AKARHI

アリエッティ

第1話

 子供の頃、よく公園で遊んでいた。余り友達はいなかったが、いつも一緒に遊んでくれる人がいた。


短髪の少女、名前は覚えていない。


いつも手を取り合ってぐるぐると回りながら笑いあっていた。その度に名前を教え伝えてくれていたがそれでも全く思い出せない。


とある日公園に行くと少女はいなかった。

いつもジャングルジムの中からこちらを覗き中から飛び出してきて腕に絡みつき掌を握ってくれるのに。


仕方なくその日は直ぐに帰ったが、彼女はそれを境に公園には来なくなった。

彼女の名前は、結局記憶に残っていない。


「…太..健太っ!」


「うおっ!」


「どうしたんだ?

美女を目の前にして声も出なかったかっ!」

 青々とした海に浮かぶ大きな船、スーツでパーティに参加してるなんて当時の己は思わないだろう。そもそもハワイの海の真ん中で昔の小さな事を思い出している奴はいない。


「すいません権田さん。少し考え事を..」


「考え事?

まぁよく考えるわなそりゃ、目移りする程イイ女揃いだ。じっくり考えなきゃ失礼だ。」


「はっは..ですよね?」

普通だったら、こんな人達と豪華なクルーザーでパーティなんて有り得ない。全て権田さんの力だ、超金持ちの実業家で莫大な人脈と権力を兼ね備えた超人。


(俺も絶対そうなってみせる..!)

ここで人脈を拡げれば確実に金持ちになれる、そしたら今勤めてる会社なんてやめて独立してやる。世の中は金だ、判断基準は損得しかなく当然得な選択を選ぶべき..。


「権田さん、俺..!」


「わかってるって、好みの女を選んどいたぜ?

好きなの選んで仲良くなっちゃいな!」


「えっ..」

違う。求めているのは人脈で女じゃない、金持ちになって有名になれば異性は幾らでも寄ってくる。そうなれば先に得るのは物理的な資産である、女は付属品に過ぎない。


「そうじゃなくて権田さん、俺は人脈を..!」


「よし集まってくれ、こっちの席だ!」

甲板の右端につくられた相席に対面する形で数人の異性と並ぶ。男は権田と健太、女は猶予を持たせて倍の四人。どれも凄まじく美人で見惚れる出立ちを誇る。


「人数少なくて悪いな、コイツ俺の知り合いの大喜時だいきじ健太。」


「あ..宜しく、お願いします。」

よそよそしく立ち上がり頭を下げる。


「なんだ? 随分堅いな!

仕方ない奴だな。皆も自己紹介、いい?」

権田の掛け声と共に端から女性陣の自己紹介が始まった。しかしそんなものに興味は無かった、女より金。実力権力..後に手に入るものに現時点で興味を持つ必要は無い。


(どうせみんな権田さんの金目当てだろ?)

格好からわかりやすい通りに肩書きに寄ってくるタイプの連中だ。格好も派手なら化粧も髪型も目立つ仕様で話し方も気に食わない。


「よろしくお願いしま〜す!」


「ありがとう!

..それじゃあ最後に君、自己紹介いいかな?」


「…はい、薄井 亜里香といいます。」


「薄井さん、亜里香ちゃんでいいかな?」


「……はい。」


(薄井、亜里香..。)

派手な出立ちとは裏腹に随分と控えめな態度で振る舞う彼女は、他の女性とは少し性質の雰囲気が異なって見えた。敢えてそうしているような細工的な感覚でもない、派手なパーティに参加するには少し違和感を感じる。


「..宜しく、お願いします...。」


「お、おう! 宜しく。

..それじゃあ乾杯しようか、ね?」

グラスが幾つも重なりパーティが再開される。

権田は楽しそうに談笑していたが、健太はやはり乗り気になれず静かにグラスを傾け酒を喉に流す。向かいに座る薄井と名乗る女も同様やはり余り得意では無いのか下を向き俯いて黙りこくっている。


「……。」


(..この人、何処かで見た事ある気がする。)

確実に初対面であるのだが、見覚えがあるような気がしてならなかった。名前を聞いても一切知らない、しかし完全に知らない人物でないような感覚に触れる。


「…あ、何か気になります? 私の顔...。」


「え? ああいや! 

そういう訳じゃ..ただちょっと、こういうのおんまり慣れてないっていうか...。」


「そうだったんですか、実は私も..。

こういうの、緊張しちゃいますよね」


「ですよね! ハハハ..」 「ったく。」

健太の不慣れな振る舞いに察した権田がテーブルの下で何かを手渡す。握らされた掌をゆっくりと開くとそこには銀色に輝く車の鍵が。


『ちょっと! 何ですかコレ!?』


『あの子気に入ってんだろ? 頑張れよ!』

〝ありがた迷惑〟

という言葉を一切知らないようだ、本当に欲しいのは彼のような財力だというのに。


「んじゃ、二人っきりにしたほうがいいな!

僕たちは仲良くアッチで飲みましょね〜?」


「え? ちょっ、待っ..!」

ありがた迷惑は派生する。ギャラリーの三人を連れ歩き、健太は女と二人になってしまう


「……」 「……。」


(き、気まずい...!!)

話す話題など何も無い。そもそも気に入っていなければ興味なく開かれたパーティだ、話など弾む訳も無い。


(ていうか何で車の鍵だよ、俺クルマ持ってねぇぞ? ていうかここハワイだし!!)

〝帰ったら車をやる〟

知り合いに祝い事があったときに権田がよくやる仕様のわかりにくいサプライズだ。


「…なんか、盛り上がりませんね..。

ごめんなさい私、会話下手だから」


「いやいやいやいや! そんな事ないっ!!

...そうだ、取り敢えず飲もっ! ねっ?」

近くのグラスを手に取り、ぐいと中身を一気に飲み干す。


「うっ、結構きく..。」

慣れないアルコールの摂取により頭がグラつき意識が揺れる。


「..大丈夫ですか? 

顔が、赤いですけど。」


「大丈..夫....」

音を立てて崩れ落ち、意識が遠のく。

一瞬視界が青く一面の空がよぎったが、その後の景色の色は覚えていない。


掌には、車の鍵がしっかりと握られていた。











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