第108話 頼みごと
午前中は客先を訪問する予定があったのでオフィスを離れていたが、これはこれでありがたかった。
会社のデスクでパソコンと向き合っていたら、嫌でもサクセスバイオのことを考えてしまう。今回の失敗を前向きにとらえるつもりでも、利益を200万円以上減らしてしまったのはやはり痛い。
商談が終わり、
課長からだ。急用があるから、商談が終わったら電話してほしいとのことだった。
急用? いったいなんだ? とりあえず通話アプリを操作する。
「お疲れ様です。牛上です。メール見ましたけど、なにかあったんですか?」
「ああ。ちょっと頼みごとがあるんだ。まだ南陽町にいるよな?」
「はい。駅に向かっているところです」
「じゃあ、会社に戻る前に
東葛西は南陽町からは3駅目、15分もあれば到着できる。でも、東葛西にうちの顧客企業ってあったか?
「あの、いったいどういう用件なんですか?」
「じつは、栗栖がまだ出社してなくてな。何度か連絡してるんだが電話にも出ない。ちょっとアイツの家まで様子を見に行ってほしいんだ」
そうだ。東葛西には栗栖さんの住むマンションがあった。サクセスバイオが審査にパスできなかったニュースを見て、ショックで寝込んでるのかもしれない。
それにしても、電話に出ないってのはどういうことだろう。とりあえず仮病でも使えばいいのに――。
――まさか、ショックで心臓麻痺を起こしたとか……。
ありえなくはない。栗栖さんは、サクセスバイオを4200円で40000株買ってた。昨日の終値が6700円だから、利益がちょうど1億円に乗ったところだった。
それがこれから全部吹っ飛ぶんだ。まともでいられるわけがない。衝動的に自殺なんてことも……。
いやいや、さすがにそれはないよな。栗栖さんには、まだ6000万円以上の資金があるんだ。いくらでもリベンジのチャンスはあるじゃないか。
課長との通話を終えた俺は、最悪のイメージを振り払いつつ駅へと急いだ。
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