Chapter 1.21 拳骨
Chapter 1.21
拳骨
「夕べは随分とお楽しみだったようで」
ルクスとリアを前にして、キルティスはにこやかな笑顔でそう口を開く。
支部に協力を要請した翌日の早朝、ルクスたち一同はカルーア支部の支部長室に集まっていた。
集まったのはルクス、リア、キルティス、カナデの四人だ。
そしてルクスとリアはキルティスの前でその身を縮こませていた。
「今朝方近隣に方々から苦情がきましたよ? 真夜中に支部で騒ぎ立てている人がいると。あなたたちですよね? ルクスさん、リアさん?」
「・・・はい。そうです」
ルクスは小さい声で返事をする。横をみるとリアは何かを諦めたような表情をしている。
「事情を伺いましょうか」
「いえ、申し訳ありません・・・。事情なんてなくて、本当にただの喧嘩というか・・・」
「・・・ただの喧嘩、ですか」
「はい・・・。返す言葉もございません。本当に申し訳ありませんでした・・・」
「そうですか。では仕方ありませんね。セイクス管理官にこのことも報告しなくては」
「本当に申し訳ございません!! 心の底から謝りますので! このことだけはどうかご内密にお願いできませんでしょうか!!」
頭を直角以上に深く下げ、ルクスは渾身の懇願をする。リアもそれに習い頭を深く下げている。
昨日夜中に騒ぎ立てたのはもちろん自分たちであり、非があることはバカでもわかる。そしてそれは二人の上司であるセイクスに報告が行くことも当たり前のことである。
それは頭ではわかっているのだが、現時点で減給三ヶ月が確定している二人からすれば、それはまさに泣きっ面に蜂というものだ。ここで報告を食い止めなければ、減給期間が延長するのは必須だった。
ルクスは恥も外聞も捨て、頭を深く下げたまま目を瞑り祈る。
必要ならば土下座するつもりですらあった。
「・・・はぁ、わかりました。そこまで懇願されたら仕方ありませんね」
「では!」
「報告はしますが、二人を罰しないように口添えしておきますか」
「いやあああああああああああ! やめてくださああああああああああああい!!!」
声を出したのはルクスだが、とてもそうとは信じられないほどの高い悲鳴があがった。
カナデに関してはその悲鳴を聞いて若干引いてしまっている。
しかし、ルクスからすれば可愛い女の子に引かれるより上司に報告されてしまうことの方が重大だった。現段階でセイクスの逆鱗に触れかけている手前、今回の件が耳に入ったらどうなるかは容易に想像が付く。例えその報告にどんな丁寧な口添えをしようとも、その未来が変わる可能性は一ミリたりとも存在しない。
「いい加減にしろ、このバカが」
見かねたリアがルクスの頭をぺしんと叩く。
「やっちまったのは俺らだろ。今回はただでさえ支部の人たちに迷惑かけてんだ。お前の気持ちはわかるが、ここは甘んじて受け止めろ」
「でも・・・だって・・・」
「減給の件は仕方ねえよ。潔く諦めろ」
「ううう・・・。リア、巻き込んでごめん」
「そんなこと気にしてんのか、バカ。俺のことは気にしなくていいから目の前の人たちにちゃんと謝れ、アホ」
リアはルクスにそう言うと、キルティスの方に向き直り礼儀正しく頭を再度下げる。
「調査の件といい、今回の件といい、ご迷惑ばかりかけてしまい本当に申し訳ありません。心から謝罪させていただきます」
リアは綺麗に言葉を紡ぎ、謝罪の意を込めて素直に頭を下げる。
内心、昨日喧嘩をふっかけたのは自分だったかもしれないという、ルクスに対しての申し訳なさも少しばかりこもっていたりもした。
「はあ、いいですよ、もう。とりあえず、セイクス管理官への報告の件は保留とします」
キルティスはため息交じりで言葉を発した。
「え、本当ですか!?」
ルクスがすごい勢いで頭をあげる。それを見たリアが即座に拳骨を食らわせた。
「いってぇ・・・!」
「いい加減にしろ、バカ」
その様子を見たキルティスは小さく笑う。横にいるカナデもつられて顔が引きつっていたのが垣間見えた。
「ええ、報告はとりあえずしないでおきます。でないと本題の方に話を持って行けそうにありませんから」
「本ッ当にありがとうございます!!」
直後にゴン!! と鉄槌が下る。もちろんリアからだった。
「なんでまた殴るんだよ!?」
「声がでけえ。ちゃんとお礼をしろ、アホ」
「したじゃん! めっちゃ心込めたよ! 俺!!」
「キルティス支部長、お心遣いに感謝します」
「いえいえ。では本題に移りましょうか」
「ええ、そうですね。よろしくお願いします」
「ええ・・・? ナンデぇ?」
リアとキルティスはルクスをそっちのけにし、軽やかな会話をする。突然の話題の転換について行けないルクスは情けない言葉を口にしながら二人を交互に見渡す。
二人ともルクスのことは完全に眼中から外れていた。
思わずカナデの方に顔を向ける。
カナデは笑っている姿を見られまいと、顔を壁に向けしゃがみこんでいた。
その背中はわずかに震えているようにも見える。
「・・・ナンデぇ?」
そんな言葉が口から漏れ出る。
ルクスの脳裏にはなぜか、仲間はずれという言葉が浮かび上がっていた。
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