第5話 紫色の瞳

「よろしければ、占い、いかがですか?」


 行き交う人々から視線を戻すと、占い師の少女が柔らかな笑みをうかべていた。

 彼女をジッと見つめたり、周囲をキョロキョロ見渡したり。よくよく考えれば、俺の行動はかなり目立っていたはず。声をかけられたのもそれが理由だろう。


 適当に断って立ち去ろうと思ったが、好奇心がドンドンわいてくる。

 せっかくだから、投資について占ってもらうのもありかな……。俺は誘われるがまま、イスに座って彼女と向き合った。


「何を占いましょうか?」

 少女の瞳は紫色だった。カラコンかな?

「これはカラーコンタクトです。この業界、見た目のインパクトが大事ですから」

 俺の視線から心を読んだのか……。すごい洞察力だ。これは期待できるかもしれないぞ。


「そうなんだ。その黒装束も目立つために?」

「はい。ただちょっとやり過ぎました。逆に不気味に思われてしまうかも」

「いや、そんなことないよ。雰囲気あっていいと思う」

 そこで俺は、初対面の相手にタメ口で話していることに気づいた。いくら年下に見えるからって、それは失礼だ。


「それで、占ってもらいたいことなんですが……」

「敬語は使わなくていいですよ。リラックスしてください」

 また心を見透かされた。けれど嫌な感じはしない。彼女との会話には不思議な心地よさがあった。


「じゃあ、その占ってもらいたいことなんだけど……。最近ちょっと投資を始めようと思うんだ。うまくいくかな?」

「投資ですね。わかりました」

 少女が手をかざすと、水晶玉が彼女の瞳を映すかのように紫色に輝き始める。いったいどういう仕掛けなんだ?


「こちらに名前を書いてください」

 少女から小さな紙切れとボールペンが差しだされる。

 個人情報か、まあ名前ぐらいなら大丈夫だよな……。俺はボールペンを走らせ、フルネームを記入した。


牛上雄一うしがみゆういちさん、で合ってますか?」

「うん。それで合ってる」

「素敵な名前ですね」

 初対面で名前をほめられたのは初めてだ。心が少しむずがゆい。


「いや、ありきたりな名前だよ」

「そんなことありませんよ。投資には最適な名前だと思います」

「投資に最適?」

 占いはもう始まっていたのか……。でもこれじゃ姓名判断だよな。水晶玉はただの飾りなのか?


「牛上雄一という名前は、投資をするのにとても縁起がいいんです」


 少女がふところからスマホを取り出して俺に見せる。ディスプレイに表示されていたのは巨大な牛の銅像だった。

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