第36話 動き出した事業

 モリスン男爵を治療してからの私は、騎士の治療を進めながら、領内の孤児たちの問題に手を付けた。これは王都でも私がずっとやって来た慈善活動の一環だったのだけれど…王都よりも田舎で、隣国との戦闘が絶えない辺境伯領では、孤児の問題は予想以上に深刻だった。

 と言うのも、戦闘で亡くなった騎士たちの子供達の数が、私の想像を大きく超えていたからだ。しかも、子供達が小さいからと満足に働けない未亡人が多く、それがより一層貧困に拍車をかけていたのだ。


「ラリー様、騎士たちは治療して社会に復帰させるとして…亡くなった騎士の妻子はどうされています?」

「ん?一応恩給を支給してはいるが…十分とは言い難いのが現状だな…」

「そうですが…では…」


 私はラリー様に、一つの提案をした。それは、未亡人に仕事を与え、その職場へ子連れで出勤させるというものだった。これは最近他国で始まった制度で、私も聞きかじりで詳しい事は知らないが、最初にこの話を聞いた時には我が国でもぜひ取り入れたいと思っていたのだ。


 聞いた話では、その制度は裁縫や料理、売り子など様々な仕事で行われているという。未亡人たちは子供達を連れて出勤して、子どもを預けてからそれぞれの職場に向かうらしい。

 子供達は一つの場所に集められて、そこで文字の読み書きや簡単な計算、国のルールなどを教わるのだという。しかもお昼には、簡単なものとはいえ食事が与えられるのだ。

 未亡人としては子供を預けられて勉強させて貰え、しかもお昼ご飯も食べさせて貰えるとあって、大層人気らしい。未だに平民は文字の読み書きが出来ない者が多いので、親としては最低限の読み書きだけでも…と思うし、子供の世話をしなくても済むため、家で細々と内職するよりも格段に捗り、収入も増えるという。


「しかし…子どもをたくさん連れてこられても…居場所作りが…」

「それでしたら、教会などはどうでしょう?元から人がたくさん集まるように出来ていますし」

「しかし…教会が受け入れてくれるか…」

「それでは子どもをたくさん受け入れた教会には、その分協力金としてお布施を上乗せしては?」

「そうですね、あと、多くの教会は人手不足だと聞きます。それなら草むしりや掃除などを出来る範囲で子供達にお手伝いして貰えば?」

「…なるほど…」


 私の提案に、意外にもメイナードやモリスン夫人が案を出してくれた。


「教会としても人が集まれば布教になります。食事を作るのも集めた子供達に手伝わせれば、親としても子供が料理を覚えるのでメリットがあります。教会もお昼ご飯を領主が準備するとなれば助かるのではないでしょうか?」

「そうですね。子供達が掃除のやり方や食事の作り方を覚えれば、自分の家でも役に立つでしょうし、将来働きに出る時にも役立つでしょう」

「試しに、どこかの教会に協力をお願いして、実際にやってみては如何でしょうか?それで問題点も見えてくるでしょうし、うまくいったらその方法で広げて行けばやりやすいでしょう」


 こうして、騎士たちへの治療と、未亡人とその子供たちへの対策はスタートした。

 騎士たちの治療については、ラリー様は実力があって隊をまとめていた幹部クラスの復帰を願っていたため、そちらから治療を始める事にした。当然だが、出来る人の方がこなせる仕事量が違うのだ。慢性的な人材不足のこの地では、やはり効率性を重視するしかなかった。

 また、未亡人対策としては、メイナードの提案通り、教会の助けを借りる事にした。ただ、大きな教会は資金面で困っていないようで、提案に難色を示したらしい。

 そこで、資金面で厳しい状況の小規模の教会の協力を仰ぐことにした。そういった教会の方が協力を仰ぎやすく、市民との距離も近くいため、やりたい事を試しやすいだろうというのもあった。また、小規模な教会は資金稼ぎのために、刺繍や小物作りなどをして売っているという。子供達が刺繍や小物作りを出来るようになれば、互いにメリットがあるだろう。

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