第25話 ラリー様へのお願い

「失礼します、ラリー様。アレクシアです」


 ラリー様の私室に入ると、既にラリー様がのんびりソファに掛けて寛いでいた。この様子からして、今日は朝から忙しかったわけではないようだ。室内にはメイナードだけでなくスザンヌもいた。ラリー様の護衛だから仕方ないけれど、私が何を言うのか気になって仕方ないのだろう。


「義父上とのお茶を楽しんでいるのだって?」


 家令のメイナードがお茶を入れてくれて、私はそれを受け取った。


「ええ、おじ様に祖母の事を聞かせて頂いていますの。祖母は私の憧れでしたので」

「ああ、そうだね。クラリッサ様は大変な美人な上に有能で、領主としても素晴らしかったと聞いている」

「そうなのですか。ラリー様は祖母にお会いになった事は?」

「そうだね、夜会で何度かご挨拶をさせて頂いた事があるよ。いつでも背を伸ばして、凛とされていたね」

「そうでしたか」

「それに、義父上がこの領地でやった改革の中には、クラリッサ様がやった事を真似したものもあると仰っていたよ」

「そうなのですか?」


 ラリー様からも祖母の話を聞けるとは意外で、とても嬉しかった。祖母は私の憧れであり、目標としている人だからだ。王都でも国王陛下や王妃様も祖母をお手本にしていると仰っていたけれど、こんな遠いところまで祖母がやった事が役に立っているなら嬉しい限りだ。


「ああ、シアは甘いものが好きなのだって?」

「え?ええ、でも人並みにですわ」

「そう?義父上に聞いて、私もケーキを用意させたんだ。是非食べてくれ」

「まぁ、お気遣いありがとうございます」


 メイナードが差し出した、小さめのケーキが幾つか盛りつけられた皿に私は目を輝かせた。小さなケーキがたくさんで、色んな味が楽しめるようになっている。これは王都でも見た事はないわ。まぁ、私が知らなかっただけかもしれないけれど…


 こうして私達の会話は和やかに始まった。最初は近況やここには慣れたかなどの当たり障りのない会話が続いたが、さすがに時間は有限だろうと思い、私は本題に入る事にした。


「ラリー様、本題に入りたいので、ユーニスとメイナード以外の者は下がらせて欲しいのですけれど」

「な…!」


 ラリー様の返事の前に、スザンナが反応した。あらまぁ、主人たちが話しているのに声を上げるなんて随分と堪え性がないのね。


「シア、どうしました?ここには信用できる者しかいませんよ」

「それでも、私の事でもありますし、自分が信頼できる者にしか聞かせたくありません。ラリー様がお聞きになった上で、話してもいいと思われるのであればご自由にして頂いても構いません。ですが、まずはその内容をお話したいのです」

「そうか、わかった。メイナードとユーニス以外は下がれ」

「…な!そんな!ラリー様!私はラリー様の護衛です!お側を離れるなど…」


 スザンヌは不自然なほどに狼狽えていた。何をそんなに慌てているのやら…まぁ、心当たりがあるから心配で仕方ないのね。だったら最初から喧嘩なんか売らなきゃいいのに。


「なんだ?そんなに慌てて。別に四六時中ついているわけじゃないだろう」

「し、しかし…」

「何だ?私がシアに害されるとでも思うのか?」

「い、いえ…そういう訳では…」

「だったら問題ないだろう?可愛い婚約者の初めてのお願いだからな。暫く外してくれ」


 ラリー様って…天然なのか、それともわざとなのだろうか?スザンヌの慌てようを面白がっているようにも見える。でも、ギルおじ様が知っているなら、ラリー様も私とスザンヌ達の事も知っている筈。それでこの態度って…


「さて、婚約者殿、どんなお話かな?」


 ああ、これは絶対に後者だと私は確信しながら、ギルおじ様にお願いしようとしていた話を始めた。


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