令嬢はかつての仲間と最強の白光の道を突き進む!~王宮を追放されたけれど「戻ってきてもいいんだ」と最高の仲間が受け止めてくれました。~
三月べに
学生時代編
01 転生した令嬢は魔法の天才。
「またいつか、冒険したい!! 大好きだよ!! 皆! またね!」
私は最高の仲間と、学園の卒業とともに別れることになった。
涙でよく見えないけれど、笑ってくれた皆は再会を約束してくれたのだ。
そんな別れが、一年と三ヶ月前だったなんて、思えないほど長い時間が経った。
「最高王宮魔導師エリューナ・ルーフス……クビだクビ!! もちろん、お前との婚約も破棄だ!!」
職も婚約者も、失ってしまったのだ。
◆◇◆
ルーフス男爵家の令嬢エリューナ。
炎のように真っ赤な髪と、深緑の瞳を持つ。
私は、異世界からの転生者だ。
思い出したのは、五歳の時。前世の世界にはなかった魔法の虜となった。
地球の日本のオタクだった前世。特にファンタジーな書物が大好きだった。魔法が使いたくなるのは、必然だと思う。
貴族の家なので、魔法の書物はそれなりにあったから、勝手に読んでは練習をした。
この世界ガラノスは、二種類の魔法がある。
一つは、呪文で発動する呪文魔法。もう一つは、魔法陣を描いた陣の魔法。
先ずは、初歩的な呪文魔法を覚えた。
呪文は、英語とは違う。異世界だから、当然だよね。
「”――水よ――リークア――”!」
最初は、水の魔法を使って、水を生み出した。
ぷくぷくっと、水の玉を浮かせる。
「”――氷よ――ヨギア――”!」
そして、氷の魔法の呪文を唱えて、凍らせてみた。
きらりと虹色に輝く氷の塊。陽射しでより輝く氷は、宝石にも思える美しさだ。
「”――火よ――フィアマ――”!」
もったいないけれど、火の魔法も使ってみようと包み込む。
ポタポタと溶けた水が落ちた。蒸発したかったのに、火力が足りない。
どうしたら、いいのだろうか。
迷っていれば、悲鳴が聞こえた。
庭の隅で隠れて魔法を発動していた私の様子を見に来たメイドに見つかってしまい、すぐさま男爵である父に報告されてしまう。
危ないじゃないかっ、と叱られた私はしゅんっとしてしまった。
しかし、五歳で魔法が使えるのは珍しいことらしく、才能はあると判断される。
魔法の教師をつけるから、隠れて魔法を使用しないようにきつくと言われた。
私は両手を上げて、大喜びしたのだ。
週一の嬉しい時間が出来た。
しかし、魔法を教えてくれる家庭教師が来たのだけど、一月弱で辞めてしまった。
理由は「自分に教えることはありません」ということだったのだ。
その家庭教師が教えてくれようとしたのは、基礎中の基礎、魔力の扱いから初歩的な魔法。
魔力の扱いは難なくこなしたので、初歩的な魔法を教えてもらったけれど、家にあった書物ですでに知っていたので、特に時間はかからなかった。
次に父が選んだ家庭教師は、半年弱で辞めてしまった。
理由は「お嬢様は天才すぎます。自分に教えることはもうありません」ということだったのだ。
確かに、私は物覚えがよくて、即時に覚えてしまっていた。それでは満足出来ず、私はもっと強化出来ないかと教えを乞うたのだ。
それはもっと大きくなってからではないとだめだと、言われてむくれた。
じゃあ同時に二つの魔法は使えるかと問うと、可能だけれど失敗すれば自爆してしまうからだめだと言われてしまう。だが、諦めずに、バリアを張れば大丈夫ではないかと提案した。
自己防衛のために自分にバリアを張るのは、魔法の使い手の基礎中の基礎。バリアは、防壁と呼ぶ。
しぶしぶ許可が下りたので、やってみた。呪文魔法と陣の魔法で、同時に火炎を生み出してみた。今までで一番強力な魔法だった。
ぴょーんと飛び跳ねてはしゃいだ私を、家庭教師は青々に青ざめて見ていたのだった。そして翌日、辞めてしまったのだ。
……私は天才!? それも魔法の天才!? 最高か!!
