異世界魔女、ESP対策室に転移する。

まるまるくまぐま

第1話 夢の終わりの少女

 俺はどこにでもいる普通の学生。

 

 そうであれたなら、どんなに良かったことか。生まれ持った特異な性質のせいで、碌な人生を歩めない気しかしない。

 

 ぱっと見は、どこにでもいる少年である俺、蘇我|衛理えいり。高校受験を間近に控えた現在15歳の中学生だ。

 普通であれば、受験勉強をしつつ、遊び惚け、身の丈に合った学校への合格に向けて勤しんでいるのだが、そうもいかないのだ。



「曽我!!さっさとしろ!!」

 ツンツン髪の如何にも粗暴といった見た目の男に怒鳴られて、堅そうな椅子にガチガチに縛り付けられた男の前に引っ張られる。

 縛り付けられた男は、ある力を行使し、何人もの人々を暴行し殺した残虐な殺人犯。しかし、彼の行った行為も、起った事件も、一切公表されていない。なぜなら…

「こいつが目覚めたのは、1年前です。」

 科学的根拠など一切ない、不可思議な能力、所謂超能力というものを行使して行われたものだからだ。

「そうか…こいつもまた、加工品か…天然物以外は無意味、処分しろ。」

 スーツ姿の中年男性がそう言うと、ツンツン頭の男が手から放った炎でそいつは焼かれてしまう。

 

 そんな日常では有り得ない、残虐で非人道的行為が行われるこの場所は、ESP対策室の日本支部。所謂超能力者を集めた組織であり、超能力者による事件や事故を秘密裏に処理する国際機関だ。今、こうしてこの場にいる僕も、超能力者である。

 超能力者には二種類ある。生まれ持った超能力者、所謂天然物と、さっきの焼き殺された男の様に、後天的に身に着けた加工品と呼ばれる者。

 本来、超能力者は天然物以外いなかった。ただ力に目覚めていないだけで、元々その力を有する者がそう呼ばれていたのだが、数年前から、加工品と呼ばれる者たちが世界各地に現れ始めた。

 加工品の出所と、その主犯格を調べるべく、ESP研究所は動いているのだが、未だその尻尾を掴めていない為、日夜活動しており、そういった者たちが捕まる度に、僕は呼び出されるのだ。


「帰っていい。」

 その言葉を聞いて、僕は研究所から送り出される。決して人目に点かない地下空間に設けられたこの施設へは、移動手段としての足が、公共交通機関と自転車くらいしかない僕は、毎度送迎のサービスがある。尤も、場所を隠す為の処置なんだろうけど。

 そんなこんなで自宅へと送られる最中、火の玉の様な不可思議で不自然な光を見た。

 まあ、超常現象なんかなんでもありな空間だし、誰かの超能力によるものだろう。そう思い、気にも留めなかった。その光が意味することを知るのは、翌日だった。



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ーーーーー



 不思議な夢を見た。

 まるで、ゲームや物語の世界で、魔王を倒す勇者とその仲間たち。その夢の登場人物たちに見覚えはない。

 彼らは見事魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした。

 夢ならここで終わりそうなのだが、何故か続く。平和となった世界で、勇者は再び剣を取った。再び集結した仲間たちと共に、扉を出て行く。そして、それを見送る小さな少女が見えた瞬間、夢から覚めた。

「知らない記憶…」

 自分ではない誰かの記憶なのだろうか?そんなものを夢で見るのは、久しぶりだった。


「超能力者からの干渉の可能性もある、また似たようなことがあったらすぐに連絡しなさい。」

 そんな夢を見たことを、支部長に伝えたら、そんな答えが返ってくる。

 確かに、その可能性もあり得るわけなんだけど、その場合、僕が狙われているってことだ。それは本当に困る、なんせ、僕の超能力は全く戦闘向きでないし、僕自身に戦闘力は皆無なのだから。

 そんな可能性がないことを、切に願った。


 けたたましく響く警報。

「何事だ!?」

 支部長が叫ぶ。

「捕らえていた加工品が檻を抜け出しました!!」

 研究者風の男がそう答える。

「あの実験体か!?あれ程警戒を怠るなと言っただろう!!」

「すみません!!投薬実験の直後の隙きをつかれました。如何せん、人に使う様な薬ではないので、皆浮きだっておりまして…」

 なんだろう、何故かとんでもなくマッドな実験が行われている気がするんだけど…

 響き渡る警報さえ小さく感じる程の轟音が響く。

「殺してやる!!」

 溢れ出す殺気が目視出来そうな程目を血走らせた上半身裸の男が壁を破壊して現れる。

 そんな現場へ戦闘職の超能力者たちが駆けつける。

「おい!!なんだよこいつ!!捕まえた時よりも滅茶苦茶強ぇじゃねぇか!!」

 数人掛かりでも押される超能力者たちが叫ぶ。

「知るか!!そんなことよりも、珍しい生き残りだ!!生かして捕らえろ!!」

 支部長の命令。ああ、ホント、碌な組織じゃないなぁ、ここ。

 そんな命令も虚しく、倒れていく超能力者たち。いち早く逃げないと…

 そう思った時だった。

「それじゃあ、後は任せた。」

 何かのボタンを押した支部長の立つ床が浮き、通路が無くなる。

 この糞野郎!!一人だけ逃げやがった!!どんだけ無責任なんだよ!!

 ああ、終わった。そう思った時、先日見た火の玉が現れ…

「ウワァッ!?」

 強烈な光を放ち、視界が真っ白になる。


「√∥⊇∷⊂∋∋∣∈∉∩ζδ」

 何処の国の言葉なのか、全く分からない言葉が耳に届く。

 視界が晴れた時、目の前にいたのは、夢の終わりで見た少女だった。

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