第145話 どうやってかえろう?

 火曜も朝から馬の王メアラスに乗って岩場でビッグバードを討伐する。

「最後に木の蛇ヴィゾーヴニルが呼んだビッグバードみたいですね。本当に迷惑な奴だ」

 サリンジャーさんも木の蛇ヴィゾーヴニルが嫌いみたい。

 ビッグバードをかなりの数、討伐したけど、王都に帰って大丈夫なのかな?

「まぁ、騎士団がビッグバードに手こずったら、上級魔法使い達を派遣しますよ」

 相変わらずゲイツ様は部下の扱いが酷い気がする。

「さて、サクサクと討伐して回りますよ!」

 

 いつもの3箇所を回って、ビッグバードをかなりの数を討伐した。

 ゲイツ様とサリンジャーさんは真っ直ぐに基地キャンプに帰るけど、私は馬の王メアラスの運動に付き合う。

 それにこの時間は、パーシバルと2人きりだからね!

「これで羽毛布団には困りませんわ」

 パーシバルが少し呆れている気がするけど、気のせいだよね。

「確かに冬中の肉は確保しましたね!」

 そう、お肉は沢山貰えそう。

「ビッグボアは、保存用に処理したいと思っています」

 部位によっては、ハムやベーコンも良いけど、チャーシューも作りたい。


「パーシー様、カルディナ街に連れて行って下さいね。調味料を使い果たしてしまいましたの」

 パーシバルが笑って了承してくれた。

「ペイシェンスのソース、とても美味しかったです。私も欲しいから、買い物に行きましょう!」

 やったね! カルディナ街デートだ!

「今週末は、モンテラシード伯爵家のルシウス様の結婚式ですね。ペイシェンスはブライズメイドだと聞きました。楽しみですね」

 うん、パーシバルと一緒だから楽しみだよ! アマリア伯母様が選んだドレスは少し不安だけどね。フリフリな予感!


 朝からの討伐を終えて、昼食後にロマノに帰る予定だ。従者達は、基地キャンプで荷物の片付けをしている。

 ただ私の場合は、馬の王メアラスがいるから、馬車では帰れないかもしれないのだ。

「パーシー様が馬の王メアラスに乗って下さると良いのに……我儘で困るわ」

 まだ、馬の王メアラスはパーシバルだけでは乗せてくれない。私と一緒じゃないと駄目なのだ。

「ペイシェンスはロマノまで乗っていられますか?」

 そんなに長距離を馬に乗って移動するなんて自信ないよ。


 やっと基地キャンプに着いたから「綺麗になれ!」と私達や馬の王メアラスに掛けてから、パーシバルに馬房へ連れて行って貰う。

 私はトイレに急がなきゃいけないからね。


「パーシー様、お昼を一緒に!」

 馬房に行ったら、バレオスが馬の王メアラスの状態をチェックして、褒めてくれた。

「ペイシェンス様は、乗馬の技術は無いが、手入れは素晴らしい。馬の王メアラスはとても調子が良さそうです。それにピカピカだ」

 愛おしそうに見つめているけど、馬の王メアラスが大使館に行かないのは、まだ知らないのかもね。

 一旦は、王立学園の特別馬房にスレイプニルを全頭集めて慣らすみたい。

 今も15頭ずつ分けたスレイプニルは、お互いに自国の騎士が世話をしているけど、デーン王国の騎士も王立学園に来るのかな?


