第12話 暴落のイメージ

「言ってる意味がわからねえんだが……」

 軽くムカつきながら聞いてみる。


「これから説明しますね。じつは熊は、弱気相場の象徴なんです」

「オイオイ! オレに弱気はありえねえよ!! ポンジコインだって、日和ひよらず強気で買ってガマンしたから大儲けできたんだぜ?」

 ムカついて声がデカくなっちまった。けど、女にビビる様子はねえ。


「弱気なのは相場に対してです。今の状況について弱気。つまり、相場はこれから下がるというスタンスの象徴が熊なんです」

 なんだ、そういうことか。ちょっと勘違いしちまった。


「でもよ。なんで熊が弱気の象徴なんだ? 熊ってメチャクチャ強いじゃねえか。オレもケンカは自信あるけど、熊には勝てる気がしねえよ」

「熊がどうやって攻撃するか知ってます?」

「ああ、知ってるぜ。敵にかみついたり、爪でこう上から下にザクっとやるんだろ」

 俺は、右手を上から下に振って熊のマネをした。


「あ! それ正解です!」

 ん? なんだって?


「腕を振り下ろして相手を攻撃する。上から下に強烈に。相場が急落するイメージにピッタリだと思いませんか?」

「おお! そういうことか! 今の値段から思いっ切り下に叩きつけてやろうってことだな?」

「そのとおりです」

 やっと意味がわかったぜ。でも、引っかかることもあるんだよな。


「熊が弱気、つまり相場が下がるのに賭けてる象徴ってのはわかったよ。でもよ、苗字に熊が入ってるから空売りしてみろっていわれても、ピンとこねえよ」

 熊尾井のほかにも、熊田、熊谷、熊川……。熊が入ってる名字なんていくらでもあるじゃねえか。そいつら全員、空売りで儲かるのか? んなわけねえだろ。


「お気持ちはわかります。けれど姓名判断も馬鹿にはできませんよ。それに、他の人たちと違って熊尾井さんには経験があります。相場が暴落して空売りが成功したときにどうなるか、イメージできますよね?」

「なにいってんだよ。経験もイメージもねえよ。オレは今まで買いしか……」


 いや待て、イメージできるぞ! だってオレは見てたじゃねえか。ポンジコインのとんでもねえ暴落を!!

 そうか。あの時、空売りしてれば……。買ってたポンジコインを全部売ったあとに、今度は空売りしていれば!


 オレはこの暴落で、さらに大儲けできてたんだ!!

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