帰り道、空模様

天音 いのり

帰り道、空模様

チャイムの音が 聞こえたら

リュックを背負って 歩き出す


ここから始まる 15分

一人きりの 15分



だけど 悲しいわけじゃない


考えごとは 楽しいから


     *


靴箱を前に 立ちはだかる

ここは私のだ とでも言うように



かかとの潰れた 上履きと

買ったばかりの スニーカー


履き替えるときが 楽しいとき


両手を横に 案山子みたい

ぴょんぴょん跳んで バランス保つ

これが結構 難しい


     *


昇降口を 飛び出して

一番最初に することは


まっすぐ上を 見上げること




今日の空は 寂しそう


誰かに 聞こえるように

気づかれるように 呟いてみる



まるで こころの 鏡みたい


君が その目をそらすから

私は こっそり 追いかけた

追いかけて 追いかけて

どこまでも


君と出会える トコロまで


     *


上を見ながら 歩いたら

どこから聞こえる 君の声


''See you'' って 言いながら

ちゃっかりポーズまで 決めちゃって

満面の笑みで 手を振る君は



私にとって かけがえのないひと



君の背中が いなくなるまで

ずっと ずっと 追いかける



私も ''またね'' って言いたかったけど


君の一歩が 大きくて

到底 追いつけないと


そんな風に 思ったんだ


     *


夕暮れが 落ちる空に

たったひとつの 白い月


いつか 君と並んで 見上げた月





塾の帰りに 暗闇から現れた

それはそれは 小さな光



手を振りながら 笑顔をくれた

"今日は十五夜だよ" って呟いて


君がそんなこと 言うものだから

"きれいだね" って囁いた


あの日の横顔が 忘れられないよ


私の隣にいた、 君の


     *


青い空を 見ていると

必ずというほど 思い出す


君がくれた 言葉たち





引き渡し訓練の 暑い日に

クーラー効いた 教室で


私が描いた 空の絵を

"上手いね" って褒めた 君


"俺にちょうだい" なんて約束したけど

結局それも 守れなかった

意気地無しな、 私


     *


風に 吹かれて 気づく温もり

さっきまで 確かに 右手のなかに

君がくれた 温もりが




放課後の 美術室


絵の具の匂いに 包まれながら

初めて握った 君の右手



精一杯書いた レポートに

大きく赤で "B" の評価


落ち込む私を 励ましたのは

おんなじ "B" の君だった


"だいじょーぶだよ。俺も一緒!"


そう 言った後


恥ずかしげもなく 握手した


     *


紫色に 染まる空

眺めて歩くと よみがえる


君の 何気ない行動が

私には無い かっこよさ





廊下掃除をしていたら

近づいてくる 君の声


技術で 作ったペン立てを

2つ抱えて 持ってきて


右手に君の 左手に私の



"お前のだよ" って言いながら



当たり前の顔する 優しい人

私の、 憧れの人


     *


15分経って 家の前

楽しいときは あっという間




沢山 君がくれたもの



明日は 私が君にあげたい

なんて、 今日は金曜日だから

2日も 会えないんだ





次に君と 会えるまで

もっと 優しい人に なっていたい


今度は私が 笑顔にする番

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帰り道、空模様 天音 いのり @inori-amane

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