第6話 緊張感に満ちた旅程

 屋敷を出発してから七日目。私たちの旅程はおおむね順調だった。途中で一日、雨で足止めを食らったけれど、そんな事はよくある事なのでトラブルのうちに入らない。街道もよく整備されているし、警備団なども配置されていて、問題なく進む事が出来た。


 ユーニスに警告されてから、私も気を付けて護衛達の様子を見ていた。今回同行してくれた護衛は、王都の第一騎士団の四人だった。第一騎士団は王宮と王族の護衛を専門とする国内で一番格式が高い騎士団で、ヘーゼルダイン辺境伯が団長を務めていらしたのもこの騎士団だったという。第一騎士団は王宮と王族の警護が仕事だから、その性質上殆どが貴族出身者で占められていて、今回同行した四人も貴族の出身だった。


「お嬢様、お疲れではございませんか?」


 声をかけてきたのは、マーロー子爵家の長男だった。四十代と最年長でまとめ役的な存在で、気さくな感じで第一印象は悪くなく、最年長と言う自負もあってか、こうしてよく声をかけてくれた。彼は母親が身分の低い愛人のため、家督が継げずそれをずっと恨みに思っているという。


「ありがとう。大丈夫です。皆さんはいかがですか?」

「私共は騎士ですので。これくらい苦でもありませんよ」


 そう言って私に応えたクロフは伯爵家の三男だ。二十歳くらいと一番若く、王妃様のご実家と縁続きで、見た事があるように感じていたが、エリオット様の護衛を務めた事もあったという。ただ、生真面目な性格からエリオット様の不興を買い、要人警護を外されて今は王宮警備に回っているらしい。まぁ、エリオット様の我儘は有名だし、真面目な性格が災いしたらしい。


「頼もしいですわ。さすがは第一騎士団の方々。そう言えば、これから向かうヘーゼルダイン辺境伯様も第一騎士団にいらしたそうですね」

「ご存じでしたか。そうなんです、ヘーゼルダイン様は厳しい事で有名な方でした。私なんかもよく叱られたんですよ」

「まぁ、ではご一緒にお仕事をされていたのですか?」

「一度だけではありますが。剣の腕前がまさに鬼神の様なお方でした。お辞めになったのが残念です」


 そう答えたのは、コーエン子爵家の次男だった。年代的には一番ヘーゼルダイン辺境伯様に近いかもしれない。三十代で騎士としての腕は悪くはないが、賭け事が好きで金銭トラブルを抱えているという。今回、彼だけがこの任務に自ら手を挙げたらしい。今回、王妃様直々の任務のため、報酬がかなりいいのだとビリーが言っていた。


「そうそう、それに大層な美男子でいらしたから女性の見学者が後を絶たなかったんですよ。あんなに騎士団の鍛錬場が華やかだった事はありませんでした」

「まぁ、そうなのですね」


 そう答えるグレイディは子爵家の長男で後継者だ。三十代で見た目は中々に悪くないが、女好きで有名だという。現在、本妻に愛人の存在がバレて揉めているという。この任務を受けたのは、そんな争いから逃げ出したかったからかもしれない。


 これらはビリーからの情報だけど、急な任務な上、辺境までの護衛役など誰もしたがらないだろうからしょうがないが、中々に難ありなメンバーだった。正直言って誰も信じられず、私は全員を警戒するしかなかった。


 私を害する理由については、作ろうと思えばいくらでも作れそうなので、私は広く浅く考えるようにしていた。

 もっとも可能性が高いと思っているのはエリオット様絡みで、私が目障りだから…が理由だろうか。さすがに命までは取る気はないが、私が表舞台に出てこれない程度に痛めつけてやろうと思っている可能性は高い。これにはメイベルや両親が加担している可能性もあり、王妃様が心配したのもこの可能性を考えたからだろう。


 もう一つは、王家の秘密を知ってしまった事による口止めだ。王子妃教育には国家機密に近い事柄が含まれている上、怠け者のエリオット様に代わって書類整理などもさせられていたから、機密を知っていると思われて危険視されている可能性がある。

 ただこれに関しては、もしそうなら王妃様が護衛を寄こして下さる事がなかったように思うので可能性は低いと思っている。でも、王妃様が確実に私を消そうと思って護衛を刺客として送り込んでいたなら、もうお手上げとしか言いようがない。


 それ以外にも、婚約者になれなかった令嬢や、メイベルに婚約者や恋人を奪われた令嬢、セネット家から不利益を被った者など、恨みを買う可能性など考えればいくらでも出てくるだろう。そう言う意味では、私を娶りたくないヘーゼルダイン辺境伯からの刺客…なんて可能性も否めない。でも、ここまで話を広げてしまうとどうしようもないので、私はエリオット様や家族からの嫌がらせを軸に警戒していた。

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