異世界に来たけどインターネットはどこで買えますか?

@f107dbade04dd438e0bbc49d4d8de7

第0話 異世界召喚あるある(スマホ禁止)

静まりかえった深夜の住宅街を一人歩く.


ポケットの中が振動したのに気づいて通知を確認すると,絵文字が混じったメッセージが表示されていた.


『今日は楽しかった~ また一緒にごはん食べようね^^』


急ぎの連絡ではなかったので,無視してスマホをポケットに戻す.


バイト先の先輩に,重要な案件と言われて呼び出されたのは今日の午前中のことだ.メールでは説明しにくい面倒な仕事かと覚悟して行ったのだが,仕事の話ではなく先輩の暇つぶしの相手として連れ回された.


さらに,お詫びにご飯をおごってくれると強引に居酒屋に連れ込まれ,やっと開放されたのがこの時間.

俺は未成年なので,アルコールで酔っ払っていたのは先輩だけだ.

……高校生を深夜まで居酒屋に拘束するのは何か条例とかに違反してるんじゃないだろうか.


一日を無駄に使ってしまったが,先輩がずっと部屋に引きこもっている俺を心配して外に連れ出そうしていることは知っているので邪険にも扱えない.


俺は高校生だが,もう何ヶ月も学校には行っていない.卒業して大学に行きたい気持ちはあるのだが,一度引きこもると,どんどん家から出るのが億劫になっていった.

いまやっている会社のWebサイトを制作するバイトも,これなら家から出ずにお金がもらえると思って始めた.



最近の趣味は一日中ネットの地図サービスで航空写真を眺めて,脳内世界旅行をすることだ.自分でも,もう少し外に出たほうが良いかなと思うのだが,家から出てやることを思いつかない.


早く帰ってゲームでもしようと考えながら歩いていると,不意に車のヘッドライトに照らされたのに気づいた.ライトの方に目を向けると,トラックが猛スピードで突っ込んでくる.


何故こんなところにトラックが?という疑問が浮かんだが,すぐに意識が途切れた.



――――



周囲が明るくなったのを感じて目を開ける.


目の前に女性が立っていて女神を名乗った.

俺は交通事故に遭い,このままだと死ぬのだと説明された.


「あなたは,このまま死ぬか,別の世界で生きるかを選択することができます」

「別の世界?そこはどんな場所ですか?」


一瞬だけ胡散臭いと感じたが,死ぬより良い.


「いわゆる異世界ですが地球とよく似た場所です.ただ魔法の概念があります.いまのところ,世界に差し迫った危機はありませんし,自由に過ごして頂いて構いません.言葉も通じますし,転移先は人のいる場所なのできっと助けてくれる人もいるでしょう」


この女神は信頼できる.本能的に全てを委ねて良いと感じる.


しかし,理性が何かおかしいと告げていた.


非現実的なことが起きているわりに不安を感じていない自分に気づくと,やっと頭が働き出した.

まずは説明で言及されていない重要なことを,はっきりさせるべきだろう.


「それはインターネットがある世界ですか?ネットがあるなら問題ないです」


俺の質問に女神の表情がピクリと動いた気がした.


「記憶や身体はそのまま引き継げますし,持ち物も一部の例外を除いてそのままです」


あれ?質問の答えが返ってこない.変な質問で不興を買ったのかもしれない.でも俺にとって重要なことだ.


「そちらの鞄の中身は?」

「本が入っています.あと筆記用具とメモ帳も.ところでインターネットは使えますか?」

「スマートフォンは持っていますか?」


そう女神に問われると,無意識に手が動きポケットからスマホを出す.


指は自由に動くのでさりげなくスリープを解除すると,時刻は日付が変わったところだった.

起動したままだったメッセージアプリに新しいメーッセージがある.


『誕生日おめでとう♪』


そういえば今日が俺の誕生日だった.

はたして届くのかどうかわからないが,普段使わないスタンプでありがとうと返事をする.


「どうかしましたか?スマートフォン等は元の世界に残しておく必要があります.持っていったとしても使えません」


自分の意志を無視して腕が動き,女神の方に差し出したスマホが空中に消える.


「時間も惜しいですから,さっそく移動します」


まだ異世界に行くことを同意した覚えはないのに,勝手に話が進められていく.


「結局,ネットはあるんですか?」


返答は無い.


そして瞬きをした瞬間いきなり風景が変わった.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る