第90話 桜宮美鈴、御一行様


昨日(土曜日)の話……


朝から美鈴ちゃんや智恵さん達が家に集まっていた。


「………というわけです」


霧峰美里さんが調べ上げた『コミー・マート』の件を報告していた。


「酷い!」

「確かに許せません!」


美鈴ちゃんと智恵さんは頭に湯気が立ちそうな程怒ってらっしゃる。


「美里さん、ちょっといい?」

「はい、何でしょうか?」

「東西南北銀行が絡んでいるのは分かったけど、それって組織ぐるみなのかな?」

「いいえ、支店長の独断のようです。私が調査したわけではないので断言はできませんが……」


貴城院セキュリティーサービスの情報なら問題はないだろう。


「わかった。ありがとう」


「光彦くん、私そのパーティーに参加します!」


美鈴ちゃんは、そう言うが……


「私もその議員の事は許せません!私も参加します」


続いて智恵さんも続いた。


「俺は構わないけど、叔父さんがなんて言うか……美鈴ちゃんに甘いのは知ってるけど、あの人意外と頑固だしなあ〜〜」


「お父さんなら私が説得します!」


貴城院家、桜宮家は、パーティーに出席するだけでその影響力が強過ぎる故に身内や懇意にしてる知り合い以外のパーティーには出席しないという暗黙のルールがある。


すると、智恵さんが口を開いた。


「美鈴さんや光彦さんがダメなら私だけでも出席します!」


智恵さんがいつになく熱くなっている。

この件に議員が絡んでいるので許せないのだろう。


「そう、みんな急くんじゃない。一旦落ち着いて考えたらどうじゃ。正式にパーティーに参加しなくとも手は幾つもある。例えば、余興要員として潜入し芸を披露するとかじゃな」


「「「それだ!!!」」」


桜子婆さんの提案にみんなが頷く。


「それなら、あっしらも参加できるじゃん」

「うん、美味しい物がたくさんありそう」


美幸や木葉も参加したいようだ。


「ねえねえ、光彦兄さん、僕も参加したいよ」


うんうん、和樹くんがそう言うなら俺も頑張るか……


「わかったよ。みんなが参加できる余興って何があるかな?」


「お芝居とか?」by 涼華

「私はフルートの演奏ぐらいしかできません」by 美鈴

「私は、小さい頃から習っているピアノですかね」by 智恵


「お芝居は時間が足りないし、フルートやピアノだとみんなが参加できないし〜〜」


そう悩んでいると、ひとりスマホゲームをして遊んでる茜ちゃん。

しかも、遊んでいたゲームは……


「それだ!」


そう言って茜ちゃんのスマホを取り上げた。


「あっ!お兄さん、何するのよ。もう少しでクリアできたのに〜〜!」


「ごめん、茜ちゃん。みんなこれなんかどう?」


俺は茜ちゃんのスマホゲームをみんなに見せた。


「太鼓ですか、それならみんなも参加できそうです」


美鈴ちゃんも異論はないようだ。


「でも、太鼓をどうやって用意するの?練習だってしないといけないし……」


涼華の最もな意見ありがとう。


「そうだよね〜〜うむ……」


すると、楓さんがやってきて、


「和太鼓なら貴城院家の祭礼部門にありますよ。本宅の倉庫にあるはずです」


「それなら、今から取りに行けば……」


すると、楓さんはスマホを取り出してどこかに連絡を入れていた。


「その必要はありません。今連絡を入れましたので2時間ほどでこちらに届くと思います」


流石、楓さん。頭が上がらないよ。


「じゃあ、その間に演目を決めてしまいましょう。やるなら、恥ずかしくない程度はできてないと」


真面目な智恵さんは既に腕まくりをしていた。


「そうよね、それにせめて2曲はやらないと場が白けるわ」


涼華の提案で演目を探して2曲披露することになったのだが……


「お兄さん、名前はどうする?」


「名前ってチーム名とかかな?茜ちゃん」


「そう、こう言うのって名前があった方がかっこいいし」


確かにそうだけど……名前を決めるのは拾ってきた子猫のイクラの時を思い出す。


「私、『太◯の達人』がいいと思う」


茜ちゃん、それゲーム名だから……


「レ・タンブルなんてどうでしょうか?」


美鈴ちゃん、それってフランス語でブリキの太鼓って意味だよね、しかも映画名だし……


「無難に太鼓クラブでしょうか?」


まあ、智恵さんらしいけど……


そして、太鼓が届くまで延々と名前付けだけで過ごしたのだった。


最初から嫌な予感はしてたんだよ……本当だよ。





そして、日曜日……


緞帳が降りた舞台の上で待機する俺達。

祭りのと書かれたお揃いのハッピをみんなが着ている。

頭にバンダナを巻いているのは、簡易の素性隠しの面もある。


そんな俺は水瀬スタイルだ。

貴城院スタイルでは、会ったこともない小宮弥生さんのところに行くのが不自然という理由らしい。


主に女性達からそう言われた。


「僕、緊張してきたよ〜〜」

「和樹、大丈夫。会場にいるのは芋虫だと思えばいい」


木葉、何を言ってる?


