悪評を広められ孤立した俺に唯一優しくしてくれる後輩の話

水島紗鳥@11/22コミカライズ開始

悪評を広められ孤立した俺に唯一優しくしてくれる後輩の話

 俺、福山翼ふくやまつばさの人生は今どん底にあると言っても過言では無いくらいに酷い事になっている。

 ある日突然、何故か急に俺の悪い噂が大学内で広まり始めてしまい、学内で孤立してしまったのだ。

 俺のいる大学はこじんまりとした1学部しか無いキャンパスのため、あっという間に噂が広まったらしい。

 噂の内容は俺が過去にレイプ事件を起こした犯人だというものやヤクザなどの反社と関わりがある等といった、全く身に覚えの無い事実無根の内容ばかりだった。

 その噂のせいで付き合っていた彼女に振られるわ、サークルに居づらくなって辞めなければならなくなるわ、キャンパス内を歩くだけで好奇の目で見られるわと、現在の状況は最悪だ。

 だがそんな今の俺にも1人だけ優しくしてくれる人がいる。


「翼先輩、元気だしてくださいよ。私は翼先輩がそんな人じゃないって知ってますから」


「……ありがとう、俺に優しくしてくれるのはお前だけだな」


「私はいつでも翼先輩のそばにいますから」


 それは高校時代所属していた放送部の1つ歳下の後輩である綾瀬楓あやせかえでだ。

 綾瀬は高校2年生の4月、電車の中で痴漢にあっていたところを俺が助けたのが出会ったきっかけである。

 高校時代はカースト上位のイケてるグループに所属している綾瀬だったが、痴漢から助けたおかげか俺にべったりであり、妙に懐かれていた。

 放送部に入ったのも俺が所属していたからだし、この大学に入学してきたのも俺がいたからとの事だ。

 俺の悪評が大学内で広がり始めて周りから避けられて孤立するようになった時も、綾瀬だけは俺の味方でいてくれた。

 今の綾瀬は悪評によって完全に弱りきった俺を優しく照らしてくれる太陽のような存在であり、今では彼女無しでは生きていけないと思えるほどだ。

 だからだろうか、最初は妹のような感情しか持っていなかった綾瀬を恋愛対象として見るようになってしまったのは。

 実は高校の卒業式の日に綾瀬から告白されていたのだが、その時は一度断っていた。

 しかし孤立しても今までと変わらない綾瀬の優しさに触れてからはどうしようも無く好きになってしまったのだ。

 一度振った相手に自分から告白するのはどうなのか、そもそも綾瀬はまだ俺の事を好きでいてくれるのかと疑問は色々とあるが、もう気持ちを押さえられそうに無い。


「明日は休みだし、一緒2人どこかに行かないか?」


「勿論行きますけど、翼先輩から誘ってくるなんて珍しいですね。いつもは私から誘ってるのに」


 俺は昼休みに2人で一緒に昼食を食べていた綾瀬を遊びに誘い、彼女ものってきてくれた。

 具体的にどこに行くかはまだ考えてないが、そこで告白する事は俺の中で決定事項だ。


「今日はそういう気分なんだよ」


「分かりました、それでどこに行きますか?」


 俺達は昼食を食べながら2人で話し合って、明日はショッピングへ行く事が決定した。

 そして翌日、俺は精一杯のお洒落をして家を出て駅前で綾瀬と合流する。


「白いTシャツにネックレス、黒スキニーパンツを履いてて髪までワックスでアップバングにセットしてるって今日はめちゃくちゃお洒落な感じですね、身長が高い翼先輩には似合ってますよ」


「ありがとう、じゃあ行こうか」


 俺の身長は174cmとやや平均より高いくらいなのだが、150cm前半代の綾瀬からすれば十分高く見えるらしい。

 綾瀬に褒められて嬉しくなった俺はややハイテンションで歩き始める。

 それから俺達は夕方になるまで2人でショッピングをしながら映画を見たりカフェで休憩したりと、”デート”を楽しんだ。

 ショッピングが終わり駅前にあった公園のベンチに座っていた俺は同じように隣に座っていた綾瀬に声をかける。


「なあ、綾瀬。お前に聞いて欲しい事があるんだけど……」


「何ですか?」


「……あのさ、今更こんな事を言うのは虫がいいって言われるかもしれないんだけど、俺は綾瀬の事が好きになってしまったみたいなんだ。付き合って欲しい」


 ついに俺は勇気を出して綾瀬に付き合って欲しいと告白した。

 告白の言葉を聞いた綾瀬はしばらく黙り込んで下を俯いてしまったため失敗かと思う俺だったが、彼女は顔を上げて口を開く。


「やっとですか、私ずっと翼先輩が告白してくれるのを待ってたんですからね。勿論OKですよ、これからよろしくお願いします」


「やった、ありがとう。これからよろしくな綾瀬、いや楓」


 失敗かと思われていた俺の告白だったが、どうやら成功したらしい。

 悪評が原因で孤立して辛い日々を過ごしていた俺だが、楓と一緒なら乗り越えられそうだ。

 今日は俺にとって人生最高の日と言っても過言では無いだろう。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 やっと翼先輩が告白をしてくれて私は最高の気分になっていた。

 告白された時に顔のニヤケが止まらなくなってしまい、しばらく下を俯いて表情を元に戻すのに必死だったほどだ。

 一度振られた翼先輩に私を恋愛対象として認識させるのは本当に大変だった。

 学内に先輩の悪い噂を流して孤立させるように仕向けたのは、実は全部私の仕業である。

 そんな事をした理由は簡単で、痴漢されて弱っているところを助けられて私が翼先輩を好きになったように、翼先輩を徹底的に弱らせて優しくすれば私を好きになってくれるのでは無いかと思ったからだ。

 私というものがありながら大学で彼女を作った浮気者の翼先輩への罰も兼ねていたわけだが。

 私の目論見通り翼先輩は大学内で孤立し、彼女とも無事に別れてフリーになり、私だけを頼るようになってくれた。

 後はいつ告白してくれるかをずっと楽しみに待っていたわけだが、ついに今日告白してくれたのだ。

 ようやく苦労が報われたわけだが、もう私は翼先輩を絶対に逃す気は絶対に無い。

 次は先輩の家族や親戚などの外堀を全て埋めていって結婚するのが目標だ。

 翼先輩のために大切に取っておいた処女も勿論ささげるつもりだが、穴を空けた避妊具を渡して既成事実を作るというのもありかもしれない。

 まあ、その辺の事は後々ゆっくり考えていっても大丈夫だろう。

 翼先輩は今日友達から彼氏にランクアップし、私のになったのだから。


「大好きですよ、翼先輩」

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