第6話 牛上雄一
スマホのディスプレイに表示された牛の銅像は、見るからに荒々しかった。前傾姿勢で体をひねったその姿は、今にも突進して角で相手をつき上げそうだ。
「すごい迫力だね。この銅像」
「はい。この銅像の名前はチャージングブル。ニューヨークのウォール街の名物であり象徴なんですよ」
なるほど。たしかにこの力強さは世界の金融の中心地にふさわしいな。と思いつつ疑問も浮かぶ。
「でも、牛って草食動物だよね。肉食動物、例えばトラとかライオンのほうが、ウォール街のイメージに合ってる気もするけど」
「いいところに気づきましたね」
その質問を待っていた。とでも言うように少女が笑顔を見せる。
「雄牛は相手を攻撃する時、勢いよく角を突き上げるんです。強烈に株価が上昇してほしいという願望にピッタリだと思いませんか?」
「そういうことか」
なるほど納得だ。
「牛上雄一という名前には、ウォール街を象徴する雄牛や、上、一といった縁起のいい漢字がならんでいます。きっと投資に向いてますよ」
これには納得できなかった。
「いや、たしかに漢字はそうかもしれないけど、俺はこの銅像みたいに勢いのある人生送ってないよ」
占いにすらなっていない漢字のこじつけ。正直くだらないと思った。
「いえいえ、名は体を表す。という言葉もあるんです。投資に興味があるなら挑戦するべきです」
名前が向いてそうだから挑戦するべき? なんだか馬鹿にされているようでイライラしてくる。
「そっか。じゃあ挑戦する手始めに、近いうちにドカーンと上がる株を占ってよ。その株、買ってみるから」
どうせ無理に決まってる。占いで上がる株なんてわかるかよ。ちょっと大人げないと思いつつ、挑発気味に質問してみた。
彼女がこちらをジッと見つめる。一瞬だけ、その瞳が怪しくきらめいた気がした。
「近いうちに大きく上がる株がわかりました」
占いを終えて水晶玉から視線を上げた少女は、スマホを操作し始める。ディスプレイの光に照らされたその表情には、さきほどまでの明るさがなかった。
本当に上がる株がわかるのか? っていうか、怒らせちゃったかな……。
「この銘柄です」
彼女がスマホの画面を俺にむける。表情には親しみやすい笑顔が戻っていた。その様子にホッとしながらディスプレイをのぞきこんでみる。
サクセスバイオ。
表示されていたのは、見たことも聞いたこともない会社だった。
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