第42話 みーつけた!
11月24日 木曜日 9時15分
私立祐久高等学校 体育館
#Voice :
りーん
沈痛な全校集会の直後だった。
また、鈴が鳴った。
また、呪いを掛けられた。
呪い主の大雑把な方向と距離なら、何とかわかる。
きっと、影踏みの呪い。距離は、影が届く範囲。
振り向かずに、目線だけで探す。
今度は、わかった。
先週の全校集会のときとは違い、野入くんから誰へ、あのタブレットパソコンが渡っているのか? 情報があるからね。
そっかあ、やっぱり、キミなのね。
◇ ◇
11月24日 木曜日 17時35分
私立祐久高等学校 生徒会室
#Voice :
放課後、生徒会室へ、鹿乗くんと萩谷さんに来てもらった。
ふたりには、今朝の全校集会での出来事を話した。
「やはり青木が……」
「待って。まだ、客観的な証拠は何にもないから、走らないで」
不快感を露わにした鹿乗くんを諫めた。
「いや、しかし、鈴守神社の鈴が反応したのなら、間違いない…… と、思います」
鹿乗くんが、語気を強めた。内心は嬉しかったけど、困惑した目線を浴びせた。鹿乗くんの語尾が、尻すぼみになった。
「あの…… わたしまで呼び出したということは、わたしもですか?」
今度は、萩谷さん。さすがに理解が早くて助かるわ。
「うん。あなたもね。あとで籠川さんや菅生先輩にも声を掛けようと思います。あちらは、きっと、祐久生徒会に逆恨み的な敵愾心を燃やしていると思うから」
一昨日、タブレットパソコンの行方に関する野入くんの証言について、鹿乗くんから報告をもらった。あとで、病院の待合室で野入くんからもお話を聞いた。
青木くんについて、情報をそれとなく集めたの。
その結果はちょっと頭を抱えた。
青木くんは成績優秀者に対して、逆恨み的な言動がちらほら目立つらしいの。
小中学校までと異なり、高校へ進学すると、自分よりも能力的に上位の生徒がたくさんいる環境に行くことになる。入学試験を越えた先に行くんだから、当然といえば当然だけど。
でも、小中学校までの成功体験がいきなり崩されるのって、受け入れられない子もいるよね。彼もきっと、そうなんだと思う。
臥薪嘗胆でいっぱい勉強を頑張って、追い抜いてくれるなら、嬉しいんだけど…… 彼は、呪いに感染してしまったの。
「きっと、無事では済まなくなると思う」
いままでの事件は、誰かを意図的に殺めたいと願ったわけじゃなかった。呪いのアプリに振り回された、最悪すぎる結果なの。
でも、自ら望んで他人を傷つけたいと願う人に、こんな危険な呪いの力が渡ったとしたら…… そう考えると悪い予感しかしない。
生徒会室の照明を消して、私、鹿乗くん、萩谷さんの影を確認した。
スマホのライトで影を見た。
私と鹿乗くんは、予想どおりの結果にげんなりした。
初めて呪いの影を見た萩谷さんは、驚いた様子で口元を被っていた。
「星崎先輩、この影、この前より濃くなってませんか?」
と、鹿乗くん。
「前回のは簡単に切られちゃったから、強化したみたいね」
プラスチックのおもちゃのハサミでは切れそうになかった。たぶん、糸から針金に材質を強化したんだと思う。
「あ、でも、予想の範囲内だから、大丈夫だよ」
私はスクールバッグの中に忍ばせていたペンチを取り出した。
「新品を買って、お清めして、ちゃんと祝詞もあげてあります。これで影を切ってください」
またも、あっけなく呪いの影は切れた。
◇ ◇
「彼を救うのは、ちょっと、難しいかな?」
お守り鈴を渡すのは、さすがに無理だと思う。どうしても、鈴を持たせた状態で、例の言葉を言わないと、鈴と彼を結びつけることができないの。
「それに、萩谷さんのタブレットパソコンがどこにあるのか? 青木くんから聞き出すのは無理かな」
私が困惑した声を出すと、萩谷さんも困った顔でうなずいた。
すると、鹿乗くんがいらだった様子で声をあげる。
「いや、やっぱり、もっと手っ取り早く、青木を呼び出して直接、問い詰めたら良いんじゃないですか」
「呪われているなんて、何の客観的な証拠もないんだよ、それ、無理だってば」
気持ちはわかるけど、鹿乗くんのすぐ、言葉で詰めに行く癖は困りものね。
「あ、あの、私なら…… 青木くんの呪いにも対抗可能だと思います」
今度は、萩谷さん。
「えっ? あ、そ、それは、ぜったい、ダメ」
慌てて止めた。
「でも、みんな臨戦態勢になっちゃって、どうしよう。やっぱり、ヒトヒトさんたちを止めた方がいいですか?」
困ったように萩谷さんが周りを見回した。
鹿乗くんが、ぎょっとしている。
いまも、生徒会室には、萩谷さんに付き従うシビトの群れがぞろぞろといる。
私と萩谷さんにしか見えないけど、この前と打って変わって、かなり剣呑な雰囲気だった。ふんわりした人型ではなく、明確に鎧武者の姿になって長槍を携えている。弓矢はもちろん、鉄砲隊らしい影までいるの。
シビトの群れは私のことも見ている。萩谷さんが、私のことを、先輩として敬意を払って接してくれるから、シビトの群れもそれに倣っているけど。
こっちも、危険性といったら、十二分に考えものだった。
祐久城に立て籠もった城兵は、1500名とも伝わっているの。萩谷さんの配下にいるのは、その一部に過ぎないけど、それでも青木くん相手に呪い返しをするなら、軽くオーバーキルになりかねない。
「もともとが祐久城を守ってた城兵だからね。お姫様に狼藉を犯した不埒者を潰す気で満々みたいだけど、どうか、堪えてくださいな」
群がる人影に向かい、自重をと求めた。
「でも、待っているだけじゃ仕方ないか。
鹿乗くん、この前に保健室でお願いしたことを少し修正します。青木くんのことは、私が担当します。鹿乗くんには、広田くんの方をお願いして良いかな?」
私は、あんまり気乗りしないけど、青木くんを突っついてみようと考えていたの。
◇ ◇
11月25日 金曜日 15時15分
私立祐久高等学校 2年2組教室
#Voice :
お掃除の時間。
教室の窓ふきをしていると、眼下の校庭に彼、青木くんがいた。私を見ていた。たぶん、呪いを解かれたことに気づいて、また、私の影を探しに来ていると思った。
そっか。ちょっと試してみようかな?
ガラスクリーナを左手に持ち替えた。泡で鏡文字を書いた。
窓ガラス越しに笑って見せた。
青木くんが、驚いた顔をしている。
そりゃあ、そうだ。
彼は、影踏みの呪いを使っているだけだもの。誰が犯人なのかは、バレていないと考えていたはず。
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