Episode:7 聖剣の輝きは

 ファリアも戦闘を開始していた。


「おうおう、嬢ちゃんよぉ…中々に強ぇなぁ!身体能力は申し分なし、加えて手段を選ばぬ貪欲さと来た!相手にとって不足なし!!!」


 ファリアと対峙している、彼女より一回りも大きい巨漢の男が大剣を振り回しながら言う。

 先程は攻撃を防げたが、一撃一撃が重すぎる。

 戦闘が長引くほど、不利になるのはファリアの方だ。


「あら、そう。私は君との勝負はお断りだね。森へお帰り」


 シッシッと手で追い払う動作をする。

 だが、問答無用と言わんばかりのスピードで突進してくる。

 その速度を殺さぬまま、大剣を振り下ろす。


「あぁ、もう!」と叫ぶとともに小さな舌打ち。

 片足を上げて敵方の攻撃を防ぐ。

 そのままその足で大剣を蹴り、後ろへ後退する。


「ガハハハ」と男の笑い声がファリアを苛立たせる。

 すると彼女は大きくため息をつく。


「私はね…疲れてるのよ。連戦に次ぐ連戦でね」


 敵対する男とて馬鹿ではない。

 軽率に「命乞いか?」などとは問わなかった。


「あまり、時間はかけないわよ」


 そう言ってファリアは地を蹴る。

 先程ドューゼルに繰り出した、超光速接近からの攻撃だ。

 だが、今回は蹴りではない。

 勢いのままに付き出す"拳"は、目の前の敵を吹き飛ばした。


 その後、さらに跳躍する。

 吹き飛んだ大男に追いつき、そのまま連打連打連打

 男は為す術もなくサンドバッグ状態になる。

 一瞬、反撃の構えを見せて拳を突き出すが、完璧に受け流されてしまう。

 この場だけを見るのであれば、ファリアの圧勝だった。


 ***


 戦闘は苛烈を極めていた。

 なにより、敵軍の将の相手をしているのが生きた人であるマルクス、というのは『反乱軍』にとって希望であり弱点でもあった。

 マルクス自身、目の前の敵に敵わないことは分かっている。

 それでも、決して槍を握る力を緩めることなく勇敢に立ち向かっていた。


 対するドューゼルは力の半分も出していないだろう。

 イリミスとファリアの戦闘を片手間に眺め、戦力の分析を行っていた。

 その結果導き出された答えは…


(勝利…だな。クランノーは本気を出せばあんな小娘とは勝負にならない。ベゴルオは押されているようだが、それも今のうちだけだ…彼の体力を削り切ることは不可能だからな)


「余所見とは随分余裕ですね!」


 マルクスも連撃を繰り出すが軽く受け流される。

 これでもドューゼルの動きを止めれているだけかなりなのだ。


 ***


(もう少し隙を見せてくれないですかね…防御に徹しているだけで手の付けようがないですよ…)


 イリミスの攻撃は通っている、通ってはいるのだが致命傷には程遠い。

 むしろオマケでダメージを与えさせてくれているようにも見える。


「時間稼ぎ…じゃないですよね!これじゃ戦いにならないんですけど!」


 返答はない。

 相手を倒そうにも完璧なガードを崩せず、他の戦闘に参戦しようにも敵はイリミスを離してはくれない。

 付かず離れず攻撃させず、嫌な戦法を続ける。


「クランノーさん、でしたっけ?……少し、スピードを上げますよ!」


 ギュン、と加速する。

 速さだけでなく威力も強めた連撃を放つ。

 少し、クランノーが顔をしかめたように見えた。

 合わせて彼女もスピードを上げる。


 段々とスピードを上げ続け

(そろそろどちらかの限界が来るでしょうか…)

 と思った時、遠くから轟音が響く。


 ***


「あ〜鬱陶しい!」


 轟音が届く少し前、代わりにファリアの叫び声が響く。

 何度攻撃をしようと、目の前の敵が倒れることがないからだ。

 圧倒的に優勢、だがしかし勝利ではない。


「クソっ…」


 大男は倒れることこそないが、攻撃がすべて受け流され、矜持きょうじもなにも総崩れである。

 大剣を構えるもすぐさま蹴り飛ばされ、思うようにできない。

 始めの威勢はどこにもなく、ただひたすらに好機を望むだけとなっていた。

 戦士としての風体は見る影もなくなっていた。


 その様子を見かねたドューゼルが

 マルクスは阻止せんと迫りかかるが、魔力の渦に阻まれる。


 戦場を強大な圧にも等しい魔力が包む。

 魔力は彼の聖剣に集約し、轟音が鳴り響く。

 それに気づいたイリミスが動こうとするが、目の前のクランノーがそれを許してはくれない。


 ファリアは比較的動けそうだったが、彼女の力ではドューゼルの攻撃を防ぐことはできない。


「終わりだ」


 そう呟いて剣を振り下ろす。


 皮肉にもとても輝かしい光が戦場を包み、戦いは終わった。

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