その後、会場の方から俺達を紹介する声が聞こえた。

その声に合わせて緞帳が上がりはじめた。


「みんな、練習どおりにね。いくよーー!」


そして、演奏が始まったのだった。

練習よりは上手くいってる。

みんな本番には強いようだ。


2曲ほど披露して、会場から拍手が湧き上がる。


「みんな、お疲れ!良かったと思うぞ。会場のみんなも満足してくれたようだし」


みんなやり切ったようで満足した顔をしてた。


「では、参りましょう。光彦くんは大人しくしていて下さいね」


美鈴ちゃんから釘をさされた。

いろいろな暴挙を涼華あたりから聞いたのかも知れない。


美鈴ちゃん、智恵さん、美里さんが揃って、小宮弥生の元に向かった。

俺もその後をついていくが、なぜ美里さんは消化器を持ってる?


美鈴ちゃんは、被っていたバンダナを外して声をかけた。


小宮弥生さんに絡んでいた男の文句が聞こえたようだ。


「くだらない余興で悪かったですわね?」


「えっ……あなたは……」


それは小宮さんも驚くよね〜〜出席しないはずの美鈴ちゃん達がいるんだから。


「小宮弥生さん、桜宮家としては参加できませんけど、今日は個人的に参加させてもらいました。私達の演奏はどうでしたか?」


「あの〜〜何で……?」


「同じ学舎で学ぶ仲間です。困っている時には力を貸すのは当たり前です」


美鈴ちゃん、カッコいいね〜〜。


そして、智恵さんもそこで驚いている男に声をかけた。


「新興家の我間修斗ですね?朱雀学園にいた時、散々嫌な目付きで私達のことを見てましたよね?ところで、何で『ガマセルク』の人がライバル会社のパーティーに出席してるんですか?もしかして、産業スパイですか?それは問題ですね〜〜」


「ち、違う。こんな会社がうちのライバルとあり得ないだろう?それに、この女に言われてここまで来てやったんだ」


「ライバル会社としてあり得ないですか。では、桜宮家、三条家にとって貴方はノミみたいなものですね。会話することも烏滸がましい。それとノミは、バルサンで退治しないといけません」


智恵さんがそう言うと霧峰美里が持っていた消化器で我間修斗目掛けて発射した。


『うわっ!』


そう言って尻もちをつく我間修斗。

美里ちゃんはこの時の為に消化器を持ってきたらしい。


会場は一時パニックになったが、司会者の男性がみんなを落ち着かせた。

騒ぎを聞きつけ東西南北銀行の支店長がこの場にやって来た。


「これはどういうことだね?このお方は『ガマセルク』の御曹司だぞ。お前達何かが気安く話をしていいお方ではない!」


桜宮家そして三条家の面々を知らない支店長は、そう言って我間修斗を庇った。


「おや、そこの支店長さんはこのノミを知ってるんですか?それは何故ですか?」


何か美鈴ちゃんが怖いんだが……


「私程の人物になればそれくらいわかる。それより、君達は何だね?悪ふざけにしても度が過ぎている。これはれっきとした犯罪だ」


すると霧峰美里が前に出て来て


「犯罪ですか?では、融資を引き上げると脅して娘を差し出せば考えてやるとある企業を脅したのは犯罪ですね。江戸時代じゃあるまいし今時、そんな思考をする奴がいるとは考えられませんね。


それと支店長決済の枠を超えて融資するのは犯罪ですか?まあ、その件は銀行内部で片付けてしまうでしょうが、その罪を気に食わないと言う理由でひとりの男性行員になすり付け退職に追い込みましたね?


それと、そこに転がっているガマセルクの我間修斗を唆し、資金を出させて『コミー・マート』本店の隣接地を密かに手に入れようと画策してましたね。そこにいる市会議員の人もグルになって。それで、『コミー・マート』の土地を手に入れて何をしようとしたのですか?


もしかして、そこの市会議員さんの経営する不動産会社に安く売るつける手筈だったりして?」


美里さんがそう言うと、顔を真っ赤にして怒りはじめた。


「子供だと思って優しく話をしようとしたが、無駄だったようだな。大人を舐めると痛い目に遭うぞ!」


すると、美里さんはタブレットを取り出して美鈴ちゃんに渡す。


そこには、リアルタイムである人物が映っていた。


『お久しぶりですね。卯酉頭取』

『これは、桜宮美鈴様、お久しぶりです』

『事前に資料をお送り致しましたが、読んで頂けましたか?』

『勿論です。すみませんが画面をそこの男に向けてもらえますか?』


画面に映っていたのは、東西南北銀行の卯酉頭取だった。


何せ、東西南北銀行は、桜宮コンチェルン傘下の銀行だ。


『話は聞いた。私が誰だかわかるよな?』


そこには顔を青くした眼鏡の男が震えていた。


『は、はい。卯酉頭取であります』


『私は君の名も所属も知らん。勿論、顔もだ。さて、桜宮様から頂いた資料を読む限り行員としてあるまじき行為をしていたようだな。申し開きはあるか?』


『私には何が何やらさっぱりで、勿論、悪い事は何もしておりません』


『そうか、私の手元には君とそこにいる市会議員の何とかと言う輩の念書があるぞ。土地を手に入れた時の価格と君が受け取る金額が記載されている。これはどう言うことだね?』


