1-4 幼なじみへの秘めた想い
「そうだな、君は好いてくれる女性はざくっとふるな。そんな冷たい感じが、女の子にはたまらないみたいだが」
郵便局長は楽しげだが、彼の方から話しかけてくるときは何か裏があるのでレオンは少し身構えてしまう。
「そんなことより、郵便局長、俺の異動届を受理してください」
「倉庫の作業の方が良いなんて、君は変わっているねぇ。給料だって月に金貨一枚。今の二分の一じゃないか」
「倉庫は静かで良い」
「でも、君が配達を辞めると悲しむ人がいっぱいいるよ」
「しかし……配達先で抱きしめられたり、キスをせがまれたり、押し倒されるのは、もうこりごりです」
「ああ、それに関しては、ちょっといけないなぁ、と思ってだね。提案があるんだ」
郵便局長は顎髭をなでてから、にんまりと笑った。
「君、今度から切手売り場の職員にならんかね?」
「――何が狙いですか?」
「君は椅子に座って切手を売っていればいいんだ。これだけで切手を求める女性の列ができる! それも長蛇の列だ!」
レオンは指先で額を押さえ、頭を横に振った。
「断ります。出生記録すらない俺が、郵便配達をしているだけでも異例だと聞いています」
「細かいことは、私の命令でなんとでもなる」
レオンは直ぐに「困る」と呟いた。
「特別扱いは……もう嫌です。やっと神殿から出られたんだから、普通に暮らしたい」
「――まあ、切手売り場のことは考えておいてくれ」
郵便局長がぽんっとレオンの肩を叩いて立ち去っていく。
「……お前、これを手伝え」
まだ放心している同僚にレオンは声を掛けた。
ちょっとやり過ぎたのか、同僚は夢見心地のような顔をしている。
レオンが人を魅了しようとしたら、誰でも簡単に堕ちてしまう。
(堕ちないのは、アーリアだけだ)
幼なじみの顔を思い出し、薄い唇を口に吸い込んで考え込んだ。
(……違うな。俺が上手くやれないんだ)
十年前、結んだ友情が大切すぎて、一歩も前に踏み込むことができない。
想いを伝えたら、友情が壊れてしまいそうで……胸で脈打つ熱を秘めてしまう。
(上手くやれないどころか、口が悪くなる一方だし……それを直すこともできない)
大好きな人の傍に行くとなぜか照れ隠しをしてしまう。
なんのアプローチもできずに、悪態をついてしまう。
(俺、よく嫌われないよな……)
レオンは溜息をついてから、同僚を軽く爪先で蹴った。
「右側の配達を頼む。俺はこっちを配達してくるから」
同僚は放心したままレオンを見上げ、こくりと頷く。
レオンは配達鞄を持つと、大切な少女への想いを胸の奥に沈めて仕事の顔に切り替えた。
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