昭和ブルー 中学編

まさき博人

「マスジマからナカヤマへ」

中学生になって、三ヶ月くらい経った日の夕方、マスジマがボクの家に来ました。

「これからも、ずっと友達でいてね。」

「何を今更そんなこと、、、」

と、ボクははぐらかしました。でも、何故マスジマがそんなことを言うのか、なんとなくわかっているのです。

中学に上がったボクは毎日が新鮮でした。小学校の時より同学年に生徒がずっと多い。ということはいろいろなタイプがいる。当然女性徒だって多い。そしてそれに比例するように、可愛い子もたくさんいるのです。小学校で一番可愛かったマスジマも、悪いけれど、ボクの中でちょっと色褪せていました。

ボクは入学してまもなく、陸上部にいるナカヤマという子が気になって仕方がなくなっていたのです。

長い髪を後ろになびかせながら、体の前で手をよく振り、上体を真っ直ぐにして腿をしっかり上げて走る姿が、なんとも格好良く見えるし、体もマスジマのように棒みたいではなくて、なんとなく女の人という感じがします。

それからこの子、ちょっと不良っぽいところがあって、制服のブラウスの裾を出して、スカートの丈も皆より長くしていたりします。それに、禁止されているトランジスタラジオを学校に持ってきて、昼休みにサッカーのシュート板の裏で聞いていたり、何人かでゴーゴーなんていうのを踊っていることもありました。

こんな子に今まで会ったことがありません。

話はちょっと変わります。ボクの家にはまだ風呂がなかったので、週に何回か近くの銭湯に行きます。

正面に雪をかぶった大きな富士山の絵。洗い場の壁には、色違いの小さなタイルを組み合わせて描いた、帆掛け舟や筏下りの絵があります。

水を出して薄めると怒るおじいさんがいるので我慢して熱めの湯船に入ると、富士山の絵の下のちょうど目線の高さに小さな看板が並んでいます。駅前のメガネ屋、行ったことのない中華そば屋など何枚かあるその中に、ひときわボクで目を惹く看板があります。

『早い!安い!きれい!ナカヤマクリーニング店』

ボクはその看板を見るだけで、なんだか胸の中がムズムズしました。もっと見ていたいけれどのぼせちゃうので湯船から上がりました。

そんなボクだからどんどんマスジマとは離れていって、クラスが違うのもあって殆ど口も効かなくなっていたのです。

「うん、もちろんボクたちは友達だよ。」

そう言ったボクに、小さくうなずいて帰って行ったマスジマの後ろ姿は寂しそうでした。

けれどもボクは、そのこともすぐに忘れていったのです。

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