第68話 御曹司は女の子の事情を知る
将来の夢が『キャバ嬢』になること、と言う赤いジャージを着た家出少女と遭遇してしまった俺は、魂溢れる説得のおかげで一先ず、家に招き入れることに成功した。
嘘は良くないよねーー、はい、美幸と和樹君のおかげです。俺はその場面に遭遇しただけです……
「お家には連絡入れといたわよ。落ち着くまで居ても良いってお母さんは言ってたわよ〜〜」
浩子さんは、茜ちゃんちのお母さんに連絡してくれたようだ。
「そうですね、今帰っても同じことの繰り返しでしょう。しばらくこの家から学校に通った方が良いですね。ですが、この家にいる間に落ち着いて将来を含めてきちんと自分のことを考えなさい」
楓さんが登場して茜ちゃんに忠告する。
「あ、メイドさんだあ、可愛い〜〜」
当の本人は、どこか他人ごとだった。
「あれ、光彦君帰ってたんだ。今日は遅かったわね」
涼華が部屋着のまま頭にタオルを巻いて登場した。
どうやらお風呂から出てきたようだ。
「ちょっと、いろいろあってね」
そう返答する間に、涼華は茜ちゃんを見つけたようだ。
「ま、まさか、光彦君その子を誘拐してきたの?光彦君ってもしかしてロリコン?」
失礼な事を言う涼華だった。
「やはり、私が言った通りロリコン変態野郎だったのね。キモっ」
涼華の言葉に反応して茜ちゃんが俺を見てそう呟く。
「何でそうなる?この子は、カクカクシカジカで……」
俺の二度目になる魂溢れる説明によって涼華もことの成り行きを理解したようだ。
ふう〜〜疲れるぜ。
「でも、わかる〜〜私も小学校低学年の時キャバ嬢に憧れた時期があったわ」
「そうそう、あっしもキャバ嬢なりたいってマジ思ってた時あったし」
美幸ならわかるが涼華までキャバ嬢に憧れた時があるのか……
女の子には人気な職業なのか?
職業に貴賎はないが、小学生が夢見る職業としてどうなの?と感じてしまう。せめてお花屋さんとかパン屋さんになりたい、とか言われた方が安心する。
「何で涼華や美幸は、キャバ嬢に憧れたの?」
「私の場合は、いつも武道着だったから、綺麗な服を着たキャバ嬢が素敵に思えたのよ」
「あっしも似たようなもんだし、現実世界とかけ離れた煌びやかな世界の住人って感じがしてたし」
そんな感じで憧れてたのか……
「じゃあ、茜ちゃんも同じ理由?」
「そういうところもあるけど、男を手玉に取ってお金が沢山もらえて、そして綺麗な服を取っ替え引っ替え着れて、とにかく私は今の生活が嫌なの。綺麗な服をいつも着れるキャバ嬢がいいの」
男を手玉にとるなんて、なんて発想だ……
「綺麗な服を着れるならモデルさんの方が良くないか?」
「ロリコン変態野郎はわかってないわね。モデルってのはね。小さい時から食事制限したり、自分を綺麗に見せるために洋服とかにお金をかけたり、お化粧だって上手に出来ないとなれないのよ。うちにそんなお金はないの!」
そうか、この子はやはり賢くて現実をしっかり把握してたのか……
「それでお金を沢山稼げて、綺麗な服を着れるキャバ嬢になりたかったんだ」
「そうよ。私が男を手玉にとってお金をたくさん稼ぐようになればお父さんやお母さんだって楽できるもの……」
何だ、茜ちゃんは家族思いの良い子じゃないか。
まあ、方法が男を手玉にとるってのはいただけないが……
「そうか、ようやく理解できたよ。まあ、先は長いしゆっくり考えるんだな」
「そうそう、で、茜っち、お風呂行こう。あっしが綺麗、綺麗にしてあげるし」
美幸に連れられて茜ちゃんはお風呂に入りに行った。
その時、玄関チャイムが鳴る。
「夜分遅くすみません。こちらに茜がお世話になっていると聞きまして……」
申し訳なさそうにそう話すのは茜ちゃんのお母さんのようだ。
お菓子の包みと茜ちゃんのランドセルとか着替えを持ってきたようだ。
お母さんの話では、お父さんが数年前に事故に遭いその時に前の会社はクビ同然で辞めさせられたようだ。今は完治して契約社員として働いているようだが、思うような給料を貰えてないらしい。
お母さんは、近くのスーパーでパートをして家計を助けている。
茜ちゃんの上に今年高校を卒業して美容師の専門学校に通っているお姉さんがいるらしい。
その学費とか必要なものを揃えるのに借金したりして、家庭は火の車のようだ。
「じゃあ、落ち着くまでうちでお預かりしますね。うちは女性が多いので茜ちゃんも安心だと思います」
俺の隣で楓さんがそう話す。
「何から何まですみません。ご迷惑をおかけしますが茜の事をよろしくお願いします」
そう言ってお母さんは何度も頭を下げながら家に帰って行った。
◇
翌朝
怒涛の1日のせいで疲れたのか、アラームの音が聞こえてもうつらうつらしていると「お邪魔しまーす」「お邪魔します?」と2人の小さな声が聞こえた。
「まだ、寝てるし〜〜」
「誰?このイケメン!」
「ミッチーだし」
「嘘!このイケメンがあのロリコン変態野郎なの?」
「そうだし」
枕のそばでそんな話しをされても困る。
「あのさあ美幸、黙って入って来ないでって言ったよね?」
「なんだ。ミッチー起きてたん?ちゃんとお邪魔しますって言ったし。それにもう朝だし、起きなよ」
全く聞く耳持たない美幸だった。
「あれ、その子は茜ちゃん?」
「そう、可愛いしょ。楓さんから子供用のメイド服を借りたんだあ。髪型もお化粧もバッチリだし」
確かに赤ジャージを着てた昨夜に比べて見違えるように可愛くなっている。
「うん、良く似合ってる。凄く可愛いよ」
そう言うと茜ちゃんは、真っ赤な顔になった。
「ミッチーもそう思うしょ。良かったね。茜っち」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
茜ちゃんは、そう言ってるが満更でもなさそうだ。
ふと、気になって窓際を見るとやはり苔の鉢がひとつ増えてた。
木葉〜〜!
