みにょとぼたん
藤野 悠人
ぼくはみにょ
ぼくはみにょ。
二本足の大きな奴らと、「ぼたん」というぼくと同じ四本足の奴と一緒に、大きくて広い縄張りに住んでいる。
二本足の大きな奴らは、ぼくのことを「ねこ」と呼ぶこともある。でも、ぼくは「ねこ」じゃない。ぼくはみにょだ。いつからそうなのかは覚えていないけれど、とにかく、ぼくはみにょだ。
二本足の大きな奴らはヘンテコだ。毛が生えているのは頭だけで、中には頭に毛が生えていない奴もいる。オスの中には、顔の下半分が毛だらけの奴もいる。そして、二本足の大きな奴らのオスは、だいたい頭の毛が短く、メスはオスよりも長いことが多い。でも、もっと不思議なのは、メスの毛の長さは、みんな一緒というわけではないことだ。
更にびっくりすることがある。二本足の大きな奴らは、ある日いきなり毛が短くなったり、毛の色が変わったりする。ぼくや「ぼたん」の毛の色が、ある日突然変わることはないし、外を飛んでいる鳥や、二本足の大きな奴らに「いぬ」と呼ばれている奴らもそうだ。
でも、二本足の大きな奴らはそうじゃない。このことについて、一度「ぼたん」と話をしたことがある。「ぼたん」は得意そうな顔で、「それは『まほう』ってやつだよ」と言った。
「まほー?」
ぼくは意味がよく分からなくて、首を傾げた。
「二本足の奴らが見ている『えーが』とか『ほん』に『まじょ』っていうのが出てくるんだってさ。『まじょ』は『まほう』を使って、不思議なことを起こすらしいぞ」
「じゃあ、いきなり毛が短くなったり、色が変わったりするのも『まほう』なの?」
「たぶん、『毛の色を変えるまほう』や『毛を短くするまほう』を使う『まじょ』がいるに違いないね」
それを聞いて、ぼくは「なるほど」と納得した。
一緒に住んでいる二本足の大きな奴らは、よくぼくや「ぼたん」を撫でたがる。仕方ないから、大人しく膝の上に座って撫でさせてやる。嫌いではないし、こいつらには毎日ごはんも貰っている。それくらいのことは許してやってもいいかな、と思っている。
でも、気分が乗らない時は撫でさせてやらない。それでも撫でようとするときは、噛んだり、ひっかいたりする。そうすると怒られることがあるけれど、二本足の大きな奴らだって、「ほっといてよ」なんて言って、一匹になりたがることがある。ぼくたちだって同じなんだ。一匹になりたい時がある。
一匹の時間は大切だ。のんびり、自分の思うように過ごす時間がないと、ぼくは嫌だ。二本足の大きな奴らにも、それを分かって欲しい。
―――
今日はいいことがあった。普段縄張りにいない奴がやって来た。いや、正しくは、縄張りに帰ってきた。
「ただいま~」
相変わらず気の抜けた声が玄関から聞こえる。でも、誰の声なのかすぐ分かった。「まり」だ。縄張りに帰ってくるのは、本当に久しぶり。でも、部屋に入ってきた「まり」を見て僕はびっくりした。
毛が短くなっていた。でも、それぐらいなら今までにも何度もあった。でも今日は毛の色まで変わっていた。
びっくりしたけど、でも、「まり」の顔だった。「まり」の目は、ぼくやぼたんに似ている。毛がなくて白いところは他の二本足の奴らと同じだけれど、綺麗な「まり」の目が僕は大好きだ。
「みにょ~、ぼた~ん、ただいまぁ」
「まり」がニコニコしながらぼくや「ぼたん」を撫でる。懐かしい匂いだった。「まり」の匂いだ。ぼくを撫でる手も、間違いなく「まり」の手だった。大人しく撫でさせてやる。だって、ぼくは「まり」が大好きだから。大きくなっても、毛の色が変わっても、「まり」の顔を忘れない。
ぼくは「まり」の匂いも好きだ。「ぼたん」も同じことを言っていた。
「まり」は陽だまりの匂いがする。温かい匂いがする。柔らかい匂いがする。もう一度「まり」の顔と、色が変わった毛を見てみた。よく見ると、毛の色は陽だまりの色によく似ている。昼寝にぴったりの時間の、暖かくて、眠くなる色。穏やかな色。
そっか、「まり」は陽だまりみたいな奴なんだ。そう思うと、ぼくは「まり」がもっと大好きになった。
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