Alternative stage
立花 橘
第一章 崩壊
序
「諦めるな、君にはまだ希望が残っている」
轟々と強く燃ゆる灼熱が支配する。見渡せど炎上した建物のみが視界に残る。まるで地獄のような場所。
そんな廃れたこの場所で、それがさも当然かのように…或いはそんな地獄を物ともしないような過酷な現実に身をおいていたかのように悠然とした表情で、彼女は一人の少女に語りかけた。
「私は、君に呼ばれたんだ」
そう、彼女は言葉を付け加える。
対して、この物語の主人公たる少女は、と言うと…
唖然とした表情というのだろうか。
困惑、決してアタフタとしていたわけではないが、今の状況に適した言葉が見つからないと、目を泳がし口をパクパクと動かすのみだった。
当然、瞬きをした一瞬に目の前にいきなり人が現れたら、誰だってその奇怪さに困惑するのはしょうがないこと。
だが、そう悠長にオドオドとしている暇は与えられていなかった。少なくとも、倒壊した建物の下敷きになり、かろうじて息を繋いでいる状態の彼女にとっては…
(助けが来た、と無邪気に喜んでいいものかしらね?もしくはいっそ、天使様に身を
少女が目の前に現れた彼女を仮に天使と見間違ったとして、それはあながち間違ってはいないことだ。
少し灰色を帯びた白髪は肩を超えた長髪で、それと同じく灰がかった白で統一された服装を身に纏う。
蒼く目立つ瞳を含む彼女の顔は、並大抵の画家では描けない美しさであった。
一言で表すなら人間離れした姿、だ。
別段背中から羽が生えていたわけではないが、どこをどう見ようと彼女を普通の少女と見違うのは不可能であろう。
それこそ、天を司るのに相応しい格好と言ったところか。
少女は今、瓦礫の下敷きとなり寝そべった状態で、突如として現れた不思議な存在を見上げているわけだ。
つまるところ体力的にかなりピンチ。
少女の体力が限界で、今にも力尽きてしまいそうなことを悟ってか、或いは神たる自身が直接に出向いているというのに、なんの返答をも
ともかく彼女は今一度問いをかける。
「君は、私に何を願う?」
(願う…願う、か…願いなんて…一つしかないでしょ)
迷うことはなかった。
単純で明快なありきたりの答え。
「力…力が欲しい!」
最後の力を振り絞るように、最後のチャンスをものにする為に、目に覚悟を持って答える。力が欲しい…だなんて陳腐な願いだが、それで十分だろう。少なくともこの場から脱する数刻程度であれば…。
「了承した、君に力を与えよう」
少女の覚悟に心動かされて、というわけではない様子だが、一先ずは認めてくれたということで良いのだろうか。
言葉を口にする彼女は、どこか微笑んでいるような気がした。
「そうとなれば善は急げね。ほら、行くよ」
「行くといってもどうすれば…」
少女の言葉を遮るかの如く、彼女の上に寝そべっていた瓦礫の山を凄まじい勢いで蹴り飛ばした。
数メートルはあったそれらは見るも無惨に砕かれ、欠片どころか塵すら探すのが難しい。
つまり、正しくは蹴り飛ばしたでなく、跡形もなく粉々にしたということだ。
しかも蹴りで。
「嘘でしょ…」
その後、未だ立ち上がれない少女に向かって、軽く指揮をするように人差し指を振る。
瞬く間に息絶え絶えだった少女の怪我や疲労が治 っていき、肩を貸して少女を起き上がらせる。
「夢じゃないことは…なんとなく分かるけど…」
これは夢だ、と逃げられたらどれほど良かったか。
まぁ、仮とはいえ既に神と契約を果たしてしまった少女に、逃げることなんてできないのだが。
「えぇ、そうよ。これは夢なんかじゃない。君が立ち向かわなきゃいけない現実」
「そっか…うん、そうなんだね。改めてその…覚悟、みたいなのが出来た気がする。」
「それは良かった。…うん。私はファリア。とりあえず名前くらいは知っておいたほうが便利でしょう?」
うん、名前はとても便利だ。
いや、それはそうとして…
「名前…名前かぁ…やっぱり、思い出せないや」
少女は、と言うと何故か自分の名前だけを忘れていた。そのことに意味はない。
必然でも偶然でもなく、彼女達、ひいてはこの物語になんの影響も及ぼさない。
恐らく、これから思い出すことはないのだろう。
「あら、名前がないのは不便ね。うん、不便なのよ」
そう言ってファリアは前へと歩き出す。
少し歩いた後、くるりと振り返って提案する。
「こういうのはどう?私の名前を少し文字って……フィリヤ。何だか、姉妹みたいでしょう?」
少しの時間、フィリヤという名を噛み締めて、
「うん、気にいった。」
「これからよろしく、ファリア」
「ええ、よろしくフィリヤ」
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