この場にルナがいないのは、裏方さんをお願いしてたからだ。

勿論、その念書もルナの手によって得られたものだ。


『そ、それは……記憶にありません』


『そうか、では仕方がない。美鈴様、後はご自由になされて下さい。責任は私が持ちましょう』


そう言われて、美鈴ちゃんはニコリと笑った。


『ええ、わかりました。卯酉頭取、それではまた』


そう言ってタブレットを美里さんに渡した。


「さて、言い逃れをしても罪は重くなるばかりですよ。そうだ、言い忘れてました。私は桜宮美鈴。桜宮コンチェルンのCEOの長女です。そして、東西南北銀行は、当コンチェルンの傘下にある銀行です。この意味がお分かりですか?」


「桜宮家……」


「何も答えられないようですね。既にこの時間、そこの市会議員の事務所、家などに家宅捜査が入っています。勿論、貴方の家と銀行にもです」


美鈴ちゃんが話をしている途中で、電話を受けながら例の市会議員がこちらにやってきた。


「これはどう言うことだ。何で私の家に家宅捜査が入っている?もしかして、このガキ達のせいか?」


事情をいまいち飲み込めない市会議員は怒鳴っていた。


すると、今度は智恵さんがタブレットを美里さんから預かった。

リアルタイムでその画面に映っていたのは……


『あ、お父さん?資料を読んでくれた?』

『ああ、読んだぞ。それにしても酷い話だ』

『それでどうする?』

『勿論、自憲党からは抜けてもらおう。それに警察沙汰になったようだし、こちらもその件で打ち合わせをしなければならない』


「だそうですよ。楠根金太元市会議員さん」


「お前、いや貴女は……」


「そうでした。自己紹介がまだでした。私は三条智恵。自憲党福総裁の娘ですけど、それが何か?」


すると、顔から脂汗を流す楠根議員。


「あの……次期総裁候補の三条議員のお、お嬢様ですか?」


楠根議員もすっかり状況を把握したようだ。


「とにかく、この場で言い合っても仕方ありませんね。既に警察の方が宴会場のドアの向こうで待機しています。お話はそちらでごゆっくりどうぞ」


智恵さんは冷たくそう言い放った。

諦めるように項垂れる楠根議員。

だが、もう一人の男はそうでもなかった。


「なんだ!この茶番は!俺は認めない!こんなの何かの間違いだ!」


そう言って走り出して逃げ出した。

だが、智恵さんが言ったようにドアの向こうには警察官が何人もいてに直ぐに捕まってしまった。

すっかり大人しくなった楠根議員も素直に連行されている。


この場に残った関係者は、消化器を浴びて真っ白になった我間修斗だけだった。


そこに智恵さんが近寄った。


「我間修斗、学園の人達に聞きました。学園ではイジメにあっていたそうですね?」


「そ、それがどうした!」


「イジメは勿論、加害者が絶対的に悪いです。その事については同情します。ですが、貴方は、その鬱憤を晴らす為に自分より立場の弱い小宮さんに目をつけた。そして、自分がされた以上のことを小宮さんにさせようとしましたね」


「それのどこが悪い!この世は弱肉強食なんだ。立場を利用して弱い奴らを従わせるのがこの世の掟だ!」


『パシーン!!』


智恵さんは、そんな風に話す我間の頬っぺたを思い切り平手打ちした。


「我間修斗!朱雀学園の成績は殆どがCで埋め尽くされています。語学に関してはD、赤点ギリギリのDランクです。


あの学園を小学部から通っている者達は3カ国語は話せるのが常識です。

貴方は『ガマセルク』という会社の跡取りなのでしょう?


何故、他人を貶める為に労力を使うのです。 

使うなら自分を高める為に使うべきです。


貴方は他の者より恵まれて生まれてきたのですよ。この日本でさえ、今日食べるパンを買えない人もいるのです。


それをイジメの被害者から加害者に代わって貴方はそれで良かったのですか?


容姿の件でイジメられていたようですが、それが何だと言うのです。容姿やお金で寄ってくる者は確かにいます。ですがその者達は利用するだけ利用して不味くなったら逃げてしまう、そんな人達ばかりです。だから、容姿など気にせず真っ当に生きて下さい。


お父さんが経営する『ガマセルク』は今後国内に留まらず海外に目を向けるはずです。いや、既にその方向で動いていると思われます。そんな会社の跡取りが英会話すらできないなど、もっての外です!


人を貶めるより勉強しなさい!


もし、貴方が真っ当な道を歩むのなら、貴方が困った時に私達が手を貸すのも藪坂ではありません。今回の小宮さんのようにね。


我間修斗!良き二代目経営者となるべく日々精進なさい」


智恵さんは一気に我間修斗に向けて言葉を投げつけた。

我間は、思うところがあるようで俯いて震えていた。

もしかしたら、泣いていたのかもしれない。


そして、おもむろに立ち上がり、肩を下げてこの会場から出て行ったのだった。

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