第52話 少しだけ、私は私をほめてあげたい
11月30日 水曜日 18時00分
私立祐久高等学校 生徒指導室
#Voice :
とりいそぎ先生に心配をかけていることを詫びた。
それから、出席日数がどれくらい足りないか? 確認した。
先生が用意してくれた救済措置は、土日祝日も教室で補修を受けることだった。
「すみません。お願いします」
先生に感謝したし、大変に申し訳ないと思った。
「わかってくれたらいいんだ。菅生、キミは成績なら学年トップだし、出席日数以外は何も問題はない。正直にいって先生の授業は、退屈だろうが、補習に付き合ってほしい」
「はい。すみません……」
私は、先生をここまで困らせていたことを恥じ入った。
高梁先生が、ここまで困っていた理由は、きっと、ふたつ。
成績はともかく、私が保健室に入り浸っていること。
私の父が、総合病院の理事長で、学校には多額の寄付をしているということ。
だから、出席点が足りないなんて理由で、留年になんてなったら本気で困る。学校内での高梁先生の立場も面目も丸潰れだ。
私が保健室生活をしている理由は、中学生時代に色々あって、保健室登校していた。それがそのまま高校生になっても続いている。
だから、高校進学の際は、保健室が使いたい放題できるか? 問い合わせて確認した。結果、私立祐久高校が私の進学先になった。生徒の自主性に大きく委ねてしまう校風なので、成績さえ良ければ、何とでもなるの。だから、勉強は頑張った。
何とでもなるといっても、義務教育と違って、高校には、進級や卒業に最低でも必要な出席日数の下限が存在する。
我が祐久高校の場合は、年間授業日数の3分の2以上の出席が必須だった。
「ちゃんと計算していたのに、なぁ」
私は、ひとりため息をついた。
他の生徒から、「保健室の天使」とか「保健室に棲んでる」とかいわれるけど、私だって、授業はそれなりにちゃんと出ていた。
3年生の出席日は全部で192日。そのうち必要な3分の2のは、128日。
つまり、64日は保健室にいても大丈夫って計算になる。それに、土日や放課後は、もちろん保健室にいても問題ない。
あと、こんな経緯と条件で進学先を決めたのだから、自宅からかなり遠い。
快速電車やバスを乗り継ぐの。何とか始発電車でギリギリ通える距離だった。だから、頻繁に保健室にお泊りしている。確かに、棲んでいるといえば、棲んでいるよ。
だけどね、11月初めの段階では、まだ余裕があったはず。
計算が狂ったのは、あのアプリのせい。
そう、私は、授業に出なきゃいけない日も、ひとりで保健室で「キュービットさん」をしていた。いま思い返すと、蒼ざめるくらい繰り返していた。
始まりは、約1か月前のこと。11月8日火曜日の夜。
広田くんから、「キュービットさん」が実行中のタブレットパソコンを預かったの。あのとき、逃げるように立ち去った広田くんの代わりに、私がお片付けをした。
パソコン教室の共用パソコンから、萩谷さんの水着姿の写真とか、ちょっとこれは…… というファイルは、全部消した。まあ、男の子だから、これくらいは仕方ないかって、大目に見ようと思った。
そして、萩谷さんのモノらしいタブレットパソコンは、預かって、明日にでも返そうかなと、思っていた。
だけど、あのタブレットパソコンの画面を見たら…… 私も催眠にかかっちゃったんだ。
それから、あずさや広田くんから聞いたお話も思い出した。
いや、聞いた内容は覚えていたんだけど、頭の中が靄に包まれていて、考えがまとまらなかったの。
でもね、やっとわかったんだ。
感染症対策は、保健委員長のお仕事だよ。
私は、みんなを救いたいんだ。
…… えっと、ね。
あと、少しだけ、私は私をほめてあげたいと思った。
こんな危険なアプリに催眠に掛けられても、私、ちゃんと、保健委員長の役割を間違えてなかった。ちゃんと手当てしているし、誰も呪っていないし、不幸にもしていない。
(ああ、担任の高梁先生には、いっぱい謝ったから……)
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