第114話 大馬鹿野郎
6月17日、午前8時。俺は震える手でサクセスバイオの注文状況を確認した。
売りが怒涛の勢いで増えていく。100万、200万、300万。ノートパソコンのディスプレイで数字が
今日中に少しでも売れてくれ! 祈りながら持ち株の売り注文を出す。
けれど、買いがまったく増えない。8時30分の時点で、売り600万株に対して買いはたったの5万株。
ダメだ。今日もストップ安の4700円で張りつく。俺の注文もきっと成立しない。
クソッ! いったいどこまでもってかれるんだ!!
表計算ソフトに数式を入力して試算してみる。
3000円なら、マイナス167万円。
2000円なら、マイナス277万円。
1000円なら、マイナス387万円……。
マズい。1000円まできたら、マイナスが入金してた350万円を超えるじゃないか!
そしてらどうなるんだ? 証券会社に借金を負うことになるのか? 口座を作った時に勤務先も登録してたよな。そしたら会社にも連絡がくるのか?
馬鹿だ! 俺は救いようのない大馬鹿野郎だ!!
いや、1000円で済むのか……? もしも、サクセスバイオが倒産して株価が0円になったら――。
0を入力して、エンターキーをそっと押す。
――マイナス497万円。借金150万円……。
強烈な吐き気に襲われトイレに駆け込む。
昨日の昼から何も食べていない。体内を逆流してきたのは黄色の胃液だけだった。焼けるような不快感がのどに走り、涙と鼻水があふれる。そしてその直後、鉛のような脱力感に襲われた。
なんとか体を起こして会社には病欠の連絡を入れた。仕事どころじゃない。
さすがに株価0円はないよな……。ベッドに体を預けて自分に言い聞かせたが、可能性はゼロじゃない。
サクセスバイオは決算のたびに赤字の会社だ。財務状況だって悪い。もともと危ない会社なんだ。今日明日のうちに、なにか不祥事が発覚して会社が倒産するなんてことも……。
それに日本は災害大国だ。大規模な災害が起きて、サクセスバイオがその影響をモロに受けたりしたら……。
考えすぎだとは思う。けれど、不安が収まらない。
一秒でも早くこの状況から解放されたい。サクセスバイオを売ってしまいたい。
でも売れない。だってこの株には、買い手がいない。
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