 馬房に馬の王メアラスを預けて、食事場にパーシバルと向かう。

「ペイシェンス様、申し上げ難いのですが、学生が討伐した一番の大物は王立学園に寄付されるのが伝統なのです」

 パーシバルが少し言いにくそうに教えてくれた。去年は、リチャード王子が討伐したビッグボアだったよね。

「ええ、私も上級食堂サロンでビッグボアのステーキを頂きましたから、寄付するのは構いませんよ」

 お肉はいっぱい貰えそうだし、寄付しても魔石と牙は後で貰えるみたい。


「ペイシェンス、ちょっと来てくれないか? あっ、パーシバルも一緒の方が良いだろう」

 リチャード王子に、お偉いさんのテントにドナドナされちゃった。

「今回の討伐では、ペイシェンスはスレイプニルの捕獲に多大な貢献をしてくれた。それで、凱旋パレードをしたらどうかと第一騎士団長は言っているのだが……」

 えっ、それは嫌だよ。

「まだ馬の王メアラスに乗るのも怖いのに、パレードなんて無理ですわ」

 リチャード王子は残念そうだ。

「あれほど立派なスレイプニルは、誰も見たことがないのだ」

 見なくても生活に支障ないよ。キッパリ断ろうと思ったのに、ゲイツ様と第一騎士団長がテントに入って来た。


「ペイシェンス様、馬の王メアラスの所有者だと印象付けるのは良い事ですよ。デーン王国の人達は、スレイプニルの事になると常軌を逸した行動をしやすいですから」

 ゲイツ様の意見に、第一騎士団長も頷いている。

「いえ、私は馬の王メアラスに乗るのがまだ怖いのです。パレードだなんて、とんでもないですわ」

 第一騎士団長は、馬に乗るのが怖いと私が言ったのに愕然としている。

馬の王メアラスの所有者なのに、それでは困るでしょう。ペイシェンス様はサリエス卿の従姉妹でしたね。彼を乗馬訓練に派遣します!」


 いや、それは……乗馬訓練はしなくてはいけないとは思っているけど、レベルが低すぎるのだ。

「あのう、サリエス卿に来て頂くレベルではありませんの。乗馬台が無いと馬に乗れませんし、降りるのも乗馬台が無いと駄目なのです。せめて降りられる様になりたいと思っていますわ」

 第一騎士団長は、驚いたみたい。

「ええっと、では馬の王メアラスで討伐に行かれていますが、どうやって降りているのですか?」

 恥ずかしいけど正直に言わないとサリエス卿が乗馬訓練に派遣されちゃう。

「いつもはパーシバル様に降ろして貰っています。それか、馬の王メアラスが跪いてくれたら、なんとか滑り降りています」


 リチャード王子も第一騎士団長も呆れたみたい。

馬の王メアラスに跪かせる事ができるのに、自分で乗り降りできないのか? 凄く不思議だ」

「馬に跪かせるのは、高度な乗馬技術です。それができるのに、何故、乗れないのだ?」

 ゲイツ様がケタケタ笑う。

「ペイシェンス様だから馬の王メアラスは跪くのですよ。主人が乗馬が凄く下手だとわかっているからですね! それに馬の王メアラスは、魔法も使えますから、ペイシェンス様の思考を読んでいるのでしょう」

 全員が驚いた。えっ、パーシバルは気がついていなかったの?


馬の王メアラスは、魔法を使えるのですか?」

「ええ、パーシバル様も一緒に乗っていたでしょう? 雪や風を防いでくれていましたわ」

 パーシバルは、愕然としている。

「それはペイシェンス様が魔法を掛けておられるとばかり思っていました」

 ああ、そうすれば良かったのかも?

「でも、あんなに揺れていたら、魔法を掛けるのは無理ですわ。木の蛇ヴィゾーヴニルとパーシバル様が戦われていた時も、魔法で援護しようとしても、馬の王メアラスが毒の風や風の刃を飛んで避けるから、集中できませんでしたの」

 ゲイツ様に叱られたよ!

「そんな事では、私の後継者になれませんよ!」

「いえ、それはお断りした筈ですわ。それに年が近いから無意味だと思います」


 リチャード王子が、ゲイツ様と私の言い争いを止めた。

「それは、後でゆっくりと話し合って下さい。そうか、馬の王メアラスはペイシェンスの事を、乗馬が下手と知っているのに主人に選んだのだな。これで、デーン王国側が文句を付けて来ても、厳しく対応できる」

