出張帰りの車内で隣になったひとは、高校卒業で離れ離れになった今でも好きな幼馴染でした。

例の山田くん ver.K

出張帰りの列車の中で見かけたそのひとは

「やっと終わったぁ」



わたしは今、出張を終えて京都へ帰るため溜息着きながらタクシーに乗り込む。



「高知駅までお願いします」



行先を告げるとすぐにタクシーが走り出す。

すぐに終わるかと思っていた仕事がトラブルがあった。

そのためとんでもなく遅い時間に仕事が終わった。


でもこうなることは事前に予測できていたので、わたしは今の時期にしか運行されていない夜行列車の指定席をとっていたのだ。


タクシーが高知駅に着いてすぐホームに行くと。目的の列車が止まっているのが見える。



「なんとかムーンライト高知の発車には間に合ったわね」



わたしは指定席で指定された車両に乗り込み、カーペット席に腰を下ろす。



「本日も、JR四国をご利用いただきまして、ありがとうございます。

この列車は、ムーンライト高知 京都行です。

止まります駅と到着時刻をご紹介します」



車内放送が流れる中寝る準備をしていると、一人の男性が車内に入ってくる。

その人の顔を見て、既視感を覚えた。



「この人、昔好きだった幼馴染に似てる」



わたしは心の中でそう思った。

その幼馴染のことは今でも好きなんだけど。

その人のことをじっと見ていると、その人がこちらを向く。

わたしはとっさに目をそらす。



「幼馴染に似てる」



一瞬見えたそのひとの顔を思う。

その直後、隣に誰かが座る。

見たらさっき目が合った幼馴染に似てるひとだった。



そのひとはわたしの隣に腰掛ける。



「やっぱり似てる」



改めて隣に座ったそのひとにばれないようにじっくり顔を見る。

見れば見るほど今も好きな幼馴染に思える。



「でも、まさかね」



わたしはそのひとのことを見るのをやめて、再び寝る準備をする。



「ムーンライト高知 京都行、間もなく発車します。

ドアが閉まります。ご注意ください」



車掌さんの案内の後ドアが閉まる音が聞こえる。

そしてそこからすぐ、列車が高知駅を発車する。

発車してすぐわたしはカーペットに横になり、毛布にくるまって眠りについた。


+++++


『俺、昔から悠里のことが好きだった。

もし今彼氏とかいないなら付き合ってほしい』

『うん、わたしも優斗くんのことが昔から好き。わたしもあなたと付き合いたい。

これからよろしくね』

『うん、よろしく』



......



「ん」



窓から差し込む日差しでわたしは目覚める。

わたし、なんであんな夢見たんだろう。

現実には起こるわけないのに

そう思いながら体を起こす。



「明日休みでよかった」



ひとりつぶやきつつ周囲を見る。

そしたら隣から話しかけられる。



「あの、すみません」

「え、はい」



突然のことだったので驚きながら隣を向く。



「間違っていたらすみません。

もしかして石井悠里いしいゆうりさんですか?」



自分の名前を隣のひとが発して驚く。

まさかそんな、そう思ってわたしは隣のひとに問い返す。



「ええ、そうですが……同じような質問をさせてください。

もしかして、矢野優斗やのゆうとさんですか?」

「そうです。そして、やっぱりそうだったのか。

久しぶりだな悠里、何年ぶりだっけ」

「高校以来だから7年とか8年ぶりくらい?」

「そうか、離れ離れになってからそんな経つのか」



わたしは隣のひとの正体が幼馴染だったことに驚きつつも、なんという運命のめぐりあわせなんだろうと思った。

それからわたしたちはいろいろな話をした。

高校卒業後の話や仕事の話、プライベートの話。

話をするうち、列車が終点の京都駅にたどり着く。



「え、悠里って京都に住んでたのか?」

「そうだよ、京都市内。優斗も京都に住んでたの?」


列車を降りて京都駅のホーム上で話していると、お互いの住んでいる場所の話になる。



「ああ。といっても福知山のほうだけどな」

「そうなんだ。わたしは京都市内に住んでるからそりゃ県内住んでても会わないよね」




お互いに住んでいる場所を言った瞬間、優斗が突然考え込む。

どうしたのだろうと思っていると突拍子もないことを言い出す。



「福知山と京都市内なら特急ですぐだな。

ならさ、これからは都合がいいときには会えないかな?」



優斗からそんな提案が出される。

わたしは即答で答える。



「いいよ、会おう」



それからわたしと優斗はたびたび会うようになり、

会う回数を重ねるたびどんどん優斗のことが好きになっていった。


列車内での最下位から半年くらいして、優斗のほうから告白するかたちで恋人同士となった。

それからも順調にデートを重ね、愛を確かめ合った。

そして列車内での再会から2年経った今日。



「わたしと結婚してください」



今度はわたしのほうから結婚を申し込む。

優斗は嬉しさを抑えきれないのがわかる笑顔でうなづいた。



「はい、喜んで」

「ありがとう」



まさかあの日見た夢が本当になるなんて。

わたしは思わず優斗の前で泣いた。



数日後、わたしは優斗と一緒に区役所に行って婚姻届けを出し、夫婦となった。

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出張帰りの車内で隣になったひとは、高校卒業で離れ離れになった今でも好きな幼馴染でした。 例の山田くん ver.K @Tuned_Yamada

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