終章



「―は?」





眉間に深く皺を寄せて、小さな身体に不釣合いな王座に座る少女が呟く。




一見9歳くらいに見える彼女の髪の毛は、異様な程に真っ白で、その長さは腰を軽く過ぎている。




不愉快そうに細められた瞳は、瑪瑙(めのう)の様に美しい赤褐色と白色の混ざり合うもの。




そして、その視線は今、目の前の者に真っ直ぐ向けられている。






「ですから」




そう言うと、対峙する人物は、首にかけている沢山の懐中時計の中から一つを取り出し、ぱかっと開く。





「地球の調査に出向こうと思っているのですが…その…右京殿が…ですね…」





「うちの、右京が何か?」





漆黒の髪の男は、王の視線に耐えられず逸らした。






「同行、したいと…」




直ぐに王が舌打ちする。





「あの馬鹿!」




王は王座から立ち上がって家臣を呼ぶ。




「右京!右京!」




が、返事はない。




「あの―…」




「ええい、黙れ!お前は調査に赴くがいい!だが、右京は許さん!」




温度師の男が言いにくそうにするのをぴしゃりと王が遮った。




「いや、その…」




「?何やら外が騒がしいな」




王の眉間の皺が深くなる。




と。



バタン!




謁見の間の扉が開いて、グスたちがわらわらと入ってくる。




「なんだ、お前達は!勝手に入ってくるとは!」





怒鳴る王に、グスたちは必死に何かを訴えている。




「…なんだと!?」




温度師はあちゃー、と額に手をやった。




「右京が居なくなっただと!?」




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ガコン




自販機から、ペットボトルのコーラが取り出し口に落ちてくる。



僕はそれを拾って蓋を開けた。




キーンコーンカーンコーン




「やべ」




予鈴が鳴ったのに慌てて蓋を閉めなおし、僕は急いで教室へ向かった。





「ぎりぎりだな」




なんとか先生より早く教室に入り、席に着いて安堵していると、前の席の溝端が振り返ってからかうので、




「うるせーよ」




と言って、肩を小突いた。






「おはよう!ホームルームを始めます」




担任の須美子ちゃんは今日も元気だ。



「えっと、まず、季節外れなんだけど―、転入生を紹介したいと思います!」




途端に教室中が騒がしくなった。




男ー?女ー?と口々に須美子ちゃんに問いかけている。




「なぁ、美女だといいな。」




多分に漏れず溝端までもが、僕に同意を求める。




「興味ない」




僕は呆れたように溜め息を吐いた。





「静かに!!!色々事情があって、留学生の子なの。日本語がペラペラだから安心してちょうだい」





ふふふと笑う須美子ちゃんの言葉に、僕は、ひっかかるものを感じる。





前にもこんな事が、あったような―





「さ、自己紹介をしてくれる?」




転入生が教室に足を踏み入れた瞬間、水を打ったような静けさになった。






僕は手に握ったコーラを見つめたまま、なんとなく前を見れずに居た。






その中で、底抜けに明るい声が響く。









「初めまして!クミの友達の右京です!」
















                                             

―fin

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