流すばかりだった。魔人はニヤニヤ笑いながら無造作に立っているだけのように見えて、視線の動きで絶妙にマスターをけん制してくるのだ。

 空の少女はうれしそうにワクワクしながら成り行きを見守っている。


「じゃ、倒しますよー」

 アルは呑気に右手を魔人に突き出して言った。

「あら、小わっぱ! このワタクシを倒すと言ったか!」

 魔人は紫色の唇を開いて甲高い声を上げる。そして、アルに向けて空中に虹色に光る複雑な魔法陣をいくつも展開した。

 マスターは真っ青になる。しゃべる魔物、これは間違いなく上級魔人。だとすれば超Sランクの魔物であり、災害級である。そしてこの虹色の魔法陣は、伝説に伝わる全てを貫通して破壊しつくす究極魔法ではないのか? もはや王都は壊滅の危機を迎えていた。


「Bランクなのにしゃべれるんだね」

 アルは首をかしげながら五、六発、初級魔法のファイヤーボールを魔人に向けて放った。

 魔人にとってはファイヤーボールなど直撃しても痛くもかゆくもないので、無視して究極魔法に魔力を充填して行く。

 直後、魔人にファイヤーボールが直撃し、爆発した瞬間、アルは神の力を使って魔人の魂の回線を切断した。どんな生き物にも身体を動かしている魂があり、それと身体の間にある回線を切断したら命は失われるのだ。

 果たして魔人は即死し、ファイヤーボールの爆発の勢いでその死体が吹き飛ばされ、地面に転がった。


「へっ!?」「はぁっ!?」「ほう?」

 それを見ていた三人はそれぞれ驚きで固まった。魔人はファイヤーボールなどでは死なない。しかし、死んだのだ。一体何が起こったのか誰にも分からなかった。


「倒しましたよー。合格ですよね?」

 アルはニコニコしながらマスターに聞いた。

 マスターは無言でアルを見つめる。

「え? ダメ……ですか?」

 不安になるアル。

「君は……SSSランク……なのか?」

 マスターは真剣なまなざしで聞いてくる。

「え? Bランクの魔物倒したらBランクですよね?」

 アルは冷や汗をかきながら答える。

 マスターは召喚士と目を見合わせ、そして目をつぶって腕組みをしながら悩む。

 しかし、答えなど出ない。

「良く分からんが少なくともB以上は確実……。とりあえずBランクのギルドカードは出そう。約束だからな」

 渋い顔でそう言った。


 あっけに取られていた空の少女は、

「これは面白い事になってきたぞい!」

 と、ニコッと笑った。


          ◇


 受付で念願のBランクのギルドカードを発行してもらったアルは、キラキラとした目で『B』の文字が大きく彫られたカードを眺めながら、

「Bランクパーティ紹介してくださいよ!」

 と、受付嬢にお願いした。

「わ、分かりました。次に彼らが来た時に聞いてみますね」

 そう言いながらファイルを取り出す。


「君、我と組もう!」

 アルはいきなり肩を叩かれ、驚いて振り向く。

 そこには銀髪の美しい少女がニコニコして立っていた。

「え……? あなたは?」

 とまどうアル。

「我はクローデット・デュランベルジェ、『クロ』と呼ばれてるわ。Sランクだから腕に不足はないと思うわよ」

「S!?」

 アルは驚いた。Sランクというのは王都にも数えるほどしかいない。そのうちの一人が声をかけてくるというのは想定外だった。

「えっ!? Sランクに銀髪の女性はいませんが……」

 受付嬢は困惑したように言う。

「まぁ、試験してもらったことはないからねぇ。自称Sランクってことよ」

 クロは悪びれもせずに言った。

 しかし、確かにクロの周りから微かに立ち昇るオーラは明らかに異質であり、そのピンクトルマリンの瞳の奥からは名状しがたい威圧感を覚える。

「組むと言っても二人じゃパーティになりませんよ?」

 アルは気圧けおされながら言う。アルの目的は目立たず、冒険者稼業しながらテロリストの情報を集める事。こんな派手な娘と組むのは避けたい。

「何言ってるの。君と我の二人で倒せない魔物などいないわよ」

 ニコニコしながらそう言ったクロは、急にアルの耳元でささやいた。

「組んだ方がいいと思うわよ。我は君の秘密知ってるのよ」

 クロはニヤッと笑う。

「へっ!?」

 アルは焦った。この少女は一体自分のことをどこまで知っているのだろう。事と次第によってはこの娘の口を封じねばならない。

 アルは急いで鑑定ツールを走らせてクロのデータを取った。しかし、浮かび上がった画面には『鑑定不能』との文字が並ぶばかり。クロはただの人間ではなかったのだ。

 焦るアルをニヤリとしながら見つめ、クロは言う。

「我はそう簡単には倒せないわよ? まぁ、今すぐ決めろって言ってる訳じゃないのよ。お茶でも飲みながら話さない?」

「そ、そうですね……」

「じゃ、レッツゴー!」

 そう言うとクロは上機嫌にアルの手を引いていく。

 アルは面倒なことになってしまったと思い、助けを求めるように受付嬢と目を合わせたが、受付嬢は肩をすくめただけだった。

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