大喜びした私だったのだけれど、家庭教師がいなければ、魔法を使わせてもらえないことに気付く。
これ以上に優れた家庭教師は雇えないと、父が困り果ててもいた。
王都の隣の小さめの領地しか持ってない男爵家だもの。
けれど、救世主が現れたのだ。
最高王宮魔導師。魔法の使い手として、最高の地位である職についたグラフィア・マーリンという名のご老人が、一月に一度だけ教えると提案してきたと言う。どうやら前の家庭教師から話を聞いて、興味を持ってやってきてくれたそうだ。お金は不要らしい。
その月一の日だけ、二つの魔法を同時に使う二重魔法を使っていい許可が下りた。
他の時間も、些細な魔法なら使っていいとのこと。
私は礼儀作法の教育を受ける隙間に、魔法で遊んでいた。
工夫しながらの魔法遊び。
私には兄がいて、彼の方は剣術の才能があるらしく、騎士を目指していた。騎士の家系なのだ。私も剣術を学びたいと教わっていた。
そして時折、私の魔法遊びを楽しんで眺めていたのだ。
グラフィア・マーリン様は、灰色の長髪を長い髭を蓄えた、高級感あふれる黒のローブをまとって、長い杖をついていた。
魔法使いらしい魔法使いだ。
「素晴らしいですね、エリューナ様。安定した二重魔法です。それでは、魔法陣だけの魔法を二重に使ってみましょう」
グラフィア様は、積極的に難しい魔法を使わせてくれた。
魔法陣は、覚えた形をしっかり魔力で描いていくもの。一度に一つの魔法陣を頭に浮かべていたけれど、それを二つにするのか。
やってみた。頭の中でしっかり浮かべて、発動する。右には火を放ち、左では水を放つ。蒸気を作り、辺りを覆ってみた。
「申し分ありませんね。素晴らしいです。では……もう少し、発動する時間を早める訓練をしましょうか」
グラフィア様の見立てでは、もう少し早く発動出来るはずとのことだ。
なるほど! と私は一生懸命にやってみた。こればっかりは、訓練を重ねるべきみたいだ。
でも次にグラフィア様が来た時には、彼が褒めてくれるほどには素早く発動が出来るようになった。
「やはり子どもは成長が早いですな」
ほっほっほっと、髭を撫でながら、グラフィア様はそんなことを言う。
「グラフィア様は、お子さんはいらっしゃいますか?」
「私めに子どもはおろか、妻もいません。お恥ずかしい話、魔法ばかりに夢中で独り身の人生を歩んできました」
「そうでしたか……」
ちょっぴり悲しい顔をするから、あまり尋ねてはいけないことだったのではないだろうか。
「では! 私をどうぞ、娘のように可愛がってくださいませ! ……なんて」
冗談のように胸を張って言ってみたら、微笑ましそうに眼を細めた。
「ありがとうございます。エリューナ様。そうさせていただきます」
「……はいっ!」
私は嬉しくて、すっかりグラフィア様に懐く。
一年が経った頃、グラフィア様はこう言った。
「十歳になって学園に入学して、六年の学業を終えたあとは……王宮魔導師になります。それが貴族である魔法の使い手が、通常辿る道です。私めもそうでした」
「そうでしたか……そして最高王宮魔導師になったのですね!」
「ふふっ、そうです。まぁ、魔法の使い手が望む進路ですからね。あなたの才能なら、最高王宮魔導師になるでしょう」
最高王宮魔導師の座は、一人のものだけではない。複数いるものだとか。
この世界では十歳から十六歳まで学校に通うのだ。
なんでもグラフィア様は、卒業後に最高王宮魔導師になったらしい。つまり十六歳で最高王宮魔導師になったのだ。
「じゃあ、一緒に働けるでしょうか?」
「……」
その返答はなかった。ただ微笑んで、私の頭を撫でてくれたのだ。
「あなたは人柄もいい。きっと素敵な友や仲間と巡り合えるでしょうね」
それから三年後。グラフィア様は、他界した。老衰だ。
知らせを聞いた私は、泣き崩れた。
参加させてもらった葬式の間も、涙を流して埋葬を見つめていたのだ。
師匠を失ってしまい半月ほど塞ぎ込んだけれど、次の年に入学する学園選びもあって、私は将来最高王宮魔導師になるためにも気を立て直した。
私が選んだのは、家に一番近かった実力至上主義の学園ニーヴェア。
領地と同じで王都の隣に位置して、王都の次に大きな街ニーヴェアマッサというところ。自宅から通えた。
そこは貴族でも庶民でも、同等の扱いを受けるため、あまり貴族は滅多に選ばない学園だと言われている。
なので、入学して、すぐに私は浮いていた。
学年唯一の貴族令嬢だということで、遠巻きにされていたのだ。
貴族のプライドとして、庶民の自分達を見下していると思っているらしい。
その他にも、入学試験では「二重魔法を使ってもいいですか?」とか言ってしまったせいで、教官に驚愕されてしまった。
そしてやってのけたので、腰を抜かしてしまったのだ。
おかげで、主席での入学だった。
貴族令嬢だから不正をしたのではないか、なんて噂も耳にした。
いや、我が男爵家はあまり権力があるわけではないので、それは誤解である。
とほほ……。
きっと私には素敵な友だちが出来るなんて、グラフィア様は言っていたのに……。
友だちが一人、出来るとも思えなかった。
そんなある日のこと。
開いた窓から桜の花びらが待って入ってくる廊下を歩いていく。
「おい。お前だろ。オレを差し置いて、主席入学した貴族令嬢サマは」
声をかけられたことに気付かず、危うく素通りするところだった。
でもバンッと右手を壁について、遮ってくれたので無視せずに済んだ。
顔を上げれば、少しだけ背の高い少年がいた。髪がツンケン跳ねた亜麻色。
瞳は陽が暮れたあとの夜空のような色。紫と青のグラデーションだ。
「無視する気かよ?」
ギロリ。睨みつけられた。
話しかけてもらえた! いや、これは絡まれているだけだけども!
「どうせ金を貢いで、優秀な家庭教師をつけたんだろ!? 実力だと思うなよ!」
絡まれただけだとわかってても……私は嬉しかった。
だって直接話しかけてくれた同級生は、彼が初めてだったからだ。
「はい! 優秀な家庭教師がついてくれました!!」
「はっ?」
私は目を輝かせて、笑顔で肯定した。
「あっ、厳密には師匠ですね。それにお金は支払っていません……ボランティアで私に教えたいと言ってくれまして四年間で一月に一回、面倒を見てもらいました! とっても優秀な方だったのですよ!」
師であるグラフィア様を自慢したくて、興奮気味に言い退ける。
「……」
あまりにも声を大きくしすぎたせいか、彼は身を引いてしまった。
「……お前、変」
真顔できっぱりとそう言われてしまい、私はガーンと軽くショックを受ける。
でも、手を差し出された。
「オレはヴィクト・ジーク」
名乗ってくれたことが、握手を求めてくれたことが、嬉しくてジーンッと胸が熱くなる。
「私はエリューナです。エリューナ・ルーフスです」
こうして、私は最高の仲間の一人目、ヴィクトと出逢ったのだ。
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