「そうだ。今日は午後から会社だから美幸、俺の分のプリント預かっておいてくれる?」
「了解だし」
「えっ、会社?どういうことなの?」
「ミッチーは大きな会社の会長さんなんだよ。学生しながら会社も経営してるんだ」
「ウソ……」
「本当だし」
茜ちゃんは驚いているが、この事をあまり口外してもらっては困る。
「茜ちゃん、この事はここだけの話だからね。誰にも言わないでほしい」
「わかった。誰にも言わない」
素直に聞いてくれるとは思わなかったので、少し驚いた。
それから茜ちゃんは、俺に対する態度が180度変わったのだった。
何で?
◇
学校に行くと門のところで立っている井の頭君と目が合った。
井の頭君は俺を目視すると、スルスルと蛇のように生徒の間をすり抜けて近づいてくる。
「よお、水瀬」
「おはよう、井の頭君」
ニタニタと口が歪んでいるが目が笑っていない。
「俺と水瀬は大親友だったよな?」
「そうかな?元クラスメイトだと昨日も言ったと思うけど」
「水瀬の大親友の俺は放課後ひとりで水瀬からの連絡を待っていたんだ。可哀想だと思わないか?」
「そんな約束したっけ…………あ」
そう言えばフィギュアをくれる代わりに美鈴ちゃん達とカラオケ行くって言ってたんだ。いつの間にか特進クラスの親睦会となってた為、すっかり忘れていた。
「思い出したようだな?で、どうなんだ?」
「カラオケだよね。実は昨日クラスのみんなと行ったんだ。続けてカラオケに行く時間もないので残念だけどこの話はなかったことにしてくれよ」
「はあ!?ふざけんじゃねえぞ!何で俺抜きでカラオケ行ってんだ?」
「急遽、クラスの親睦会になったんだよ。井の頭君は特進クラスじゃないでしょう?」
「俺との約束が先だぞ!」
「そんな約束はしてないよ。聞いてみるって言っただけで必ず行くとは言ってないはずだよ」
井の頭君は怒りの形相になり、俺の胸ぐらを掴もうとした時、「それぐらいにしとけ」と、そこに駒場先輩が現れて井の頭君の腕を掴んだ。
「あ、あ、失礼しましたあああああ」
駒場先輩の顔を見た途端、井の頭君は血相を変えて一目散に逃げて行った。
「駒場先輩、ありがとう」
「ふん、構わねえぜ、クラスメイトだしな」
そう言ってその場を立ち去る駒場先輩。
後ろ姿に哀愁が漂っている気がするのは俺だけか?
◇
朝のホームルームの時間。
担任の鹿内先生から話があった。
「皆さん、おはようございます。今日も良いお天気ですね。先生は花粉症があるので、辛い時期でもあるのですが、お薬飲んで頑張ってます」
うむ、いらない情報だよね〜〜
そう言いながら先生は黒板に向かって何かを書き始めた。
黒板に書かれたのは……
「もうすぐ、ゴールデンウィーク。つまり長いお休みに入ります。そこで特進クラスのみんなに提案があります。このクラスは学内では特殊なクラスです。一年生から三年生が同じクラスで勉強をするという画期的なクラスでもあります。そんな画期的なクラスでお勉強できるってすごくないですか?ですので、皆さんにはゴールデンウィークの時に親睦を深める為に
研修旅行に行こうと思います」
『ゴールデンウィーク、特別研修旅行♡』
黒板にデカデカと書かれていた文字だ。
何とハートマークまで書かれている。
「クラスで旅行ですか?」
「はい、涼華さん。その通りです」
「先生、どこに行くんですか?」
「三条さん、よくぞ聞いてくれました。なんと、今回はスイスのジュネーブに行きます」
まさかの海外かよ。しかもジュネーブって……
「凄い〜〜私、海外初めてです」
「熊坂さんのように、そういう方もいると思って早めの連絡です。パスポートが無い方は先生に言って下さい。申請してから1週間ほどかかるようです。また、時間の無い方は旅行会社の方で申請を代行してくれますので早めに申告して下さいね」
「せ、先生、旅行費とかはどうなるんですか?」
「池上君、よい質問です。な、なんと全て無料です!」
これって角太が一枚噛んでいそうだな……
「ですので。お小遣い程度でなんとスイスに行けるのです。しかも、泊まるホテルも都市一番の高級ホテル。もう、行くっきゃないって感じですよね」
おそらく費用は貴城院家から出ているのだろう。
「凄い、みんなで行けるなんて楽しそう」
「涼華さん、楽しそうではありません。楽しいに決まってます!ですが、学校行事の一環ですので今日はスイスのジュネーブについてみんなで学びましょう」
興奮してる先生は、朝のホームルームから休みなく授業に突入するのだった。
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