 リチャード王子が愉快そうに笑う。

「ペイシェンス様は、スレイプニルの群れも一瞬で汗を拭き取ってピカピカに手入れされていました。馬の王メアラスは、そこが気に入ったのでしょうか?」

 第一騎士団長は、褒めているのか微妙。


「ふふふ、それも馬の王メアラスは気に入っているでしょうが、ペイシェンス様がスレイプニルを捕まえようとは少しも考えていないから、主人に選んだのでしょう。つまり無欲の勝利なのです」

 ゲイツ様の言葉にリチャード王子も第一騎士団長もパーシバルさえも「そうか!」と納得した。

「私は今でも馬の王メアラスは、自由に走っている方が良いと思っています」

 ずっと、そう感じていたのだ。

「そう思われるペイシェンス様だから、馬の王メアラスは側にいる事を選んだのですよ。それに自分が護ってやらないといけないと感じたのかもしれませんね。魔法は凄いけど、どうも少し頼りないところがありますから」

 全員が頷いている。


「そんなに頼りないかしら?」

 パーシバルは、答えに困っているみたい。

「そこもペイシェンス様の魅力ですから」と言うことは、頼りないって思っているのだ。

「これからは、頼り甲斐のある婚約者を目指します!」

 ふんす! と宣言したら、全員に爆笑された。

「これは、オーディン王子やアルーシュ王子が嫁に欲しいと言う筈だ。能力の高さも認めているのだろうが、笑わせてくれる相手との結婚は楽しいだろうからな」

 ちょっと、リチャード王子、パーシバルの前でそんな事を言わないでよ!

「それに料理が上手いのです! ペイシェンス様、私の屋敷の横に住みませんか? 今は別の人が住んでいますが、すぐに退かせますから!」

 いや、それは遠慮しておくよ。

「ゲイツ様の隣の屋敷は、確かバーモンド侯爵が住んでおられるのでは?」

 第一騎士団長が首を捻っている。

 ゲイツ様は問題ないと言うけど「新居は見つけましたから」とパーシバルが断ってくれた。


「ふむ、あのソースはどれも美味しかったし、キャベツスープも絶品だった。あっ、空き家といえば、私の屋敷の横も空いているのだ!」

 ガブリエル第一騎士団長は、ソーンズ伯爵家の次男で、貴族街に屋敷を買って貰っているみたい。パーシバルの説明を聞いて、破顔する。

「お隣さんだな! よろしく頼む!」

 隣が第一騎士団長の屋敷なら、防犯面は安心だね。


「狡いです! 私も隣に住みたいです。ガブリエル様、屋敷を交換しましょう!」

 げげげ、それはやめて欲しい。

「ゲイツ様は、王宮の横の屋敷ではありませんか! 何かあった時にすぐに駆けつけられるから、その屋敷を賜られているのでしょう!」

 第一騎士団長がキッパリと断ってくれた。

「いや、騎士団長が一番に王宮に駆けつけた方が良いと思う」

 リチャード王子が重臣2人の言い争いに呆れている。


「ゲイツ様は、調理助手を2人もエバに教育させるのでしょう? いつでも美味しい料理を食べられますわ」

 その為の派遣だよね?

「でも、ペイシェンス様は、次々と新しいレシピを考えられるから、助手はいつまでも屋敷に呼び戻せません。それに、やはりペイシェンス様が自ら作られる料理は一際美味しいのです。あんなキャベツスープは飲んだ事がありません」


 これには、リチャード王子も賛成する。

「確かに、あのキャベツスープは美味しかった。私もロマノ大学で時々出てくるキャベツスープは、あまり好きではないのだが、全くの別物だ」

 それは、材料が違うからだよ。

「ビッグバードの骨で出汁を取り、ビッグボアの肉の細切れからも良い出汁がでていますもの。それにあのキャベツの酢漬には、海塩をつかっていますから、味もいいのです」

 リチャード王子は、製塩場の塩がこれほど料理に影響を与えるのだと知って、驚いていた。

「確かに海塩は、しょっぱいだけでなく、少し味があるとは思っていたが、これはもっと宣伝が必要だな」

 頑張って宣伝して下さい。私も少し考えている事があるからね!

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